法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『[映]アムリタ』野崎まど著

ライトノベル新人賞へ投稿された作品群から、一般向けとライトノベルの中間的な作品を選ぶメディアワークス大賞。その第一回目を受賞した作品。
舞台は芸大。俳優志望の青年が、天才少女が監督する自主制作映画へ参加するところから物語がはじまる。その天才少女の絵コンテは、体調を壊してしまうほど数十時間かけて不眠不休で青年が読んでしまうほど、怪しげな魅力があった。そして撮影開始された自主制作映画だが、その原型として『アムリタ』と呼ばれる絵コンテが存在することを青年は知る。
そして映画の撮影が終わった後、天才少女は失踪してしまうのだが……


切れ味ある本格ミステリとして楽しめるという評判を聞いて、読んでみた。
本来はライトノベル新人賞に投稿されただけあって、頁数は少なめで、文章も平易。しかし悪い意味ではなくて、登場人物は必要最小限に整理されており、読みやすい中編小説のよう。
本格ミステリとしての構造は、一つの超常的な能力を提示した上で、その論理的な帰結として何が行えるのか、何が行われたのか、という謎を解いていくもの。その超常的な能力は人間心理を操作するものであり、物理的に不可能ではない範囲で、なおかつ条件も制約も明確。しかもこの能力によって、この作品が映像化された時、作中作に対する登場人物と観客の感想にギャップが生まれても、作品として致命傷にはならない。よくできた能力設定だ。


そして最終的な真相は、嫌悪感ある真相を提示する作品群、いわゆる「イヤミス」を読みなれていれば、見当がつく。展開そのものではなく、ライトノベルとして発表予定だったこと、ライトノベルらしいイラストが表紙にあしらわれていること、といった媒体から考えられない結末というところで、嫌な気分を楽しめた。
それよりもミステリらしい意外性を感じたのは、途中で明かされる『アムリタ』というタイトルの意味と、天才少女が青年に何を求めたかという真相だ。
そして個人的には、同じように映画監督が失踪した後に俳優が推理するという本格ミステリ我孫子武丸『探偵映画』も思い出した。途中の真相から考えると、盗作ではない範囲で影響下にあるのかもしれない。