法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『コードギアス 復活のルルーシュ』

 世界を独裁的に支配しようとした若き皇帝ルルーシュが白昼堂々と暗殺され、平和になったはずの世界。しかし砂漠の難民キャンプが謎の集団におそわれ、傭兵産業でさかえた小国ジルクスタンの暗躍が示唆される。
 一方、世界を安定させるため自らを殺させたルルーシュは、生きのびつつも記憶と人格をうしない、相棒の少女ひとりにつれられて世界をさまよっていた。しかしもとのルルーシュにもどれる場所がジルクスタンにあるという……


 2019年に公開された完全新作アニメ映画。TVアニメを再編集した総集編映画三部作からつづく後日談として、TVアニメのスタッフが再結集した。

 拡張性のある世界設定で群像劇を展開できるコンテンツのはずが、舞台から去ったルルーシュという主人公を商品の中核にしなければならなかったところは同じサンライズ制作の『装甲騎兵ボトムズ』のよう。『コードギアス 亡国のアキト』という外伝アニメシリーズでも、別のかたちで記憶をうしなったルルーシュを登場させたほどだ。
 しかし死なせた主人公を復活させた続編を出すにあたって、一時代を築いた大ヒット作で主人公の帰還を描くという企画そのものの力にもたれかかっていない。全体の1/4の尺をつかってTVアニメの結末*1のままルルーシュは退場すべきと考えている観客にも復活を納得できるようにして、復活によるカタルシスを描いた後も主人公の仲間集めに前半をつかいきって漫然とした時間をつくらない。
 後半もトリッキーな騙しあいを重視してストーリーをよどみなく動かし、超能力ギアスの謎解きと対処法をそれなりに楽しませてくれた。兵力を輸出することで成立していた小国が平和のおとずれによって苦難におちいった逆説や、そこで統治する姉弟が主人公兄妹のネガになっている構図も明確。映像ソフト特装限定版のブックレットを読むと、脚本の大河内一楼も自認していた。
 独立した作品として見ても、まず基本を見せてから応用を描くという段取りがていねい。たとえばロイドという戦闘力のない技術者を最前線で生きのこらせるため絵コンテを切りながら設定したという眼鏡バリアを、一発ネタで終わらせず後半で応用する。


 映像は奇をてらわず、わかりやすさを重視している。ところどころ主観カットをつかっているところは谷口悟朗コンテらしいが、あくまで映像技法のひとつとして活用している。
 劇場アニメでありながら、安定しつつも意外と作画は細かくなく、TVアニメの印象とほとんど変わらない。もちろん実際に当時の映像と見くらべると線の密度や撮影はまったく異なるが、業界全体の水準向上にあわせているくらいで過剰ではない。エンディングに入る瞬間のモブシーンが、ちゃんとひとりひとりを動かしているのに描きこみは粗いところがわかりやすい。TVシリーズのポイントとなるエピソードのほうが、生々しく繊細にキャラクターを作画していたと思う。かわりに映画らしく引いた構図を多用して、背景美術も精緻になっている。
 巨大ロボットの戦闘は、敵味方が飛行できるようになったTVアニメ2期終盤の状況からいったんリセットしている。前半は車輪走行とワイヤー昇降をくみあわせた動きに制限がある戦闘でTVアニメ1期までの緊張感を感じさせて、そこから後半にかけて異なる状況と機体ごとに異なる魅力の戦闘を描いていく。作画や演出だよりではなく、物語や状況設定の段階からおもしろい戦闘をつくろうと工夫して、成功していた。


 シリーズに強い愛着があるファンの感想はまた違うだろうが、全体として肩の力がぬけつつ手をぬいていない娯楽活劇として自然に楽しめた。
 サービスと話題性と意外性を重視するあまりバランスがくずれていたTVアニメの終盤とは異なり、全体の調和をとりつつ小さくまとめていて見やすい。