法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ミステリクロノ2』久住四季著

天使の落とした道具「クロノグラフ」。その中で一定期間の記憶を奪う能力の「メメント*1が、とある優等生な少年に対して使用された。記憶を失った少年はひきこもり、その少年に対して因縁をつける二人組の不良が出没し、少年に恋人という立場を信じてもらえない少女が戸惑う。それに並行して描かれる、メメントを手にした者の独白……


多重どんでん返しサスペンスとして、非常によくできていた。シリーズ一作目と違い、天使との出会いやクロノグラフの説明に頁数をついやす必要がなかったおかげもあるのだろう*2。記憶喪失をあつかった物語に、超常的な機能を持った道具を導入することで、説明を簡素化しつつ、推理を厳密化する。
ライトノベルにしても言動が奇妙というところから、最後に明かされた真相には序盤から見当がついた。しかし途中で明かされた真相には気づけなかったし、その途中の真相と最後の真相が意外な関連を見せる。人間関係が無駄なく端正に構築されている。


何よりも良かったのが、主人公視点と並行して描かれる、メメント入手者の物語。
犯人視点が描かれるミステリとして定石的な展開と見せかけて、さらに別の定石を重ねて、しかも肩透かし。なおかつ肩透かしと判明する情報を基点として、ミステリらしい推理が展開される。
ある種の定石を二重に使っているだけでなく、それによって主人公が推理の材料をえたことを隠しているのだ。
この種のトリックの応用例として、真面目に記録されるべき一作と感じた。

*1:同名のサスペンス映画は後書きで言及されている。最後に明かされた真相の構図など、以前に私が感じたテーマとも似ているかもしれない。その感想はこちら。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20120828/1346196771

*2:一作目の感想はこちら。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20111014/1318604755