法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『声優ラジオのウラオモテ #07 柚日咲めくるは隠しきれない?』二月公著

声優ラジオのMCとして活躍する柚日咲めくるには、重度の声優ファンという裏の顔があった。それゆえオーディションにおいて自分より他人の配役を願ってしまう性格に悩みをかかえていて……


2022年6月に発売されたシリーズ最新刊。若手コンビ主人公から初めて視点を変えて、公私をわけるために周囲から距離をとろうする先輩声優の物語が描かれる。

今回はいつも以上にラジオ重視でアニメのアフレコ風景はほとんどなく、主人公コンビの百合営業百合も接点を目撃しない第三者視点では控え目。声優ガチ恋勢の女性声優が主人公だが、どこまでも重度のファンという感じで*1、相方との関係も同期で残れた数少ない同志という雰囲気で、いつもより百合ライトノベルらしくない。
そこでファンの心情をたもったままプロフェッショナルでいることはできるのか、いわゆる「推し」が辞めていく痛みがどのように仕事に反映されるか、よく供給過多といわれる現在の声優シーンにあわせた仕事小説として読みごたえはあった。ベテランのようで内心はファンの視点で行動しているので、あくまで業界外の意識でいる読者としても理解しやすい。
若手トップクラスが過労で挫折した4作目*2とちがって、仕事がえられない状況からの廃業はありふれた出来事。さらに視点キャラクターが声優には思いいれがあっても作品への愛着は語らないため、おそらく作者が意図しないドライさがある。


ただ、アイドル的な受容がされている女性声優の視点で、若さが重要な基準のひとつとして語られた部分は、どうしてもグロテスクに感じてしまった。この小説の問題というより芸能や社会の問題なのだろうが、あまりアイドル的な声優の楽しみを知らない立場からすると価値観にのれないところがある。
演技面で活躍する声優が目標とされる局面もあったし、今回ほど仕事小説に移行したなら、ファミリーアニメで活躍する高年齢のベテラン声優や、声優に近しい芸能として舞台劇で活躍する方向性なども読んでみたい。まずは未成年の主人公コンビの本筋ドラマを片づけてからになるだろうが。

*1:あまり声優ライブはくわしくないが、坂本真綾のライブなどは同業の女性声優もよく行っていると聞く。

*2:hokke-ookami.hatenablog.com

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第9話 あと一歩、キミに踏み出せたなら

出発したはずの株式会社ガンダムは、校則の変更により新会社としては設立できなくなった。そこで幼馴染のシャディクが既存の会社を株式会社ガンダムにしてミオリネを社長にするともちかけるが、ミオリネはシャディクが校則を変えたことを見抜く……


中西やすひろ脚本で、シャディクという少年キャラクターを立てつつ、初めて主人公側がチームで決闘することになる。
実質的な新キャラクターが多く、これまでの戦闘回に比べてもアクションも多いためか、作画監督の人数が多い。もうTVアニメにおいて『機動戦士ガンダムAGE』のような体制は難しいのだろう、ということを痛感せざるをえなかった。しかしハイビジョン放送を前提としているとはいえ、メカアクションをロングショットで細かく動かすカットくらい、もっと省力しても良かった。
とはいえ、独立したエピソードとしてはこれはこれでよくできていた。シャディクという少年につきそう少女たちがチーム戦で地球寮のキャラクターと対応することで、記号的なりに行動をとおして個性が生まれているし、それがチーム戦を単調に感じさせないサイクルをつくりだしている。ちょっと今回のルールは飲みこみづらかったが、相手を殺さないスポーツ的な戦闘ならではの、あえて主人公機の機能ではない決着を見られたことも良かった。
刺々しい群像劇になりそうな思惑を個々人がもっているように見えて、基本的に子供たちだけの命をうばわず正面から激情をぶつける学園ドラマにとどまっているので、良い意味でライトな見やすさもある。私情で中立の立場をかなぐりすてる立会人を、その場の多数派があきれ顔で見ている距離感は、誰も彼もがエキセントリックだった富野由悠季作品にはない味わいだ。

『It's a Rumic World』「うる星やつら~ザ・障害物水泳大会」「らんま1/2~悪夢!春眠香」「犬夜叉~黒い鉄砕牙」

週刊少年サンデー50周年記念の高橋留美子展のため、2008年に制作された各30分ほどの新作アニメ。
2010年1月にDVD-BOXとしてパッケージ化、同年10月に各巻がDVDとBlu-rayで発売された。

犬夜叉』のサンライズが制作し、『らんま1/2』のみアニメーション制作をスタジオディーンが担当。


『It's a Rumic World うる星やつら~ザ・障害物水泳大会』は、原作の障害物水泳大会エピソードに違うエピソードも足して、過去にアニメ化されていないキャラクターまで登場させたイベント向けオールスター作品。

米たにヨシトモ監督が、3作品のキャラクターが出会うオープニングにつづけて担当。押井守監督時代にも降板後にも偏らない、バランスの良いドタバタギャグが時間いっぱい楽しめる。意外にこの原作では初めてのキャラクターデザインという土器手司の絵柄も美麗すぎずコミカル。
かなり古い作品なのに続投する声優がかなり声質を維持できていて、メインキャラクターできびしさを感じたのは小原乃梨子*1三田ゆう子くらい。いろいろな意味で限界までがんばったイベント作品になっている。
物語は、いかにも古い作品らしくセクハラパワハラで笑わせようとしながら、オチで肩すかしすることで現在でも見やすくしていることも良かった。主人公が水着の女子をナンパする場面こそあるが、着替えをのぞいたりする古臭い性的サービスはいっさいない。


『It's a Rumic World らんま1/2~悪夢!春眠香』は、ヒロインが眠らされるエピソードを原作としつつ、ヒロインが見ている夢もアニメオリジナルで映像化することでイベント作品らしく多くのキャラクターが登場。

もりたけし監督は、過去にTVアニメのコンテ演出で少し参加。しかし気負わず普通によくできた1エピソードにしあげていた。耽美さが増している中嶋敦子が、初キャラクターデザイン作品に向きあうことで、コロコロ丸っこい絵柄に戻したバランスも面白い。
性転換を題材にした作品でホモフォビアなギャグが終盤にあるところは気になったが、アニメーション作品としては一番楽しかった。松竹徳幸松本憲生鈴木博文、いまざきいつきといったアニメーターが参加して、残像を多用したコミカルな動きやキビキビしたアクションが楽しめる。あまり作画に力を入れないスタジオディーンだが、良いアニメーターと縁が深いので、こうした単発作品ならばスタッフがそろうこともある。
あと、主人公が女性化した姿ならば、イベント上映作品で2008年でも正面から乳首を描写できることも興味深かった。色指定がリアルな茶色で、アニメ記号としては男性の乳首に近いという意図なのだろうか。ちなみに同じイベント上映の『うる星やつら』では、ウォータースライダーの出口で主人公が停止する場面で、横から見たカットに影で乳首が作画されていた。


『It's a Rumic World 犬夜叉~黒い鉄砕牙』は、原作では1巻分ある重要なエピソードを映像化。主人公の兄が敵の策略によって主人公と戦うことになり、それぞれがもつ武器の力を引きだそうとする。

イベントの5年前にいったん終了したTVアニメのスタッフが続投した作品で、イベントの翌年に完結編として原作の最後までTVアニメ化をおこなうこととなった。そのため既存のアニメ作品と良くも悪くもギャップが存在しない。
残念なのは、ギャップがなさすぎてイベントらしいスペシャル感がまったくないこと。長大な物語の1エピソードを映像化しただけで、作品に思い入れのない観客へ因縁の対決の重みを感じさせる工夫がまったくない。
アクション作画が特に素晴らしいわけでもないし、何もない山中と異空間だけが舞台なので情景も変化がとぼしい。因縁の兄弟対決といっても中途の1エピソードなので決着がつくわけでもない。

*1:直前までリメイク版『ヤッターマン』のドロンジョとして活躍できていたが、それを考慮しても2005年の『ドラえもん』リニューアルは限界だったことを実感した。

以前に話題となったアノニマスポストの正体を読売新聞取材班が追跡調査していた

気づかなかったが、2021年に読売新聞で連載された記事の加筆版らしい*1
chuokoron.jp
しかし読売新聞の連載は知らないのに、記事を読んでいて既視感がつきまとった。2018年に匿名掲示板でおこなわれた調査と酷似した内容だからだ。
hokke-ookami.hatenablog.com
当時のアノニマスポスト公式アカウントのツイートが削除されているため確認困難だが*2、さまざまなサイトを運営していることや招聘業者であったこと、外国で管理していることも同じ。
もちろん匿名掲示板でも偶然の一致に留意をうながしていたように、インターネットの情報収集では限界があるところを、それなりに信頼のおける新聞社が現地取材した違いは大きい。


他の連載記事を読むと、広告費が期待できるため米国選挙陰謀論やコロナワクチン陰謀論をとなえるようになったユーチューバーなどにも取材している。
連載をまとめた書籍も少し前に出版されただけあって新しい話題が多く、興味関心がもてる内容のようなので、いずれ目をとおしておきたい。

*1:はてなブックマークid:uyT4vEne氏が指摘している。 b.hatena.ne.jp

*2:一応、内部で保存はしている。それにしても正体に近づくきっかけとなた2015年に仁藤夢乃氏を批判する一連のツイートが、エコーニュースを引用してはじまっていることに不思議な因縁を感じざるをえない。

請求の濫用への批判が、あたかも請求する権利の否定のように解釈されていて驚いている

まず参照しておきたいのが、数年前に「余命三年時事日記」が扇動した懲戒請求と、その濫用に抗するための裁判だ。
余命ブログの懲戒請求裁判、判決を分析 - 弁護士ドットコム

横浜地裁判決では、懲戒請求制度の意義にも言及。弁護士への懲戒請求は誰でも可能であること定めた弁護士法の条文について「請求者に対して恣意的な請求を許容したり、広く免責を与えたりする趣旨の規定ではないことは明らか」としていて、「国民の権利」(横浜地裁での被告)との主張を退けた。

もちろん何もかも同じではないが、権利として認められた手段というだけででは、濫用とされない充分条件ではない。


支援団体Colaboへの誹謗中傷を受けた弁護団の記者会見に対して、広く認められた監査請求が制限されたかのように反発されている*1
[B! 仁藤夢乃] Colaboへのネット上の攻撃深刻/誹謗中傷加担やめて/仁藤さんの弁護団

id:BIFF 誰であれ誹謗中傷はダメ。ただColaboには現時点で完全に的外れと言いきれない疑義が複数あるので、弁護団も引き続き真摯に情報公開をして欲しい。。あとオンブズマンでなければ情報開示請求NGなんて放言は論外。。

id:yujimi-daifuku-2222 開示請求が攻撃? あなたたちがモリカケ、桜や五輪に纏わる不正会計を許さないとしてきたのは党派的な攻撃でしかなかった。そう自白したと取られても仕方ないお追陞記事は非常に残念ですね。

id:hatebnewone 会見で仁藤さんが暇空氏を監査請求や開示請求の濫用と批判したが、同席の弁護士集団は開示請求とかいっぱいしてる。太田弁護士はエコーニュースの人を付き纏いストーカーと中傷した。

id:deztecjp 「情報開示請求は暴力」とかの主張は、報じないんだな。お仲間がいうなら暴論もスルーかよ、とは思うが、妄言までうっかり支持しないだけの理性は残っている、と評価しておきたい。

id:Gragra これからは共産党関係者による開示請求はすべて「暴力」として扱ってもいいらしい。市民の「知る権利」を擁護し続けてきた共産党がまったく呆れ果てる。

id:wideangle 開示請求への非難、都議の原田某が先走っただけと思いたかったが……

id:confi 開示請求が個人攻撃とか安倍政権でも言わなかった


deztecjp氏のコメントにあるように、はてなブックマークされた記事は記者会見を要約しているだけで、監査請求への直接的な言及はない。
Colaboへのネット上の攻撃深刻/誹謗中傷加担やめて/仁藤さんの弁護団

 声明は、現在、Colaboおよびその代表理事である仁藤さんに対するデマ拡散、誹謗(ひぼう)中傷等インターネット上の攻撃が激化、深刻になっていると述べています。

 また、一時シェルターを中長期シェルターであると決めつけたり、保護女性全員が生活保護受給者であるとか、不正な生活保護受給を行っているなど、事実に反する断定も多いとしています。

誹謗中傷や不正確な情報の拡散を重視した筆致であり、監査請求が攻撃と同一視されたかのようにコメントする対象として適切とは思えない。
一方、記者会見の該当部分を書き起こした「まんぷく❤出羽守尾張守ウォッチャー@ForeignUtopia」氏のツイートも話題になっていたが。


colabo会見、神原弁護士
「市民オンブズマンがやってくるなら分かるが、(暇空茜氏がやっているのは)制度の濫用」

この発言は大問題だと思う。弁護士がこういうこと言って言いの?

はてなブックマークでは同調するコメントが多いが、すでに書き起こしとして不正確だという指摘もおこなわれている。
[B! 弁護士] まんぷく❤出羽守尾張守ウォッチャー on Twitter: "colabo会見、神原弁護士 「市民オンブズマンがやってくるなら分かるが、(暇空茜氏がやっているのは)制度の濫用」 ↑ この発言は大問題だと思う。弁護士がこういうこと言って言いの?"

id:metalmax 「市民オンブズマンとかそういった奴がやってるならまだわかるけど」って発言だけでもなかなか凄い。

id:duers またここでもデマ。「市民オンブズマンとかがやってるとかなら分かりますよ、そうじゃなくて要するに、嫌がらせ目的で入手したものをネットで公開する、こんなのは制度の濫用ですよ」会見動画の1:02:55あたりより

おそらく記者会見を批判している立場だろうmetalmax氏ですら、きちんと「とか」という表現をひろっていることに注目したい。辞書をひくまでもなく例示とわかるだろう。
kotobank.jp
ひとつ例示したことは、それ以外を制限することを意味しない。その例示の妥当性を論じることはできるとしても、BIFF氏のように「オンブズマンでなければ情報開示請求NG」と解釈することは、それこそ「論外」だろう。
まず弁護団は前例として懲戒請求の濫用に言及してから、攻撃目的が明らかな監査請求を批判しているのであって*2、市民オンブズマンは制度の目的にそった事例として言及されているだけ。
また、すべての監査請求が攻撃になると主張したわけではないのだから、yujimi-daifuku-2222氏のような監査請求を単純に攻撃と同一視するかのような表現も正確ではない。


ちなみに懲戒請求濫用に対する東京弁護士会の会長声明は、もっと明示的に懲戒の理由を制限していた。
当会会員に対する濫用的懲戒請求についての会長声明|東京弁護士会

当会のみならず各弁護士会が発した意見書や会長声明をめぐって、個々の会員が懲戒請求されることは、筋違いと言わざるを得ない。
 私たちが、各種意見書や会長声明を発するのは、弁護士が人権の擁護と社会正義の実現を使命としていることから、多数決原理の中で決まった立法政策であっても少数者の人権保障の観点から問題があると考える場合である。
 そのことが懲戒の理由になることはあり得ない。

先述のように同一の問題ではないが、きちんと弁護団へ反論したいなら参照しても良いだろう。

*1:id:nori__3氏の「歪曲、捏造と判断した根拠が無いのならただの妄言だし、情報開示請求者に対する誹謗でしょ。まぁそっちの人を全面支持するものではないが。」というコメントは、監査請求そのものを弁護団が制限したかのような表現ではなく、仮定を根拠にした独立した感想として理解はできるので、このエントリでは批判するつもりはない。

*2:不正追及が目的ではないことは過去に明かされていた。hokke-ookami.hatenablog.com