法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『六花の勇者』山形石雄著

復活がせまる魔王を封印するため、呪術的に選ばれた六人の勇者が集まろうとしていた。しかし魔族のいる地域と人間のいる地域を分断するための結界が、何者かの手によって発動し、勇者は一帯に閉じこめられてしまう。
広義の密室状態で、結界を発動させられたのは、神殿に向かった勇者アドレッドのみ。しかし自分だけが疑われる状況で、あえて嘘をいうだろうか。
しかも、集結した勇者は七人いた。濃霧の結界を発生させたのは誰か、偽の勇者は誰か。疑心暗鬼におちいった勇者は、偽者の思惑通りに衝突していく。やがてアドレッドが、最も怪しい存在として、他の勇者から追われることとなるが……


本格ミステリでいうクローズドサークル物と、たがいを疑った能力者が戦うデスゲーム物を、欧風ファンタジー世界で融合した作品。各勇者が能力を使う戦闘場面も絵になり、アクション重視の異世界ファンタジー小説としても楽しめた。
そして謎解きの比重は、犯人探しよりも、どのようにして結界を発動させたかにある。この世界には「聖者」と呼ばれる、神の力を借り受けて一種類の能力をあつかえる者が存在する。しかし、結界を発動させられるような聖者がいないことは複数の意見で確認された。
人間のふりができる魔族もいるが、神殿には人間しか近づけないこともわかる。つまり偽者の勇者は、人質をとられたりして魔族に協力した人間ということになる。


語り口調は、主としてアドレッドの視点で描かれる三人称。つまり、叙述トリックによってアドレッドが犯人という可能性もあった。しかし、すぐに偽者視点の独白がはさみこまれ、アドレッドが偽者ではないらしいことが明かされた。アドレッドが自覚しないまま偽者にしたてられている可能性も残りつつ、とりあえずアドレッド視点で謎を解いていけばいい。


そして大枠の謎解きは、ある程度まで予想したとおり。クローズドサークルに閉じこめられる前、結界について説明された時点から、魔物の策は始まっていた。
しかし勇者候補を殺してまわった「六花殺し」を問いつめた場面から、濃霧を発生させた真相の伏線がしかけられているとは予想できなかった。そのメカニズムも、ワンアイデアかつ大仕掛けで、豪腕ぶりが楽しい。そして証拠が発見される場面も、なかなか絵になる。
一方で、真犯人を特定する手がかりが登場する場面は、伏線がなさすぎてミステリとしてはつらい。ただし手がかりが描写される前からも犯人はしぼられているし、手がかりが登場した後で傍証について言及される。おまけに読者しか知らない傍証も存在するので、許容できる範囲ではあるか。


あと、このオチからどのように続編を展開するのか、普通のファンタジーに移行するのかと思えば、ショートショートのような大オチに笑った。デスゲーム物と考えると投げっぱなしとして定番すぎるくらいだが、ちゃんとシリーズが続いているのでひとまず良し。