平凡な女子高生の真野妖子だが、恋愛を楽しみたい学園生活のなかで異変がはじまっていた。若くして子を生んだため力をうしなった母のかわりに魔物ハンターになるよう、妖子は祖母から求められる……
マッドハウスが制作した1990年代前半のOVAシリーズ。DVD-BOXは一時期プレミア化していたが、2022年にBlu-ray BOX化されて入手しやすくなり、ブラックフライデーセールで通常より安価になっている。
後に『センチメンタルグラフティ』などを企画した六月十三の、アニメ初企画作品。ゲームや連載小説、キャラクター原案の宮尾岳によるコミカライズなどのメディアミックスもおこなわれた。
1作目の無印は、1990年に公開されたアニメ映画という売りだが、1時間に満たない中編であり、OVAを箔付けするために劇場公開したパターンだろうとしか思えなかった。キャラクターデザイン原案は当時なりに新しいし、原案者の宮尾はアニメーター出身なのに、その魅力を実際の映像に反映できていない。
作画そのものもマッドハウス作品として見ると良好ではない。上映のためにスケジュールの制限などがあったためか、キャラクター作画からひんぱんに影がなくなるところが特に気になる。影無し作画そのものは大好きだが、前後のカットとくらべて統一感がなく、フルショットだけ影をなくすような方針でもなく、見ていてかなり違和感がある。これでも劇場版から映像を向上したところが多いらしいのが驚きだ。
思春期の少女主人公の妄想などのエロティック描写が全体的に当時の青年漫画か、せいぜい『レモンエンジェル』くらいの芋っぽさなのも残念。コンドームを堂々と見せるのも、自然な日常というさりげなさはなく、下ネタのような雰囲気。チャイナ風のハンター服の良さをきわだたせるためにも、日常シーンでパンチラは入れないほうが良かった。水着シーンはキャラクターの印象づけとして意味があるが、作画は普通……なぜかウルフカットの理事長のお色気シーンは力が入っていて、下着の透け具合などアナログなアニメとしてはがんばって表現できているが、年齢やデザインのためエロ劇画のような印象を強めてしまっているし、そもそも敵の三下にすぎないので使い捨て感が強い……
主人公母がハンターになる前に処女ではなくなったので、主人公の前のハンターは祖母になり、忍者装束で活躍するところは魅力であると同時に難点。あまりに前面に出すぎてドラマも牽引しているので主人公の存在意義を食ってしまっている。さまざまな男に色目を使ったり使われたりする主人公だが、あまり主体性がないまま最終的にドラマをほうりなげてオチがつかないので釈然としない。
「2」とナンバリングされた2作目は山田勝久監督が総監督にまわり、『ハイランダー』*1の阿部恒が監督およびキャラクターデザインと作画監督に抜擢された。全体が一気に向上し、企画の各要素が無駄なく噛みあい、最低限の商品として成立している。原画に佐々木正勝など*2。自室を真上から俯瞰するコンテなどもいい。
冒頭のハンターアクションからいきなり濃厚な作画で背景動画もまじえて良く動き、すでに主人公が経験をかさねたことを映像だけで説得力を出す。主人公をしたって見習いに入る少女を登場させ、中盤で敗北するところを主人公が救うことで格の違いを表現しつつ、最後の戦いでピンチになった主人公を少女が変身して助けることで成長のドラマとする。
複数のバトルが短い尺で複数回あってアクションアニメとして充実しつつ、そのバトルがキャラクターの関係性を変化させて無駄がない。いきなりハンターになるまでの「1」と、すでにハンターとして成熟した「2」で主人公のキャラクターが断絶しているし、シリーズを楽しむにはいっそ「1」を無視して「2」から視聴しはじめてもいいかもしれない。
お色気シーンも作画が良く、必要最低限なので希少性で印象に残る。主人公と少女が風呂に入った場面で照明を落とし、裸の会話を上品に見せる演出など感心した。
「3」は当初は完結編だったそうだが、主人公が単身で異世界的な場所へ行って戦うという番外編的な作り。相手が小物とはいえ、着物をきた主人公が変身どころか武器ももたずに魔物を体術でいなす描写で、すでにハンターとして完成していることがわかる。
惚れた男は意中の相手がいたという真相や、その背後でおこなわれていた善意の策謀など、基本的に定番をならべただけだが、ストレスがたまらずに単発回としては悪くない。現世側で弟子たちが主人公を助けようとコメディチックに奮闘する描写もあわせて、ライトな和風ファンタジーとして楽しめた。
「スーパー・ミュージック・クリップ」は、4作目というには短い、実写声優などを映したり本編を編集したミュージッククリップ集。
冒頭の宮尾イラストを利用したPVと、小寺勝之コンテに斉藤哲人一人原画の新規SDアニメは悪くない。あくまでファンディスク的な作りだが。
「5」は実質的に4作目だが、ゲンかつぎで5でナンバリング。「2」「3」と出番が後退していった祖母をふたたび舞台にあげつつ、魔物ハンターの歴史を描くことでシリーズ本編の完結編という印象がある。作画も「2」「3」の延長としての良好さがあり、とても良いとは言えなかった「1」全体をセルフリメイクした感もあった。
祖母を少女化したり魔物ハンターのオリジンと主人公を出あわせるため、発端の魔物に時空をあやつる能力を付加。世界を静止させる能力が絵として面白いし、アクションのメリハリも生まれる。
「二乗」は、1994年にOVAとしては完結したはずが1年後にすぐ作られた新作。しかし制作会社は継続しつつ、メインスタッフで続投しているのは「5」で参加した脚本家くらい。監督は一演出家として挑戦的な映像をつくっていた時期の新房昭之がつとめ、作画スタッフも総入れ替え。
キャラクターデザインも刷新され、一気に現代的なさっぱりした絵柄になった。線が整理されているので裸体やパンチラも生々しすぎず、それでいて流麗な描線で艶やか。アクションも冒頭の訓練的な動きからして絶品で、日常芝居も体育の妄想など素晴らしい。クライマックスの魔物復活から直線的な金田伊功エフェクトが楽しめたりもする。現代に見ても作画アニメとして充実していた。仏壇にむかう祖母を魚眼レンズで映したり、コンテ段階でもおもしろいところがいくつか。
内容は、設定としては直接の後日談だが、印象としてはセルフパロディに近い。間違った故事成語を口にする主人公など、これまで存在しなかったキャラづけが付加されていて、しかし本筋にはかかわらない。物語を動かすのは「1」からつづいている男への惚れっぽさだ。そして主人公は鏡像的なライバルのハトコとと戦うわけだが、そのライバルの妹分まで主人公のそれとそっくり同じで、しかもその理由は存在しない。完全にリアリズムを放棄してストーリーの都合で人間関係を構築している。
主人公妖子(ようこ)のハトコの妖子(あやこ)は主人公のほっするものとして男をうばうだけで興味はもっていないという、ある意味での百合っぽさがある。その男をうばう行動がハンターとして致命的な行為につながり、その贖罪から主人公と関係を再構築。もっと露悪的な展開になるかと思いきや、意外なほど前向きで主人公の善性が周囲に波及していくジュブナイル的な作品として完成されていた。
もともと魔物ハンターという設定に特殊性はあまりないし、説明が不足している設定もあまりなく、物語は単独で完結しているので、現在に視聴するならこの「二乗」だけで充分かもしれない。