法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『GODZILLA 怪獣惑星』

 さまざまな怪獣が地球に出現して文明を破壊したことで、一部の人類は異星人と協力して宇宙へ脱出した。しかし人々は過酷な宇宙移民を断念していく。そして主人公ハルオの怪獣ゴジラへの復讐心に扇動されるように、人々は脱出から数万年がすぎた地球へと帰還するが……


 映画史に残る怪獣シリーズを初めて3DCGアニメ化した2017年の日本映画。虚淵玄が脚本を担当し、ポリゴン・ピクチュアズが制作した三部作の一作目にあたる。

 あまり三部作の良い評価を聞いていなかったが、とりあえず単体で見たところ、意外と悪い作品ではないと思った。実写の『ゴジラ』シリーズにはもっとダメな作品が多いし、この作品はアニメでしか出せない見どころがきちんとある。


 まず映像はかなり簡素で低予算に見える。Netflixの豊かな予算がゴジラ版権の獲得につかわれて制作費が残らなかったとも聞く。事実として物語の大半が無機質な宇宙船内か植物に覆われた地表で終始して、登場人物の誰も彼もが統一された装飾の少ない服装で、トーゥンシェードの3DCGアニメらしい省力は目立つ。しかし世界各地の都市がさまざまな怪獣に襲われた歴史を静止画で見せるタイトルバックや、主人公が地球から逃げる回想で人間の建造物がゴジラに襲撃されるシチュエーションのような序盤は順当に楽しめた。
 また、宇宙船内で地球へ帰還してゴジラへの反撃を強硬に主張する主人公が軋轢をひきおこす前半はどうでもいいとして、そこで主人公が考えたゴジラ対策と、実際にもどった地球の異変でSFアニメとしての面白味が出てきている。その設定はG細胞が怪獣を生み出すVSシリーズの延長であり、それが地球の生態系すべてを変化させていくところは『ガメラ2 レギオン襲来』の発展形のようでもある。主人公の暴走じみた復讐心も、物語をすすめるために発揮され、葛藤でアクションを停滞させない良さがある。
 地球の変容した都市部は静止画で表現された廃墟くらいしか描写されないが、それが長い年月をへても形状をたもっているSF的な説明は面白かったし、現在とは異なる植生でおおわれた森林は昭和末期の何もない山や島でばかり怪獣があばれるよりは見ごたえがある。どこまでもつづく森林のなかに登場するゴジラも、浮遊機械に乗って戦おうとする人類を同じ画面に入れて対比することで巨大感が充分にあった。


 そして「大どんでん返し」*1の結末は、むしろシリーズのよくあるパターンであり、それを前半からていねいに伏線をはって納得させてくれたという印象が強い。
 難点として、直前のクライマックスらしいもりあげに台無し感を追加してしまったところは好みがわかれそうだし、死んだ怪獣の死骸と同一画面に入れたりして巨大感の違いを表現する描写もほしかったところはある。
 それでも、宇宙船で脱出してウラシマ効果で約2万年の時間をへた結果として発生した驚きを鮮烈な絵で見せてくれた。

*1:オーディオコメンタリーの該当場面より。