法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『竜機伝承』

帝国に追われる記憶消失の少女を主人公が助けて旅立つ。主人公の父は帝国と対抗する王国の元騎士とう因縁があった。少女には何か謎の力が隠されているらしいが……


KSSがメディアミックスを主導した、パソコンゲーム原作のOVA。アニメーション制作はマジックバス。1997年に3巻まで販売され、後にDVD1枚にまとめられた。

KSS製作のOVAによくある物語未完のまま打ち切りという悪癖は、KSSが主体となったこの作品でも同様。主人公が旅に出る1巻から、2巻と3巻でそれぞれ新たな仲間と敵を登場させて終わる。パソコンゲームのシリーズはOVAの後にもリリースされたので、あくまでプロモーション的なアニメと考えるべきなのだろう。
物語は『未来少年コナン』や『天空の城ラピュタ』で見られるボーイミーツガールをなぞっただけで、特に目新しさはない。細かいディテールも、いわゆる「イヤボーン」をそのままやって危機を脱したり、わかりやすく狡猾なキャラクターの罠に引っかかったり、たぶん当時でも古臭く見える物語だったのではないだろうか。
作画も一見して整っていて美麗だが、やはり特筆するところはない。1話ずつ少女が必ず全裸をさらして乳首*1まで見せるような性的サービスシーンを、てらいなく展開しているところが現在から見ると珍しく感じるくらい。

*1:2色以上で塗りわけていて、当時なりに悪くない。ちなみに主人公も1巻で上半身裸で乳首を見せる時、男性キャラクターには珍しく1色だが塗りわけられている。

『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』

悪徳の街ゴッサムで、ジョーカーの女として自由気ままにふるまっていたハーレイだが、破局して庇護下をはなれたことで少しずつ周囲の反感をあびていく。そして街を新たに牛耳ろうとするマフィアの抗争に飛びこみ、さまざまな階層の女性を巻きこんでいくが……


DCエクステンデッド・ユニバースの8作目として、2020年に公開されたアメコミ映画。『スーサイド・スクワッド』の描写や配役を引きつつ、スタッフを一新して独立した物語として楽しめる。

原題の「Birds of Prey (And the Fantabulous Emancipation of One Harley Quinn) 」であれば女性チーム結成が主軸の物語と明らかだが、邦題はメインキャラクターひとりをフィーチャー。良くも悪くも『ベイマックス』を思い出させる。
そして『ベイマックス』と同じように本編にはほとんど文句なし。適切なスケール、適切なバラエティ、適切なレーティング……『スーサイド・スクワッド』に期待した全てが入っている、ほぼ完璧な映画作品だ。
hokke-ookami.hatenablog.com
時間を細かく巻き戻す時系列いじりも、ハーレイのとりとめのない語り口にあっているし、それでいて説明に無駄がなく目的が明確なので無駄に混乱するところがない。


新しいと思ったのは、セクシャルマイノリティでも依存的な恋愛は肯定しないところ*1ヴィラン化する前のハーレイの恋愛遍歴に女性もいたり、女性刑事が元彼女の女性検事とよりをもどさなかったり。ジョーカーとハーレイの共依存を脱する見せ場は導入にすぎない。
ハーレイがぎりぎりまで裏切るダメさも、基本的にはベタなストーリーに新鮮味をあたえている。敵のブラックマスクにあまり深みはないが、マスクというモチーフのわかりやすさと、ジョーカーのような立場でハーレイのような性格という、今作で倒すべき敵としては完成度が高い。ここもまたコンセプトに対して適切なキャラクター。
争奪対象のダイヤモンドを飲みこんだ少女が賞金首になる展開もベタだが、それが脚本の複雑化というパターンだと作中で説明して笑いに変える。復讐心で動く暗殺者ハントレスが物語の本筋とはからまないところも、シリアスゆえにポップな今作からは浮いたキャラクターになる笑いへと昇華。
遊園地のビックリハウスが舞台になる、サスペンスアクション『ザ・ゲスト』を思い出させるクライマックスを、アメコミ映画らしく予算をつかって大規模に展開したことも楽しい。当初はホテルで戦う企画だったらしいが、変更して大正解だ。

VFXでWETAが参加していて、音声攻撃はたいしたことはないが*2、さすがにハイエナは見事。ハイエナはセットではつかえないとトレーナーに説明されて断念しつつ、大型犬を用意して俳優とからませる映像をとり、そこから自然に置きかえている。


これほど完璧な映画を作りあげたのが長編2作目の女性監督キャシー・ヤンに、女性脚本家クリスティーナ・ホドソン。Blu-rayのメイキングで登場する製作も女性。それが作品のコンセプトを現実で体現している。
さらにセットデザイナーのベテラン男性も、作品コンセプトをちゃんと理解してビックリハウスステロタイプな女性表象をつくったことをBlu-rayメイキングで語っていた。映画制作はチームワークだ。

*1:北村紗衣氏の準備的な批評で「とにかくもう恋愛はダメだ」と箇条書きの一番目にあるが、それがヘテロ的な恋愛に限らないところが本当に進んでいると思った。日本で同じような作品をつくるには、まずヘテロ的な恋愛観を克服する準備をしておかないと難しいだろう。 saebou.hatenablog.com

*2:そもそも、あまり超常能力が登場しない作品なのだから、大音声で敵集団を悶絶させるくらいで良かったと思う。

『スーサイド・スクワッド』

刑務所にとらわれている怪人達。スーパーマンのような超人が敵になることを恐れた米国政府は、怪人達にタスク・フォースXというチームをつくらせて対抗させようとする。そのタスク・フォースXこそが決死部隊、スーサイド・スクワッドとなる計画だった。しかし怪人のなかでも強力な魔女エンチャントレスが、ひそかにコントロールをはなれていく……


DCエクステンデッド・ユニバースの3作目として、2016年に公開されたアメコミ映画。ヒーローの対となるヴィランたちをメインにした企画として期待を集めた。

世界全体を危機に追いやるクライマックスをはじめ、多種多様なアクションのシチュエーションと、それを支えるVFXやセットはそつのない大作。ヴィラン部隊が初出撃する物語なら、もっと低予算にしてスケールを小さくしても良かったとも思ったが。
また、実写映画初登場というハーレイ・クインのビジュアルデザインは良かったし、天然は他人がいる時に演じているだけと感じさせる端々の描写も良かったし、湿っぽい場面で仲間に追い打ちをかける性格も良かった。
ジョーカーが過去の映画にないキザったらしさで、カリスマ性を感じさせない普通のヴィランらしいところも逆にいい。あくまでサブキャラクターのひとりかつハーレイの対としてならば適度な存在感。バットマンも登場時間が少ないからこそ、ティム・バートン以降の迷いを珍しく感じさせない覆面ヒーローらしさがあって良かった。


しかし悪党が好き放題するブラックでカタルシスたっぷりな映画かと思いきや、敵も味方も家族や身内のために守りに入るキャラクターばかりで、全体が湿っぽい。そもそも悪党が普通の人間に逮捕され刑務所に入っている導入からして、あまりヴィランを強そうに感じさせない。
敵味方の構図にしても、存在しない強敵を恐れて戦力を確保したら強敵になってしまったという愚かしさで、そのような事態をまねいた黒人女性リーダーのアマンダも設定ほどの狡猾さを感じない*1。そんなアマンダにコントロールされる多くのヴィランは、さらに愚かに見える。


もっとDCらしく単独作品としての完成度をまず目指してほしかったし、登場したヴィランの強さを段取りをふんで明確化していってほしかった。そのためには全体の構成をもっと練るべきだろう。
たとえば、エンチャントレスがジューン・ムーン博士に憑依している二重人格的な設定を活用して、スーサイド・スクワッドはジューンが発案したという導入はどうだろう……著名な考古学者にして軍人リック・フラッグの恋人でもあり、ジューンは米国政府にタスク・フォースX設置を提案できた。そして数々のヴィランをエンチャントレスの超常能力でコントロールする。しかし魔女の心臓をリックにあずけてコントロールしているつもりのジューンの精神は、徐々にエンチャントレスにむしばまれていく。それどころかタスク・フォースX自体が、世界を破滅させようとエンチャントレスが無意識にはたらきかけてジューンに思いつかせたものだった。やがて弟を復活させたエンチャントレスはヴィランを踏み台にして、独自行動をはじめる。そうして危機的状況にとりのこされたヴィランたちの前にアマンダが登場。エンチャントレスを倒せる情報とひきかえに、ヴィランへ指示を出すことに。社会と組織、それぞれのはみ出し者として呉越同舟的にスーサイド・スクワッドを組む……みたいな展開なら、スーサイド・スクワッドを結成する理由に物語の必然性が生まれるだろうし、エンチャントレスの狡猾さがきわだったろうし、アマンダが愚かに見えることもないだろう。
上記は映画に登場した要素のみを再構成したが、他にもオリジナルキャラクターを出していいなら、たとえば世界的な危機において犯罪者しかいないアサイラムの救出が後回しにされたところ、善良で無垢で病弱で自己犠牲的な天才少年もしくは少女が、多くの犯罪者を救うため強力なヴィランの力を借りると同時に贖罪の機会を与える……みたいな展開でも面白いかもしれない。もっとも、これはさすがにメアリー・スーじみているし、日本のアニメや漫画の雰囲気が強すぎるかな。

*1:想像以上の利己主義者と判明する中盤の展開は意外で良かったが、最終的にきちんと落とし前をつけずに終わったので首をかしげた。この利己主義ぶりなら、むしろ超常能力をもたない一般人でもラスボスに設定しても良いと思ったのだが。

日系人収容所の歴史小説が米国の学校から排除されたことは問題だが、それをつたえるツイートへのリプライにも頭をかかえる

NPOサルタック*1の畠山勝太氏が、米国の学校で「焚書」がおこなわれている問題のひとつとして、日系人収容所の歴史も隠されようとしているとツイートしていた。


アメリカの学校で焚書の嵐が吹き荒れているけど、第二次大戦中の日系アメリカ人の強制収用を描いた小説もバンされた話。この本だけでは意見が偏り過ぎで、南京大虐殺の話とか日本人は強制収容に値する酷い奴らだったという本を入れてバランスを取るべきだという。いやー…。
https://www.thebulwark.com/when-a-diverse-book-ban-goes-awry/

記事を読むと、米国の図書館協会で賞を受け、日本でも2002年に『天皇が神だったころ』という旧題で訳されて2018年に復刊された書籍が、推薦をとりけされたのだという。

「多様」な書籍への反発があることや、「バランス」のために南京事件の情報も必要といったことが主張されたようだ。ウィスコンシン州民主党共和党が拮抗する地域であることも指摘されている。
はてなブックマークでこのツイートを知ったが、先ほど見返すと、なぜか「先進的なリベラル」が書籍を隠蔽したかのように認識しているコメントがついていた*2
[B!] 畠山勝太/サルタック on Twitter: "アメリカの学校で焚書の嵐が吹き荒れているけど、第二次大戦中の日系アメリカ人の強制収用を描いた小説もバンされた話。この本だけでは意見が偏り過ぎで、南京大虐殺の話とか日本人は強制収容に値する酷い奴らだったという本を入れてバランスを取る… https://t.co/pSRHXCktgi"

id:yujimi-daifuku-2222 それが事実なら、自国の歴史の正当化に関しては先進的なリベラルも日本のネトウヨも同等なのでしょう。/穢れのように戦争や軍隊を扱う日本の戦後左派は、異常さの現れ方が少し異なる。

ここで「日本の戦後左派」に「異常さ」があらわれているという話をはじめる意味もよくわからない。それこそウィスコンシン州教育委員会のような「バランス」に読めるが。


しかし、いずれにしてもここまでは米国のマイノリティが迫害された歴史が米国で隠されようとしている問題だ。誤解を恐れずにいえば、基本的には米国内部で解決するべき課題といえるだろう。
しかし畠山氏へのリプライを見ると、ニコニコ動画をソースに南京占領の功績を語りはじめるツイートや、半年後の予防接種を根拠に虐殺人数を否定するツイートがならんでいる。


日本軍は南京市民に食料を放出し、南京市民20万人から一人も餓死者を出さなかった。
これは日本軍の隠れた功績の一つであった。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm40206518


昭和12(1937)年12月13日南京陥落。
昭和13(1938)年6月発行。[南京4月下旬、南京に到着した岡崎祇容博士を班長とする35名の同仁会医院を開設。戦後に付き物の病魔から良民を救済せんと、南京40万人の全市民に種痘とコレラの予防接種を開始(5月4日南京にて、岡特派員撮影)]
やはり30万人虐殺は嘘だった🤥

引用リツイートでは「星条旗に対する侮辱」という批判など、米国が自らの理想を汚していることを指摘するツイートもあるが*3、やはり中国共産党が背後にいるような陰謀論をとなえるツイートもある。


(´・ω・`)これ絶対中共裏から手回してるだろ。

こうしたリプライが多数あるようでは、日系人強制収容の歴史を隠蔽する米国の問題と同時に、南京事件の史実性が否認される日本の問題もまたあることを痛感せざるをえない。

*1:はてなアカウントはid:sarthakshiksha

*2:こちらのコメント欄で指摘したように、「自国の歴史の正当化」はyujimi-daifuku-2222氏にとって他人事ではないと思うが。 hokke-ookami.hatenablog.com

*3:

他者の関係を「尊い」と消費することを、当事者の痛みとして描いた百合漫画

6月25日が「百合の日」ということで、ブックウォーカーが百合ジャンルの定番セールを7月1日までおこなう。
bookwalker.jp
そのセールに入っている女子大生の恋愛漫画『付き合ってあげてもいいかな』の、まだ単行本になっていない*1連載中のエピソードを記憶しておく。

身近な同性が恋人という心情におりあいをつけ、周囲にカミングアウトした後輩。もはや直接的な差別がされることはないが、特別視されることは変わらず、はやしたてるように消費される。
そこでは個人的な体験の結果として同性愛への嫌悪をもらす知人が、むしろ後輩にとって救いとなる*2。嫌な記憶からくる個人的な感情を公平にいだいているだけだとわかるから。


この日本という国では、同性婚訴訟で差別的なとりあつかいを合憲とする新たな判決が出てから一週間もたっていない。
www.asahi.com
だからこそ、物語とは他者を消費するものだということを自覚的に描いた作品が印象深かったし、消費するだけで終わってはなるまいとひとりの人間として思った。

*1:おそらく9巻に収録されるはず。

*2:友人へのカミングアウトと、過去の体験から嫌悪を語る少女の描写は8巻収録の73話。