法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『嘘月』杉山幌著

電子雑誌『BOX-Air』で連載され、2011年に講談社BOXから出た連作短編小説。第1話は試し読みできる。
講談社BOX:講談社BOX×BOX-AiR 単行本化第一弾|講談社BOX|講談社BOOK倶楽部
超能力者を集めた学園へ潜入した、無能力者の主人公。学園で起きる小さな事件を解決し、超能力者との友人関係をはぐくみながら、やがて主人公は探偵することの罪と罰に向きあっていく。


能力は物語に合わせて創作されたものではなく、感覚や思考が肥大した程度にとどまる。物理的な行動に制限があり、ひとりひとつしか能力を持たない設定なので、ちゃんと不可能状況らしい謎が生まれる。
しかし、どのような能力を関係者が持っているのかということも謎なので、あまり推理に厳密さはない。こまごました事件を描いた回よりも、能力設定が読者に開示されてからスポーツ大会が描かれた回でこそ、ミステリらしいトリッキーさを楽しむことができた。
能力の種類と動機が密接にからんでいるので、ハウダニットと独立してホワイダニットを楽しむこともできない。読者が謎解きに参加する本格ミステリという期待はするべきではなく、どんでん返しがくりかえされる学園サスペンスや、主人公の思考を追っていく青春ライトノベルとして楽しむべき作品。