法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『コーンフィールドゾンビ』

ゾンビを飼育できるようになった世界での、架空の北米小村。その共同体から疎外された男と、ゾンビとなって飼育されている女の、出口のない交流を描いた短編小説。
http://ncode.syosetu.com/n7910bf/

「あんたは寒さを感じねぇか。クックッ、羨ましいぜまったく」

小説家になろう」に掲載されている短編だが、かなり楽しめた。もともとは個人サイトに掲載していたものらしい。
ネット小説としては珍しく硬い文体で、翻訳小説らしさを感じるし、なおかつ表現に引っかかることが少なく読みやすい。疑問なのは、三点リーダを単独で用いる癖くらいか。気取った台詞回しも、海外小説風味と思えば気にならない。年代などは明記されていないが、季節の移り変わりや地形など、読み進めるために必要な情報はきちんと提示されている。
知能の低いゾンビをとうもろこし畑の案山子として利用するという基本設定もうまいし、その実際の描写も長所と短所をおりまぜて現実感を出している。広大な農地で死体がカラスを追うという情景から、舞台設定を北米にした必然性も感じた。ゾンビ飼育というテーマは少なくないのだが、試みた事例では比較的に説得力があった。
結末のカタストロフも、きちんと主人公のドラマは閉じており、良い意味で想像力を刺激する。