法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

ピッコマのヨーロッパ撤退は縦読み漫画形式の失敗と同じではないし、日本の漫画もスマートフォンへ対応した形式に進化しているよ

 ウェブトゥーンがヨーロッパから撤退したというライトノベル作家のSOW氏によるツイートから、縦読み漫画が世界標準にならなかったと論じるTogetterが注目をあつめていた。
縦読み漫画ウェブトゥーンの『ピッコマ』中国に続き欧州も撤退、タテヨミ漫画は世界標準だって言ってたじゃないですかーー! - Togetter


ウエブトゥーンが中国に続き、欧州からも撤退か・・・中華市場は政治的な問題もあったのかもだが、欧州市場はまた別の事情もありそうやね。
mk.co.krから

 はてなブックマークも同調するコメントが多く、あくまで一社が撤退しただけという指摘は、Togetterの異論コメントを引いたid:x100jp氏のコメントが初めて。
[B! 漫画] 縦読み漫画ウェブトゥーンの『ピッコマ』中国に続き欧州も撤退、タテヨミ漫画は世界標準だって言ってたじゃないですかーー!

x100jp 棘コメ"この業者だけ不調なのか、縦読み漫画が不調なのか、そのへんはどうなんだろう?" それな。

 実際に記事を読んでも、縦読み漫画をメインコンテンツのひとつにしているピッコマというサービスひとつが撤退しただけで、ウェブトゥーンが受けいれられなかったという情報はない。
カカオのウェブトゥーンをはじめとするコンテンツ子会社であるカカオピッコマが欧州事業を撤退する。 欧州進出から約3年後に廃業することになる。 フランスを含めた欧州ウェブトゥーン市場の成長傾向が当初の予.. - MK

カカオのウェブトゥーンをはじめとするコンテンツ子会社であるカカオピッコマが欧州事業を撤退する。 欧州進出から約3年後に廃業することになる。
フランスを含めた欧州ウェブトゥーン市場の成長傾向が当初の予想より遅い中、現地企業の出血競争が深刻化すると、収益性の高い地域に集中するために下した決定と解釈される。

 同じサイトの別記事を読むと、利益を損失が上回っただけでなく、フランス現地でウェブトゥーンを配信する競合が複数出てきたことも撤退理由のひとつとされている。
カカオピッコマがヨーロッパ市場進出拠点である「ピッコマヨーロッパ」法人撤収カードを取り出したのは主力である日本市場に集中するという意味と解説される。カカオピッコマは日本でウェブトゥーン·ウェブ小説プラ.. - MK

色々な業者がウェブトゥーン市場に続々と参入し、現地市場が「レッドオーシャン化」されている点も負担として作用したという分析だ。 欧州最大規模の漫画出版社であるフランスのメディアパティシファシオンは今年初め、子会社のエリプスアニマシオンを通じてウェブトゥーン事業に進出した。 フランス現地のメジャー業者である「ピクソマガジン」はディズニーIPを基盤にした購読型ウェブトゥーンプラットフォームを作った。 現在、フランス市場ではデリートゥーン、タピトゥーン、ポケットコミックスなど多様なプラットフォーム会社が出血競争を繰り広げている。 さらに、グローバルビッグテックも欧州ウェブトゥーン市場への参入時期を予想している。

 以前に簡単に報道をまとめたことがあるが、中国漫画は電子書籍が大半で、縦書き漫画が強いと報じられていた。
「Webtoon」の勢いは台湾のgoogleトレンドを見ると少し実感できるかもしれない - 法華狼の日記

2018年で中国漫画の売りあげは2600億円ほど、うち4/5を右肩あがりの電子書籍がしめているという。

NHKの「クローズアップ現代+」で、中国の漫画はスマートホン向けの縦書きが強いと報じられてもいた。

 同時期の韓国のウェブトゥーンの売り上げが600憶円なので、縦読み漫画の世界全体の市場と韓国限定のウェブトゥーンの売り上げは同一ではない。


 そもそもピッコマは、日本ではウェブトーンではない1ページ単位のコマ割り漫画も多数配信しているし、実はフランスでも日本の一般的な漫画を配信している*1
https://piccoma.com/fr/
 フランス版ピッコマのツイッター公式アカウントを見ても、日本のホラー漫画として伊藤潤二作品を特筆して推していたりする*2


ジャパニーズ・オブ・ホラーはピッコマで配信中!今年は最悪のスタートを切ったような気がしませんか?伊藤潤二の貧弱なキャラクターを考えてみると、さらに悪いことになる可能性があります。慰めが必要な場合は、彼の猫日記がまだあります。
https:// lire.piccoma.com/Kaon/1tzfx0k8

 つまりピッコマの参入失敗をコンテンツの力不足と単純に考えるならば、日本漫画も力不足だった可能性が出てきてしまう。もちろん実際にはもっと複雑な理由があるだろう。
 日本漫画を読ませる時のピッコマの問題として、どのような作品でも縦読みにするか、横読みでも1頁単位でスライドするしかなく、見開き形式にできない。縦長モニターで見る場合しか想定されていない。
 たとえば見開きの頁をまたぐ変型コマを多用する長谷川裕一作品を読むと、ダイナミックでいて明確な視線誘導で読みやすい代表作『マップス』が、しばしば読みづらく位置関係もよくわからなくなる。
マップス|無料漫画(まんが)ならピッコマ|長谷川裕一
 実際に無料で確認できる範囲でいうと、「ACT.1 地図は白かった (2)」で見開きの左から主人公が攻撃する場面など、左から右への視線誘導にあわせて頁をもどしながら読む必要がある*3
ACT.1 地図は白かった (2)|マップス(長谷川裕一)|ピッコマ
 縦読み化に向いていそうな4コマ漫画も、さまざまな作者の作品を試し読みすると、意外と読みづらいものが多い*4。日本の漫画をコンテンツとして読ませるには、まだピッコマは選択肢や工夫が足りない段階に見える。


 一方で日本においては、スマートフォンでの読書に特化したウェブトゥーンと違って、旧来のコマ割りでありながらスマートフォンでも効果的に読める作品も増えてきた。
 特にジャンプ+の見開きは、右から左へスライドしながら1頁ずつ読む可能性を念頭にしたものが多くなっている。具体的にはキャラクターの動きの起点を見開きの右端に配置し、左へ向かうキャラクターのアクションと誘導される読者の視線を一致させている。
目標は鬼滅超え。大ヒットを生み出す「少年ジャンプ+」 SPY×FAMILY・怪獣8号 - Impress Watch

「怪獣8号」第1話にある見開きページ。スマートフォンの縦長の画面で表示すると、最初のページ(右半分)だけでも無理なく理解でき、次のページで全貌が分かるという構成。もちろん横長の画面で見開き2ページを一気に表示してもインパクトがある

 上記の記事でとりあげられている『怪獣8号』の他にも、読切では『勇者ご一行の帰り道』の見開きがWEB配信漫画ならではの演出として印象深い。
勇者ご一行の帰り道 - 平野稜二 | 少年ジャンプ+
 これはウェブトゥーンのような縦書き漫画が下にスライドして読ませる制限から生んだ新たな演出を、横倒しにしてとりいれたようなものではないかと思っている。
 かつて漫画の見開きといえば、先述の『マップス』でも多用されていたように、左右に配置された敵味方がたがいに攻撃しあう互角の演出も多かった。そのようなスマートフォンでは見づらい見開きは近年は少なくなったように感じる。


 もうひとつ、1話ごとの衝撃的な展開で注目をあつめていた『タコピーの原罪』に、内容だけでなく第4話の見開き演出に印象深いものがあった。
[第4話]タコピーの原罪 - タイザン5 | 少年ジャンプ+

 左右頁にそれぞれ顔面をいっぱいに描いて、見開きとして読むなら頁を盛大につかって圧迫感のある2コマとして、1頁ずつ読むスマートフォンならパラパラ漫画やADVゲームの差分のような表情変化の演出として読める。
 このように同じ構図や関連する情景を左右にならべた見開きは、この前後に発表された別作品でも見かけるようになった。スマートフォンで読むことを想定した演出ではないかもしれないが、1頁単位で切りとられて読まれても効果がある。

*1:ただし日本からのアクセスは遮断されている。

*2:文章の日本語化はgoogle翻訳をてなおしせずにつかった。

*3:ピッコマの18~19ページ。

*4:理由は言語化できていないし、個人差があるかもしれない。