法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『虚構推理 鋼人七瀬』城平京著

妖怪が存在する世界で本格推理を展開し、第12回本格ミステリ大賞を受けた作品。
ただし、西澤保彦作品のように超常的な条件を考慮して謎を解いていくわけではない*1。超常的な事件が実際に起きていると知りつつ、現実に存在しそうな答えを捏造して、社会の秩序を取り戻していくことが主人公側の目的だ。その偽の真相も、観客の信じたいという気持ちを呼び起こすため、現実味よりも面白味を優先している。


また、超常的な存在が社会へ危害をくわえることをふせぐことが目的なので、超常的であっても危険ではない存在という説を示したりもする。
この物語においては、人々の想念から妖怪が発生する*2。だから、安全な妖怪だという想念が広まれば、危険な妖怪が弱体化するわけだ。ここで妖怪に対して科学的な説明で「かまいたち」の能力が弱まったこと、しかしその科学的な説明が実際には間違っていること、という豆知識を引用していたのが巧い。
事件に対して示された偽の真相そのものは、特に面白いわけではない。鉄骨によって顔面がつぶされたアイドルの幽霊というモチーフから、当然に想像される範囲にとどまる。しかし、WEBサイトという舞台の論争に、華々しい嘘をもぐりこませ、観戦者が信じたいと思うだろうと納得させられるだけの理屈は示せていた。


キャラクター小説としては、妖怪に片足をつっこんだ人物ばかりで、かなり性格が特異で、感情移入はしにくい。視点人物の一人は妖怪へ拒絶感を持っている普通人な設定だが、それも過去の特異な体験が尾を引いていて、あまり共感できるものではない。
ただし共感ができないから悪いというわけでもなく、奇矯なキャラクターの珍奇な駆け引きを楽しむ見世物としては、大変に面白かった。良くも悪くも『絶園のテンペスト』と同じ作風。

*1:城平京作品では長編デビュー作『名探偵に薔薇を』が該当する。

*2:TRPGとして作られ、ライトノベルとしても展開された『妖魔夜行』の設定に近い。