法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『アルカトラズ幻想』島田荘司著

連載小説を大幅に加筆訂正した作品だそうだが、あまりにも一本の小説としてまとまりがない。


戦前米国で発生した事件を刑事が追う「意図不明の猟奇」。
恐竜への古い固定観念を批判しトンデモ仮説を提示する「重力論文」。
離島の巨大監獄での短い生活と、とある計画に巻き込まれるまでを描く「アルカトラズ」。
監獄から突然に空想的な舞台へほうりこまれ、小さな女性との淡い関係を幻想的に描く「パンプキン王国」。
全てが終わった後に説明される「エピローグ」。


たしかに連鎖しながら次の章へ移っていくのだが、先の章で問題提起されたことが完全に解決しないまま、一人の奇妙な犯罪者の一生として物語が終わってしまった。
「意図不明の猟奇」は刑事物として楽しめなくもなかったが、作中で指摘されるように見た目ほど猟奇的な事件ではない。しかも面白い解明などは登場せず、次の章で動機が解明されるだけで捜査は終了する。
「重力論文」は論文といいつつ恐竜エッセイのようで、戦前に書かれたという設定もあって、恐竜好きには一般的な話に終始する。そもそも事件の動機につながるとはいえ、長々と論文をそのまま作中にいれこまれても、いつものこととはいえ反応に困る。
「アルカトラズ」は監獄物として単体で楽しかったが、主人公が無感動な性格で巻き込まれるため、良くも悪くも厚みはない。
「パンプキン王国」にいたっては、何が起きているのか日本人読者なら半分の見当がついてしまう。残り半分も、先の章で示された新型兵器の噂と合わせて、ちょっと歴史の知識があれば解けるだろう。
「エピローグ」は、前章の時点で真相に見当がついているため、幻想が現実へ解体される面白味が薄い。主人公の精神錯乱にたよっているところも今一つ。
個別のパートは読んでいて楽しめなくもなかったが、それでも冗長に感じてしまった。特に、ネタの見当がつく手品を長々と見せられる「パンプキン王国」がつらい。せめて新型兵器の存在に前章で全く言及しなければ、少し意外性があったかもしれないのだが。