法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『フランケンシュタイン対地底怪獣』

 第二次世界大戦の末期、ドイツから日本へ潜水艦で謎のアタッシュケースが運ばれた。そのなかで、液体に浮かぶ心臓が動いていた。フランケンシュタインのつくりだした不死身の生命だという。
 しかし日本の広島にたどりついた心臓は原爆投下により行方不明になった。そして戦後の広島で、女性研究者が不思議な戦災孤児をひろうが……


 1965年の日米合作映画。本多猪四郎監督と円谷英二特技監督という東宝特撮映画の黄金タッグで、いつもの怪獣映画よりやや小さいスケールの巨人と怪獣の戦いをリアルに描く。

 タイトルの地底怪獣には「バラゴン」とルビがふられているが、劇中では「地底怪獣」とだけ呼ばれている。20年以上前に劇場公開版は視聴したことがあるが、DVDではじめてタコ出現版を視聴した。


 まず、記憶より戦中パートが長い。そこで無骨なケースをあけると液体につかった心臓だけが動いているビジュアルが魅力的。『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』のシズマドライブや、『機神兵団』のモジュールに影響をあたえているのかもしれない。

 戦後の本編に入ると、急成長する子供がフランケンシュタインなのかという謎が物語をひっぱる。そこでたしかめる方法として手足を切り落とすことがドイツの科学者から提案され、もちろん日本の科学者は難色をしめす。この場面が一見すると無関係なフランケンシュタインの脱走にかかわってくることに驚いたし、その関連を観客にしめすビジュアルの強烈さも印象的。記憶にのこっていなかったが、かなり巧妙な物語構成をしている。
 フランケンシュタインを科学者が解明していくドラマと並行して、地底怪獣の神出鬼没な破壊が描かれ、それが登場人物をまどわすドラマも生んでいる。地下にはわかっていないことが多いという会話があるので、怪獣が地割れに飲みこまれる唐突な幕引きも許容できる。
 問題は終盤のタコの唐突すぎる登場で、いっさい伏線も説明もなく山間部にあらわれたことには唖然とした。そこまでフランケンシュタインの性質を調べて移動経路を推理する物語がつづき、それを混乱させる地底怪獣の行動も並行して描いている。誰にも気づかれず第三の怪獣が登場できる世界観ではない。最終的に劇場公開版はもちろん、タコ登場を提案した海外でもタコが登場しないよう変更されたのも当然だろう。
 逆に、劇場公開版の結末も初見では唐突な印象があったが、あらためてシネマスコープで見るとバラゴンの活動で地形が崩れていく描写が執拗にくりかえされているので、バラゴンを倒したフランケンシュタインがバラゴンのつくった地割れに飲みこまれた一種の相打ちに見えて納得できた。


 ミニチュア特撮作品としては充実していた。キグルミではない、当時なりの特殊メイクを俳優にほどこしたフランケンシュタインは動きの自由度が高く、高低差のあるセットでも移動しやすい。しかも怪獣のスケールが小さいおかげでミニチュアのサイズが大きく、平坦な板にミニチュアをならべたような単調なセットになっていない。あまり出番の多くない海底油田や研究所のセットもしっかり作っている。冒頭の無人の戦場など珍しい情景も多いし、マット画の精度も高い上に動く部分をつくっていて気にならない。
 猪や馬が人形丸出しなのは有名で、ご愛敬と思って苦笑する。しかしミニチュアとからませる人間を人形で表現している部分は意外と違和感がない。カットを短めにして、上半身だけ見せたり倒れた場面にすることで、動きのおかしさが気にならないようにしているおかげもあるだろう。
 しかしブルーバック合成の精度が低く、輪郭が青くチラつくカットが多いことは残念だった。手前に人間、奥に怪獣を配置したレイアウトが多くて、超常と現実の連続性を表現しつつ世界の奥行きを描けているのだが、だからこそ合成とバレているカットの多さが演出の効果を減じている。同じような大サイズでミニチュアの精度を高めた大映の『大魔神』の前年に公開されたことで、当時の東宝が合成技術では大映に劣っていたことがよくわかる。そしてそれが日本の特撮愛好家に合成が嫌悪されていた原因のひとつではないかと今さらながら思った。