法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

小説

『嘘月』杉山幌著

電子雑誌『BOX-Air』で連載され、2011年に講談社BOXから出た連作短編小説。第1話は試し読みできる。 講談社BOX:講談社BOX×BOX-AiR 単行本化第一弾|講談社BOX|講談社BOOK倶楽部 超能力者を集めた学園へ潜入した、無能力者の主人公。学園で起きる小さな事件…

他者を異物とみなす諸問題を描いた小説『ジェノサイド』に対し、日本の虐殺行為も描かれているから反日小説だと評する謎

『ジェノサイド』という小説は、新生物との衝突をとおして、人類という生物種の本能が虐殺の原因なのかと問いかける。 『ジェノサイド』高野和明著 - 法華狼の日記 そして、そう問いかけた結果として、一部から「反日」小説と呼ばれている。インターネットで…

『ジェノサイド』高野和明著

アフリカ奥地に誕生したという、人類を滅亡させかねない新生物。 その新生物の処理計画の立案と指揮をまかされた米国の学者ルーベンスと、その計画を遂行する傭兵イエーガーと、謎の新薬開発にかかわる大学院生ケントの視点を中心にしながら、人類が新種と同…

『キミとは致命的なズレがある』赤月カケヤ著

子供時代の記憶を喪失した少年に、不思議な手紙が舞いこむ。その手紙に差出人の名は書かれておらず、ただ「――この手紙の差出人を見つけてください。さもなくばあなたは不幸になります」とだけ書かれてあった。その時から、同じような手紙が毎日のように出現…

『美少女を嫌いなこれだけの理由』遠藤浅蜊著

まさにライトノベルに出てくるような外見をもった種族「美少女」が、人類と共存している世界。美少女は、人間に奉仕することに喜びをおぼえる本能を持ち、それぞれキャラクターにあわせた特殊能力を持っている。 美少女の父と人間の母の間に生まれた主人公の…

『永遠の0』で広がる視界はゼロ

なぜ漫画版を基本に感想を書くことにしたか 朝日記事で石田衣良から「右傾エンタメ」と批判されていた小説『永遠の0』を、本そういち*1が漫画化したもの。第1巻の第一話はインターネットで試し読みできる。 永遠の0|無料・試し読みも【漫画・電子書籍のソ…

『これはペンです』円城塔著

初めて読んだ円城塔作品。雑誌『小説新潮』に掲載された二作品を収録。 小耳にはさんでいた難解という評価どおり、最初はとっつきにくかった。しかし読み進むにつれて、インターネットで厳密な文章を求められてきた人間として、感覚的に納得できるようになっ…

『密室殺人ゲーム・マニアックス』歌野晶午著

トリックを用いた殺人を実行し、匿名チャットを通して、仲間うちで推理しあう愉快犯。今回は仲間うちだけで推理するのではなく、そのチャット風景がインターネットに広く公開されてしまう。 連作短編『密室殺人ゲーム』シリーズの第三弾。カバー扉の著者によ…

『とある飛空士への夜想曲』上下巻 犬村小六著

巨大な落差によって大海が分断され、飛行機械が発達した世界。二つの大国の境界近くにある、資源採掘のために作られた軍艦島。そこで育った少年と少女は、それぞれの道を歩き、やがて空軍のエースと国民的な歌手となる。 そして対立していた二つの大国が戦争…

『6.6光秒のマトリクス』

四百字詰め原稿用紙20枚ほどの短編スペースオペラ。ある程度の刺激的な性的描写、政治的に正しくない描写に注意のこと。 『6.6光秒のマトリクス』 ほの暗い空間で、湿った吐息が二重奏をかなでる。 少年はコクピットハッチを見あげ、つぶやいた。 「――な…

戦争で犠牲を強要された売春婦の歴史的な小説

『脂肪の塊』という小説は初耳だった。 2013-05-15 これは日本に限った話ではなく、モーパッサンの『脂肪の塊』では、普仏戦争におけるエピソードとして、セックスワーカーに犠牲を強いる人々の姿が描かれています。 たしかにwashburn1975氏が引用している部…

『アルカトラズ幻想』島田荘司著

連載小説を大幅に加筆訂正した作品だそうだが、あまりにも一本の小説としてまとまりがない。 戦前米国で発生した事件を刑事が追う「意図不明の猟奇」。 恐竜への古い固定観念を批判しトンデモ仮説を提示する「重力論文」。 離島の巨大監獄での短い生活と、と…

『南極点のピアピア動画』野尻抱介著

「ニコニコ動画」を模した動画投稿サイト「ピアピア動画」で技術がつながり、「初音ミク」を模した仮想アイドル「小隅レイ」で人心がつながっていく。そんな近未来の楽天的な未来像を描いたSF連作短編集。 2007年から2012年にかけて発表した三作品に書き下ろ…

『パーフェクトフレンド』野崎まど著

小学四年生となった秀才少女が天才少女と出会い、友達とは何かという謎を解いていく、ミステリでSFでファンタジーな物語。 友達とは何かという問いに、フィクションとして考えられる方向性の答えを全て示しつつ、ひとつの物語として着地する。頁数が少ないこ…

『トーキョー・プリズン』柳広司著

敗戦直後の日本。東京裁判が始まったばかりのある日、巣鴨プリズンで謎の毒殺事件が発生する。謎を解く探偵役は、戦時中の記憶を喪失しているBC級戦犯容疑者。ワトソン役をつとめるのは、戦時中に行方不明となった兵士を探しにニュージーランドから来た私立…

『蛍』麻耶雄嵩著

奇矯な音楽家が山奥に建てた奇妙な館。そこで音楽家は、自ら集めた楽団の仲間を一夜のうちに殺してまわり、自らの命も失う結果となった。 それから十年。事件に興味をいだいた大学生達が、事件を再現しようと補修を続ける館で合宿を始めた。そして雨が降り続…

『ミステリクロノ3』久住四季著

天使の落とした道具「クロノグラフ」。今回は装着された者が幼児退行していく「リグレスト」というクロノグラフが登場する。 それどころかクロノグラフ回収を命じられた天使が誘拐され、主人公と友人は街を東奔西走する羽目になる。 表紙イラストが主人公の…

『ミステリクロノ2』久住四季著

天使の落とした道具「クロノグラフ」。その中で一定期間の記憶を奪う能力の「メメント」*1が、とある優等生な少年に対して使用された。記憶を失った少年はひきこもり、その少年に対して因縁をつける二人組の不良が出没し、少年に恋人という立場を信じてもら…

『[映]アムリタ』野崎まど著

ライトノベル新人賞へ投稿された作品群から、一般向けとライトノベルの中間的な作品を選ぶメディアワークス大賞。その第一回目を受賞した作品。 舞台は芸大。俳優志望の青年が、天才少女が監督する自主制作映画へ参加するところから物語がはじまる。その天才…

『虚構推理 鋼人七瀬』城平京著

妖怪が存在する世界で本格推理を展開し、第12回本格ミステリ大賞を受けた作品。 ただし、西澤保彦作品のように超常的な条件を考慮して謎を解いていくわけではない*1。超常的な事件が実際に起きていると知りつつ、現実に存在しそうな答えを捏造して、社会の秩…

『六花の勇者』山形石雄著

復活がせまる魔王を封印するため、呪術的に選ばれた六人の勇者が集まろうとしていた。しかし魔族のいる地域と人間のいる地域を分断するための結界が、何者かの手によって発動し、勇者は一帯に閉じこめられてしまう。 広義の密室状態で、結界を発動させられた…

「必要」と「限界」の違い

はてなブックマーク - 「必要悪」という言葉はしばしば犠牲を強要する口実となる - 法華狼の日記 id:gryphon 「必要悪」を「現状(当時)における限界」と言い換えると、表現がソフトで反発を買わなくなる、というのは参考になる重要な知恵。 ただの用語の言…

「必要悪」という言葉はしばしば犠牲を強要する口実となる

横から口を出す形になるかもしれないが、昔にかかわったこともあり、気になったので。 Naoki Takahashi氏の「まおゆう魔王勇者」解説。まおゆうは本当にネオリベで戦争賛美なのか? - Togetter window.twttr = (function(d, s, id) { var js, fjs = d.getElem…

『まおゆう魔王勇者』のきつさは1スレッド目でわかる

もちろん一般論として、完結した作品を評価するなら最後まで目を通してから、という意見もわかる。部分的に読んだなら、そう読んだ程度の感想でしかない。過去に言及した時は、そう私も書いた記憶がある。 ただ、『ソードアート・オンライン』のTVアニメを最…

『IX』古橋秀之著

ギリシャ数字で書かれたタイトルの読みは「ノウェム」。2003年に電撃文庫から出た、武侠小説風ライトノベル。 過不足なく説明された設定に則った戦いの駆け引きは冴えており、読んでいて展開に違和感を生じるところはない。登場人物の命が安いこともふくめて…

『鏡の迷宮、白い蝶』谷原秋桜子著

美波の事件簿シリーズで、『手焼き煎餅の密室』と本編三部作を繋ぐミッシングリンクにあたる。連作本格ミステリとして、東京創元社文庫に書き下ろされた。 特に表題作が素晴らしい。暗号物から日常の謎、横溝正史の某作を思わせる錯誤など、様々なトリックが…

『手焼き煎餅の密室』谷原秋桜子著

美波の事件簿シリーズの前日譚。連作本格ミステリとして、東京創元社文庫に書き下ろされた。 表題作に「密室」とあるが、これは肩透かし。手焼き煎餅は真相を思いつくきっかけとして処理される。小さな犯罪のホワイダニットとして読めば、そう悪い内容でもな…

『天地明察』冲方丁著

日本独自の暦を作った渋川春海と、和算の始祖となった関孝和が、改暦において接点があったという史実に残る一文。それをふくらませて、時代の変革を改暦に象徴するように、太平の時代を前にした江戸時代初期の激動を描く。 ちょうど映画が公開中で、同時代を…

『コーンフィールドゾンビ』

ゾンビを飼育できるようになった世界での、架空の北米小村。その共同体から疎外された男と、ゾンビとなって飼育されている女の、出口のない交流を描いた短編小説。 http://ncode.syosetu.com/n7910bf/ 「あんたは寒さを感じねぇか。クックッ、羨ましいぜまっ…

『奥ノ細道・オブ・ザ・デッド』森晶麿著

古典「奥ノ細道」に題をとり、時代小説を思わせる筆致で、蘇った屍人が徘徊する暗黒の江戸時代を描いた作品。その基本設定をあらわす直截的なタイトルにインパクトがあったらしく、「日本タイトルだけ大賞2011」に輝いた。 しかし、ゾンビ映画は低予算でも制…