法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『密室殺人ゲーム・マニアックス』歌野晶午著

トリックを用いた殺人を実行し、匿名チャットを通して、仲間うちで推理しあう愉快犯。今回は仲間うちだけで推理するのではなく、そのチャット風景がインターネットに広く公開されてしまう。


連作短編『密室殺人ゲーム』シリーズの第三弾。カバー扉の著者によると、今作は本来の構想にはなかった作品だという。第二弾と同じく、今回も個々の事件の出来は悪くない。そして連作が繋がっていき、意外な真相が明かされるのだが……
連作全体の趣向があるため、実質的に二つの事件しかミステリとして提示されておらず、薄い頁数から予想していたよりも密度が薄い。全体の真相に気づかなければ、肩透かしが意外性を演出しただろうとも思うのだが。


Q1は、ある意味で島田荘司の提唱する「21世紀本格」を思わせる。現実に実行可能そうなトリックでいて、ちょっと特殊な技術を利用しているため、読者の立場では釈然としないという。ただ伏線はそれなりにはってあるし、このシリーズらしい趣向でもある。
Q2は、さらに「21世紀本格」に近い。しかも現実には不可能だろう。不自然なトリックでも現実で実行できたという設定に裏打ちされるこのシリーズの、根幹をゆるがしかねない。しかし、それが全体の伏線であるともいえる。
Q3は、連作の趣向を優先して、トリックが判然としないまま物語が終わってしまう。連作全体の真相に見当がついてしまっていたため、せめて個別トリックの概要くらいは見せてほしかったのだが。