法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『わんだふるぷりきゅあ!』第37話 みんなで初デート!?

 犬飼いろはと兎山悟が初デートをすることになった。ういういしいふたりを見て猫屋敷まゆは歓喜にふるえ、ふたりきりのデートにするためこむぎと大福をひきうける。一方、悟の大親友を自称するメエメエはこっそりデートを尾行するが……


 井上美緒脚本に手塚江美演出で、いろはと悟のデートそのものよりも、それを受けて変化していく周囲のドラマを描いていく。
 あくまで生の映画のように楽しむまゆだが、ふたりの幸せを守るためにプリキュアの重みを背負うし、そのためにいろはたちがプリキュアとして他人のため奮闘してきた過去に言及する。その姿を見て、いろはの立場は本来は自分のものだと思っていたメエメエも、他人のためにつくすことに目ざめていく。
 ふたりのデートはどこまでもリリカルに、それを受けて騒ぐ周囲はコメディチックに描きながら、プリキュアという作品フォーマットを活用してシリアスなドラマへ自然につなげたことに感心した。
 それでいて周囲の反応に説得力が出るよう、デート描写もきちんと魅力的なものになっている。ほとんどいつもと変わらないふたりなのに、浮かされるように挙動不審になりながら、少しずつ相手とリズムをあわせていく。そしてほんの少しの変化とともに物語をしめくくる。名前で呼ぶという変化は定番すぎて安易といってもいいくらいだが、3クールかけて蓄積してきた関係性の変化ならではの味わいはあったし、近くに友人がいる状態でのひそやかなやりとりに特別な雰囲気があって悪くない。


 青山充作画監督かつ高道麻樹子との二人原画なので、絵柄は全体的にクセを感じるところもあったが、おおむね魅力的な画面をつくっていた。コメディチックな場面が多いので表情をくずせるし、水族館デートなど群衆が多いカットはレイアウトのうまさが出ている。
 恋により美化された表情は高道原画かもしれないが、けっこう全体をとおしてかわいく作画できていた。今作のパーツの多いキャラクターデザインは、パーツの位置と数をあわせれば絵柄のクセが目立たず作画のブレを感じさせない良さがあると思う。

大山のぶ代、死去

 亡くなったのは9月だったという。今年は『ドラえもん』で相方だった小原乃梨子も亡くなったばかりだ*1
声優 大山のぶ代さん死去 90歳 アニメ「ドラえもん」の声 多くの惜しむ声 | NHK | 訃報

1956年にNHKのドラマで俳優としてデビューしました。

また、声優としてもNHKの人形劇「ブーフーウー」のブー役などで活躍し、1979年に民放で放送が始まったテレビアニメ「ドラえもん」では、ドラえもんの声を26年間にわたり担当しました。

 日本を代表する声優であることはもちろん、TVドラマの脚本を書いたこともあったり、バラエティ番組で活躍したり、さまざまな才能をもつ女性だった。
 歌手としてもドラえもんのキャラクターのまま歌った映画主題歌「ポケットの中に」が印象深い。かつてCDでくりかえし聴いていた。

ポケットの中に

ポケットの中に

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 しかし『無敵超人ザンボット3』等の複数ある代表作のなかでも世界的な人気だった『ドラえもん』において、スタッフの全面的な世代交代にともなって降板してから約二十年。
 それ以降もドラえもんを意識したようなゲームのキャラクターやCMキャラクターは少し演じていたが、認知症が重くなってからは表舞台を去っていた。
 最近にアニメ関係者の早逝がつづいていることとくらべて*2、ひとりの視聴者として覚悟はできていた。
 死因は老衰だったとも報じられているし、きっと大往生だったのだろうと思う。


 ちなみに亡くなった年齢は90歳と報道されているが、これは認知症の介護をおこなっていた夫が2015年に認めたためで、それ以前は少し若い年齢とされていた。
かつて『ドラえもん』にも出ていた人気女性声優の年齢詐称 - 法華狼の日記

認知症をわずらっていることが先日に公表された大山のぶ代氏だが、78歳ではなく81歳だということを夫が会見で認めたという。

 明かされた実際の生誕年は1933年。くしくも『ドラえもん』の作者である藤子・F・不二雄の生誕年と同じだった。

*1:小原乃梨子、死去 - 法華狼の日記

*2:10月1日に亡くなったアニメーターの山下敏成は、今年も複数作品に参加。なかでもTVアニメ『怪異と乙女と神隠し』では二人だけで原画を描いた回があるほど最近まで精力的に仕事をしていた。アニメーターの山下敏成さん死去 | 朝日新聞デジタルマガジン&[and]

『映画Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!』

 巨大な鏡のある、謎の小部屋にいるキュアフローラ。その鏡を見る彼女に、オバケがイタズラをはじめる……


 2015年のアニメ映画。ハロウィンをモチーフとして、『プリキュア』シリーズ初のオムニバス映画としてつくられた。

 オムニバスとして評価が難しい。方向性が異なる実験的な3DCGアニメの短編と中編に、手描きアニメの長編がサンドイッチされているのだが、長編と中編の物語としての差別化が足りない。
 長編も中編も、王国が敵の男ひとりによってディストピア化して、ゲストヒロインの姫と主人公キュアフローラが王国をもとにもどすため走りまわる。それを他のプリキュアが助けていくプロットがまったく同じ。
 一応、長編の姫はとらわれながら凛として涙を見せず、中編の姫は積極的に走りまわりながら幼い弱さを見せるという差別化はできている。しかし敵の男が支配のために支配する悪玉でしかなく、プリキュアと思想をぶつけあうようなキャラクターの奥行きがない。王国を敵から救うという簡素な印象しか残らない。
 オムニバスとして家族というテーマで統一する意味もわかるのだが、ハロウィンでパンプキンというモチーフで3作品が統一されているのに、物語まで同じ構造にしては飽きてしまう。
 それでも短編は台詞を廃してモーションだけで楽しませてくれるし、中編は良くも悪くもアニメミライ的な完成度はあるのだが、長編は一昔前のイベント優先劇場版のようにドラマが弱い。敵の手でパンプキン王国へ送りこまれながら普通にプリンセス選考会に参加する主人公たちに物語の都合を感じざるをえないし*1、敵にとらわれる段取りとして王女公募イベントをひとりひとり消化していく展開も単調。王女を一般公募する共和制的なイベントを敵の陰謀あつかいにして、血統で王女を選ぶことが正当であるかのような構図になっていることも首をかしげた。
 国民が存在せず妖精ばかりで、王が自らカボチャ農業を研究しているのであれば、そもそも本来は王国ではなかったという設定にしても良かったのではないだろうか。パンプキン王国が異世界なのか架空国家なのかよくわからない問題も緩和される。


 念のため、まったく楽しめなかったわけでもない。映像作品としては技術が高度かつ多様で見どころがある。
 短編はSD体型にドールのような質感で外国のハイレベル作品にも負けていない。キュアフローラとオバケ集団の変身対決を基本的に一室だけでおこなうが、鏡のように真似をしながら差異がふくらんでいくプリミティブな面白味がある。わずかな出番しかない他のプリキュアもしっかりモデルをつくって動かして、画面に豊かさと余裕が感じられる。
 長編は座古明史演出らしくカット単位シーン単位では映像にこだわっていて、冒頭のアクションも終盤の二段階にわたる決戦も空間をダイナミックにつかって見どころいっぱい。『Go!プリンセスプリキュア』は第1話*2からTV版のアクション作画も定期的に良かったのだが、劇場版も冒頭でのカフェの椅子を背景動画で動かしたり空中に飛びあがってのアクションが、劇場作品ならではの潤沢な制作リソースを感じさせた。終盤に敵が怪物化する時の火炎エフェクトと大地を破壊していく暴れぶりも作画アニメとして充実していた。王女公募イベントも、実写を参考にしたという海藤みなみのバレエや*3、行程ひとつひとつをていねいに作画した春野はるかの製菓はよくできていた。言葉をしゃべれない妖精ゆえに身振り手振りでコミュニケーションする描写も多いし、妖精が敵の尖兵の動力になっている映像的なギミックも面白い。
 中編は、シリーズのEDで恒例となった濃厚な絵柄の3DCGを、TVアニメ1話分つくりきっただけでも感心した。不思議にゆがんだ街並みを立体的に逃げ回るアクションもそれだけで楽しい。身長が少し違う少女ふたりが大勢の怪人から追われていく。単調なリピートではなく動きに個性があるし、屋根のような斜面やロープをつたうようなシチュエーションの多様性があって飽きさせない。敵とのアクションは手描き作画のようなエフェクトをかさねたりして、さらに映像の変化をつける。このビジュアルは外国の作品では見られないような個性があり、いずれ良い企画で長編として完成させることができれば世界的に評価されるかもしれない。

*1:一応、紅城トワが王国の異常にかんづいている描写は入っているが、そもそも普通の世界からファンタジーな王国へやってきた不思議をいぶかるべきだろう。

*2:『Go!プリンセスプリキュア』第1話 私がプリンセス?キュアフローラ誕生!! - 法華狼の日記

*3:敵が等身大の時点でキュアマーメイドがバレエを意識したアクションをしているのも面白い。

いちいち指示しないとアニメーターが手癖で女性の胸をゆらしてくるというディレクション体験談が、異論が殺到するほど信用できないものとも思えない


エロをやりたい作品ならまあいいかと思えるけど、もう性的な表象が手癖になってるというか無意識でデフォルトになってしまっているのでは?と思ってしまう。
そしてそれはアニメをよく見る自分も結構麻痺してて、指摘する人を見て気づいたりする。

 上記の「サカサマタジマ@tajima_69」氏による意見に対して、「Simon_Sin@Simon_Sin」氏が下記のように体験談を語っていた。


これホントにそう。「女性キャラの胸は揺らすもの」と思い込んでるアニメーターには「このシーンはお色気サービスシーンではないので胸は揺らさないでください」と指示しないと手癖で揺らしてくる。彼らはそれがお色気シーンだという自覚はなく「ずっとそうしてるから」揺らす。


意図をもって揺らしたいなら揺らせばいいんですよ。ポールダンサーがセクシーに胸を揺らすシーンなら盛大にやればいい。でも普通の女性が日常的に歩くシーンでユサユサ動かすのは「てめえこのシーンを何だと思ってる?」とド詰められる


アニメーションのディレクションの仕事したんだよ

 まず「Simon_Sin@Simon_Sin」氏は匿名アカウントだから証言として信用できないという態度ならば理解できる。消費者にすぎない私も全面的な信用は留保はするし、たとえば私の個人的な体験談が実名アカウントと同じように信用されると困惑すると思う*1
 しかし「Simon_Sin@Simon_Sin」氏が過去にゲーム会社勤務と自称していたことと矛盾あつかいする意見が殺到していることにも困惑する。ムービーパートなどでアニメをつかうゲームはさほど珍しいものではないし、今回の発言は過去の自称と整合性はあるだろう。


この犬メガネの人、、数年前は都内のゲーム会社勤務って設定だったのに、いつの間にかアニメディレクターの肩書きまで設定に加わってる、、、

もう、フォアキン・フェニックスのジョーカーのワンシーンを観ているようです。

 アニメのディレクションをしたことと、アニメディレクターの肩書きをもっていたことも微妙に異なる話だ。


 そもそも著名なアニメ制作者の実名証言で似たものが複数あるので、体験談のような出来事が実在することに不思議はない。


子供向けアニメは大体このルールです。
私が昔参加してた作品でも、頑なに胸を大きく描いてくる、自分の欲求を投影させた絵を描いてくるアニメーターに監督がキレて「胸を大きく描いたり強調させる影をつけた原画は全てリテイクにします!!」って怒りの直筆お手紙が配られました。勿論パンチラも禁止


そらそうよ・・

昔子供向けアニメで
レイアウトと2原に
女キャラの水着の股間部分に
執拗に線を描いてくる馬鹿原画マンがいて
制作が即NGリストに入れたっけ

頭がおかしすぎる


今でも時々いますね・・・・
エロ方面でなくとも、個人的な拘りにしばられてる方。
仕事をするうえで、熱情やこだわりは必要だとは思うんですが、それを露わにして良い場かどうかは考えて欲しい;


女の子のキャラだけほほブラシ入れて上気させる奴もいたなぁ🙄監督が演出に「コイツ熱でもあんの?」ってキレてた

 仮に「Simon_Sin@Simon_Sin」氏の体験談が虚偽だったとしても、むしろ上記のような証言を参考に現実的な範囲で創作したと思うべきではないだろうか。


 なお、無責任な消費者のひとりとしては、失敗も覚悟してカットごとのアニメーターの裁量の自由度は高くあった方がTVアニメは楽しいことが多いとは思う。同時に、そうした冒険はディレクターからの否定を覚悟してやるべきとも思う。
『僕のヒーローアカデミア』第109話で国外アニメーターが原画を描いたアクションが完成形でおとなしくなった件 - 法華狼の日記
 くわえて、アニメーターの暴走をコントロールできるほどの充分な対価や環境を制作会社が用意できているだろうか、という疑問もないではない。そのアニメーターの暴走の責任をとるのはディレクターになるわけではあるが。

*1:昨日にあげたエントリも、私が書いた部分は匿名の体験談として記録しておく以上の意味はない。『サザエさん』においても、戦時中の記憶とむすびついたイモを忌避する描写があるらしい - 法華狼の日記

『サザエさん』においても、戦時中の記憶とむすびついたイモを忌避する描写があるらしい


サザエさんで夕食がイモの天ぷらと聞いて、波平とマスオがブチ切れる四コマがあるのだが、これも戦争経験を踏まえたもので、今の読者は2人がなんでキレてるのか分からんだろうと思う。つまり、南方に従軍していた波平は当然として、マスオさんも戦時中の食生活の記憶があるんだよな。
『サザエさん』の4コマ漫画。夕食がイモの天ぷらと聞いて怒りだす祖父と父。しかし孫娘が遠足でほったイモと知り、喜んで食べてみせようとするオチ。

 もう十数年前になるが、朝市で見かけた光景を思い出した。
考えれば、あって当然の話にしても - 法華狼の日記

並べられたパンを前に悩む老婆が一人。どうやら朝食にしようと思っているらしい。しかしほとんどが菓子パンのたぐい。
そこで売り子が、さつまいものパンを勧めた。甘味が抑えられていて、朝食に良いだろうと。そこで老婆が答えていわく。
「芋は戦時中を思い出すからねえ……」

 最初の漫画紹介も、先生から送られた礼状について証言する大学教授を引用したもの。けっこう特定の時代に普遍的な記憶なのかもしれない。