法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 Season20』第1話 復活~口封じの死

ある出来事の罪をかぶった女性が自殺したらしいため、敵対していた特命係と女性弁護士が協力することに。それにからんで暗殺されたIT長者があずけた鍵の正体をめぐって策略がしかけられ、それを盗んだと指弾された冠城は拘置所へ行く……


初回スペシャルの前編。数年ぶりに出所した人物によって、小野田官房長官の死などシリーズ初期を引いた描写が多い。そのなかで、これまでのシーズンで少しずつネーミングなどでふれられた亀山薫が、ついに本編でも映像で回想された。
ただ、そうした回想は冒頭のファンサービスにとどまり、物語の本筋は前シーズンラストのIT長者暗殺劇の後日談。凄腕の暗殺者が内調の手先のように暗躍して、警察でも本物と判断されるようなディープフェイク映像で罪がかぶせられる。
hokke-ookami.hatenablog.com
hokke-ookami.hatenablog.com
過去に登場した複数の超人や超技術を前提にトリックがしかけられ、物語の連続性が高まるかわりに、良くも悪くもSFドラマを見たような印象が残った。悪人ができることの多さを敵味方が知っているため、事件の不可能性という方面から興味をもちづらい。
鍵の正体という争奪対象がはっきりしているので話は追っていけたし、女性が自殺した写真記録の奇妙さが最後に指摘されて次回への興味はわいたのだが……

軍艦島が「地獄」と呼ばれたのはいつから?

もちろん日本人証言者でも、少なからず炭鉱夫の苦難を語っていたことが記録されている。
note.com
一方で、世界遺産を広報する立場からは、登録時に条件づけられた強制連行の明記に抵抗して、くりかえし支配者側からの美化が表明されている。
ドキュメンタリ映像を他の炭鉱のものと主張しながら、同時に労働環境が良い証拠として造船所の給料袋を展示するような矛盾もきたしていた。
hokke-ookami.hatenablog.com
悪評にもとづく「地獄島」という表現への反発もよく見られ、新聞に意見広告を出すクラウドファンディングも達成した。
readyfor.jp
端島と高島の混同を疑った澤田克己氏の毎日新聞記事に対して、高島も地獄島ではないと反発したこともある。
日本人労働者の血と汗、そして産業遺産を考える | オアシスのとんぼ | 澤田克己 | 毎日新聞「政治プレミア」

 私は前回、「端島は地獄島だった」と非難する韓国の絵本「軍艦島」を取り上げ、絵本の描写が1880年代の高島炭坑に関する記録に似ていると指摘した。

 絵本への疑問を呈したのだが、加藤さんは違う理解をしたようだ。「Hanada」で「今度は高島を地獄島だったと言い始めたのです。具体的な根拠はあるのでしょうか」と私を批判している。

 だが、高島の労働環境が非人間的と言えるほど苛酷だったことは有名だ。私のコラムでは、三菱鉱業セメント(現三菱マテリアル)が閉山後にまとめた「高島炭砿史」(1989年)などを根拠として明示した。

澤田氏は高島については過酷だった根拠があると反論していた。
しかし誤りがあれば修正されるべきだとして、逆に高島のような過酷さが端島になかったといえるだろうか。
そもそも炭鉱が「地獄」とされたのは、「韓国側」に固有の認識なのだろうか。


まず端島の観光地化と記録をおこなっている「軍艦島デジタルミュージアム」では、長くつづく過酷な階段が「地獄段」という通称とともに再現されている。
地獄段の舞台裏!?|軍艦島デジタルミュージアム

4階にあがると目の前には大きな地獄段の舞台セットが!
こちらの舞台セットは昨年上演された軍艦島を舞台にしたお芝居、
『バッキャロー!シリーズ』に使用されたセットです。

また、かつて船が脆弱だった時代には、海の恐ろしさを表現するように「板子一枚下は地獄」ということわざがあった。
同じように軍艦島ミュージアムでも、近隣の高島炭坑についての手記『地獄の底は頭の上』を歴史的な証言として推している。毎日新聞も紹介していた。

出版:「地獄の底は頭の上」 高島炭鉱の日々、長崎市の岩崎さんが体験つづる /長崎 | 毎日新聞

世界文化遺産明治日本の産業革命遺産」の構成資産「高島炭坑」で働いた長崎市の岩崎健典(たけのり)さん(76)が、炭鉱での体験をつづった「地獄の底は頭の上」(テラヤ書房)を出版した。

こちらは1980年から1986年までの体験談で、世界遺産になった時代の遺構とは直接の関係はないが、単語選択が興味深いところではある。
高島と端島はたしかに異なる炭鉱だが、時代も場所も近しい。大きな違いがあると澤田氏らが主張するなら、その根拠が必要だろう。


そもそも端島世界遺産になるように活動していたNPO軍艦島世界遺産にする会」では、かつて下記のような記述が引用されていた。

ノンフィクション作家林えいだい氏の著書「死者への手紙」の”まえがき”で著者は次のように触れています。(抜粋。この本は現在でも入手購入が可能です。)

 一端強制連行され島に入ると、東シナ海黒潮の潮流により島からの脱出は不可能であった。孤島の閉鎖性のために中でどんな圧制が行われても絶対に外部に漏れることはなかった。端島の岸壁の桟橋に残る石造りの門は一生出られない「地獄門」であり、崎戸島も「鬼ヶ島」といわれ、高島は「白骨島」、3つの島は「1に高島、2に端島、3で崎戸の鬼ヶ島」と言われ、その存在は人々からおそれられた。

慣用表現で高島も端島も同列にあつかわれている。どうやら最後に崎戸を鬼ヶ島と呼ぶのが基本形で、一番目と二番目は他の炭鉱が入る場合もあるらしい。

 ここでは、端島の歴史の一つとして強制労働に触れ事実の一端をお伝えするにとどめます。時代背景や更に詳しい実態をお知りになりたい方は改めて検索していただくか、上記書物などを参考にしてみて下さい。

末尾の断り書きに見られるように、あくまで中立的な筆致ではあるが、しかし立場によっては「地獄」と表現されていた事実は認めていた。
世界遺産になった後の「軍艦島世界遺産にする会」はさまざまな強制を否認する方向へかたむいているが、「尺度は一人一人違う」という見解からの記述も残っている。
さまざまな軍艦島 - 軍艦島を世界遺産にする会 公式 WEB

軍艦島を・・地獄島、緑のない島と表現するのは簡単でしょうが

ものさしを変えて図ってみるとその中には明るく楽しいダイナミックな

島おこし、町つくりがされていたことも見えてくるのではないのでしょうか。

この記述を逆に考えれば、他人の尺度では「地獄島」「緑のない島」と表現されることも認めている。


さらに「1に高島、2に端島、3で崎戸の鬼ヶ島」という慣用表現を調べると、まさにそれをタイトルにもちいた書籍が2020年に出版されていた。

著者の中西徹氏は元編集者で、終戦直後に崎戸で出生したという。タイトルが象徴するように労働の過酷さや強制連行にも言及しているようだ。
近現代の炭鉱史まとめた本出版 崎戸町出身の編集者中西さん 「歴史見つめ直すきっかけに」 | 長崎新聞

 中西さんは、父が崎戸炭鉱の付属病院で働き、炭鉱を身近に感じながら育った。1968年の閉山後、関西へ移り、出版業界で勤務。閉山から50年を迎えるに当たり、炭鉱で盛衰した古里や、過酷な労働を強いられた人々の記録を残そうと書籍の編集を始めた。

中西さんは「労働者の強制連行など、負の部分にも光を当てた。歴史を見つめ直すきっかけにしてほしい」と話している。

ここで、反発する意見が検索の上位となる軍艦島端島ではなく、慣用表現で同列にあつかわれた高島や崎戸で検索してみると、1970年の書籍が引っかかった。
高島文献目録|島の図書館―離島文献情報サイト

「〝地獄島〟高島の圧制 坑夫を牛馬のごとく酷使」

著者は朝日新聞西部本社で、書籍そのもののタイトルは『石炭史話 すみとひとのたたかい』。章のひとつで高島が「地獄島」と表現されているようだ。

これも余裕ができれば内容を確認しておきたい。


いずれにしても、軍艦島をふくめて日本の炭鉱が「地獄」と表現されたのは最近にはじまったことではないし、韓国が被害をうったえる時だけにつかわれるわけでもない。
もちろん炭鉱の労働環境はどの時代も同じわけでもない。さまざまな抵抗で改善を勝ちとったこともあれば、戦時の増産体制で過酷さが増したこともあった。
しかし世界遺産の登録が明治時代の遺構ということを考慮すると、そもそも朝鮮人強制連行以前の、日本人に対して過酷だった時代から展示するべきだろう。
差別とは外だけでなく下にも向かう。外部からの批判から耳をふさごうとして、内部の苦難をも押しつぶす。それはきっと現在の問題にもつづいている。
globe.asahi.com
digital.asahi.com

『世界まる見え!テレビ特捜部』ウマい!オモシロい!腹ぺこグルメ

ミニ映像集の後、まずオーストラリアからアマチュア料理人を集めたスイーツ対決番組。今回は「重力に逆らう菓子」というテーマの第一回戦のみ紹介。
薄い円盤状の飴を2枚、縦にジグザグに組んでから上にボリュームあるケーキを乗せるアイデア。熱い紅茶のグラスに薄い飴の蓋とバニラアイスを乗せ、時間がくると溶けて落ちてミルクティーに変わるアイデア。球体のチョコレートを斜めにくっつけて塔にするアイデア。チョコレートの輪と板で弱々しく見える土台をつくり、上に普通のケーキを乗せてギャップをねらうアイデア
なかでもレンガ職人のマイケルによる、空中のコップから中身が注がれるタルトが、宙に浮くパスタなどの前例はあるものの完成度が高いと思った。
しかしタルトの色彩を気にしすぎ、生焼けになって不味いとマイケルは評価された。紅茶に自然にアイスを落とすアイデアも、むしろ重力に従っているとツッコミを受けて、ふたりは敗者復活戦にかける。
そのために番組を主宰するパティシエの見本、急速冷凍で層をつくった球体菓子をチョコレートの薄い帽子でつつんだ菓子を、レシピ通りに再現することに。そしてミルクティーをつくったケイトが勝ち残り、トーナメントを勝ち進んで優勝したという。しかし見本の帽子が浮いている方法はただの磁石で、製菓技術と無関係なハッタリでしかなかったのはどうなんだろう……


次にイギリスの三ツ星シェフが宇宙飛行士のため、NASAの審査をくぐりぬける美味しい宇宙食を開発する。
よくインターネットでステロタイプギャグにされるイギリス料理だが、ちゃんとミシュランに掲載されるレストランもあるし、映像で見てもよく工夫されて美味しそうだ。
ただし宇宙食にするためには飛び散らない安全性や、アルコールを隠し味にも入れないこと、塩分を抑えること、さらに厳しい衛生検査をクリアしなければならない。
宇宙飛行士の好みにあわせてバーベキュー風のソーセージ料理にしたり、高級なビーフシチューにしたり。検査期間が足りないのでパウチを断念して加熱殺菌される缶詰につめこみ、試作であふれた汁気はソーセージの種類を変えたりマッシュポテトに水分を吸わせて解決。ビーフシチューは塩分のかわりに刻み昆布で旨味をおぎなう。
スタジオに登場した再現料理も、たしかにどれも美味しそうだった。


ペルーのアンデス山脈に、世界最高峰のマラス塩田がある。5月から10月にかけて塩分をふくんだ湧水を棚田に流して、日光で蒸発して浮かんできた結晶を集めて盛って乾燥させ、さらに高所にある倉庫へ運びこむ。千年前から変わらぬ方法。
トウモロコシとアボカドのサラダを食べ、アルコール度数2%のトウモロコシビールで喉をうるおす。しかし世界のグルメから注目される高級塩を重労働で作っているのに、月収はペルー内でも平均以下。
そこで外国で塩を売っていた男が帰国して現地の買取価格と末端価格の大きすぎる差を教えて、塩を買いとっている組合を調査して高い利益をあげていることをつきとめ、交渉してボーナスを勝ちとった。塩田を代々引きついでいる夫婦の娘も無事に出産して、次の世代につながるだろう期待がもてる。
伝統文化の素晴らしさと、それを現代社会に継続させるための運動を同時に描いたドキュメンタリとして印象深かった。

『トロピカル~ジュ!プリキュア』第32話 駆けろランウェイ! さんごのファッションショー!

鈴村家に集まっていた時、恒例の海辺のファッションショーでモデルに欠員が出たことを知らされる。来ていたデザイナーの目に止まった鈴村は、代役としてランウェイを歩くことになるが……


守護このみ脚本、赤田信人と沼田広の共同作画監督。絵コンテとして、『ゲゲゲの鬼太郎』6期のシリーズディレクターをつとめあげた小川孝治が今作初参加。
前回*1につづいて敵幹部ヌメリーが出撃を要請されるシーンがいい。バトラーが薬を処方してもらっていたり、愚痴るヌメリーを必死におだてたり、ずっと不穏な空気をただよわせていたが単なる中間管理職だったのではと見方が改まった。
そんなヌメリーがファッションショーに潜入してやる気パワーを奪うわけだが、トラブルに乗じてモデルに変装させた怪物をランウェイに出撃させるだけで、鈴村たちが困ったトラブルはあくまで人間側で純粋に発生したものという構図も今作らしかった。人間のやる気を出させて収奪することが目的なのだから、イベントそのものを邪魔したりはしない。
そうしてプリキュア活動と並行して、デザイナーやモデルたちがトラブルを協力して乗りこえるドラマが展開できた。待機中はひとりヘッドホンをつけて周囲を遮断していたモデルが、同じ役割を分担した鈴村に語りかけるところが印象的。


全体として鈴村のドラマとしてよくできていたと思う。ひっこみじあんで通常回では目立ちにくいが、今回のようにドラマの流れがきちんとしていれば変身シーンの可愛らしさもよくわかる。
ただかわりに意外と夏海が機能していないことも痛感した。「トロピカってる」という他者への肯定が決め台詞なだけに意外と受動的なキャラクターとなっており、初回で感じた野性的な魅力があまり出ないことが多い。
先述の名もなきモデルがトラブルフォローのなかで語る「ワクワク」は、夏海の台詞だとしても違和感なく、逆にいえば夏海の立場はこれまでもゲストが分担しても成立したことが多かったろうと思わせる。

『ドラえもん』町内突破大作戦/コーディネートはスネカパで

視聴者が劇中のジャイアンリサイタルのモブとして登場できるクイズコーナーが開始。ナレーションののび太たちの、梅席は一番人気で、理由は逃げられるかもしれないからというネタは笑った。


「町内突破大作戦」は、のび太が帰宅を急ぐなか、ジャイアンたちのボールを神成家に投げこんでしまい、追われることに。ドラえもんは連絡をとったが、移動するための秘密道具をもってなくて……
リニューアル後の2010年*1と2017年*2にアニメ化ずみの後期原作を、三度目のアニメ化。現在なら携帯電話やGPSを組みあわせて現実に可能そうな追跡劇が描かれる。
視聴者を登場させるためか、陸上や体操の選手が追いかけてくるところはアニメオリジナル。東京五輪から着想したのかもしれないが、金につられて何でもやるアスリートの倫理観の低さを風刺しているといえる……だろうか? いやしかし意地悪な口元の悪役として登場させたのは色々な意味ですごいと思う。
全体的にデフォルメされた身体能力をコメディチックに見せて、あまり映像としての説得力はない。しかし助っ人を集めるためジャイアンが原作以上に懸賞をつりあげた結果、さしだしたくないスネ夫が最後の味方になる逆転は説得的なアニメオリジナルで良かった。ただ、室内にいても反応するはずのチップが、隠れ場所から登場した瞬間にくっつく描写は謎。


「コーディネートはスネカパで」は、スネ夫がレトロなファッションブランドをたちあげ、映像配信などをおこなう。のび太はそれに対抗して、古い服を着て注目をあつめようとするが……
清水東脚本、岩岡夢子コンテ、小西富洋作画監督のアニメオリジナルエピソード。ただし古さを競って最終的に鎧を着るスネ夫と原始人化するのび太は「古道具きょう争」だし、裸体に「キャーキャー」オチは「きせかえカメラ」だ。
古い服装でコスプレさせたかっただけだろ!という感じだが、ちゃんと作品の絵柄にあわせつつオシャレにデザイン化されていて、たいした内容はなくても楽しい。