女子高生の同性に対するひそやかな恋愛を描いた2009年のTVアニメ。いけだたかしによる漫画の連載途中に、菅沼栄治監督に倉田英之シリーズ構成というスタッフ構成でAICがTVアニメ化した。
原作とアニメ、それぞれ序盤だけ見た作品を、あらためて最終回まで視聴。倉田英之脚本作品でくりかえしサブテーマや裏テーマにされていた百合を、正面からメインテーマにした数少ない作品のひとつ。
レズビアンだけでなくトランスベスタイトなどもふくめてセクシャルマイノリティの片思いがねじくれていく物語展開はよくできているし、菅沼栄治のTVアニメ監督2作目ながら演出も作画も全体をとおして上品に安定している。
もちろんモブの作画の粗さなどは現在の水準とは異なるが、要所でTVアニメなりに動かしているし、止め絵でも体型や姿勢を描きわけていて、3DCGにたよる現在よりも見ごたえがある。自動車なども静止スライドが基本ではあるものの手描き作画で描写され、デジタル技術は地面などのパース移動で必要最小限に効果的な使用。TVアニメはこれくらいでちょうどいい。
映像で良くない印象をおぼえたところとして、十数年ぶりに見ると、序盤から頻出する体育時のブルマ姿に意外な違和感があった。時代を感じさせる良さもない。
かわいい女子をもとめる同性愛者の物語で、セクシャルな消費がされるだけでファッションとしてかわいいとはされなかった服装がなじまない。エロティックだから悪いというわけではなく、むしろかわいい下着を着替え場面などで描写したなら違和感は少なかったと思う。実際、女子高生でありながら中二男子のように妄想する主人公が、恋している相手の水着姿などで妄想する描写は違和感が少なかった。
たぶん制服がブレザーなのに体育着が旧態依然なところも違和感の原因だろう。セーラー服や詰襟が制服の学校として設定されていれば、ブルマももう少し情景になじんだと思う。スポーツ万能な主人公が長髪をまとめないまま活躍する描写もあわせて、体育関係だけは奇妙にふわふわと現実味がない。
物語としては、基本的に原作を再現する方向のアニメ化らしく、明確なアニメオリジナル回は校舎内で謎解きを楽しむなかでサブキャラクターにひとつのオチをつける第12話だけ。原作が連載途中ということもあり明確なピリオドは描かないが、第11話で主人公カップルのひとつの決着を見せてから、第1話を受けるように日常のなかで少しの変化を見せる最終話というダメ押しで完結した印象は充分にある。田舎は携帯電話が通じにくいというギミックが良い意味で時代を感じさせる。
ただし第1話が読切だった原作に対して作品の方向性をつたえるためアバンタイトルで別の少女同士のキスシーンを先行して描写した時系列アレンジなどはある。他にオーディオコメンタリーで特に言及されたアレンジとして、愛する人の名前の一部がタイトルに入った書籍を気にする描写が追加されているが、視聴している時はまったく気づかなかった。オーディオコメンタリーでも反省しているように村雨という名字と『雨月物語』の「雨」だけというのは共通項が少ないし、人物名が漢字で表記される漫画や小説と違って音で印象づけられるアニメでは気づきづらい。
いくつかの引っかかりは感じたが、全体をとおして今でも鑑賞にたえるのに、埋もれているのが不思議。百合を題材にしたTVアニメとして、2004年ごろの『神無月の巫女』などのブームがいったんとだえ、2011年の『ゆるゆり』からふたたびブームとなるまでの端境期に放映されたのが良くなかったか。