法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『Serial experiments lain』雑多な感想

 1998年に放送されたTVアニメ。ワイヤードと呼ばれるインターネットに似た仮想空間から生まれる謎めいた事件を描いたメディアミックス企画。

 TVアニメとしてはシリーズ構成の小中千昭らしいオカルトとデジタルの趣味が強いが、映像の呼吸などは出崎統の弟子筋にあたる監督の中村隆太郎らしさが出ている。
 ゴールデンウィークにAbemaで無料一挙配信されることが話題になったが、以前に購入したDVDでひさしぶりに視聴した。


 徹夜で6時間かけて一気に見たら、『魔法少女まどか☆マギカ』と似た構造の先行作品だったのだなと思う。いわゆる百合のような親友に、隠された異性愛的な情熱がありつつ、それを飲みこむように百合アニメとして終わるところは「まどさや」*1的か。
 初見から印象に残ったのは、第1話のスープをかきまぜる描写が、きちんと液体の中を個体が動くように作画できていて、しかし食卓の冷えこんだ雰囲気を表現するように湯気もなく無機質でマズそうだったこと。しかしそれが最終回のあたたかい食卓と対になっていて、納豆や味噌汁をまぜる描写はきちんと美味しそうになっている対比表現は今回に一気見したことで初めて印象に残った。


 しかし映像は、アニメの技術が進化しつづけた現在になって視聴すると、記憶とくらべて基本的にアナログ制作という印象が強い。もちろん必要なポイントごとにデジタル技術をつかって、レイヤーごとに拡大縮小率を変える奥行き表現や、死すべき少女の笑顔と叫びがオーバーラップする描写など、今見ても演出は古びていない。特に後者は黒沢清VFX演出のような面白味があった。
 背景美術も簡素なことに驚かされる。初見でも再見でも夜にシルエットを多用して省力していたことは印象に残っていたが、現在から見ると何もかも情報量が少ない。デジタル感の強かった繁華街のゴチャゴチャした背景美術は逆にアナログで手描きとわかりやすい。しかし緊張感あるレイアウトで、台詞のない長いカットでも情景が力をうしなわない。日光があたる部分は白くとばして、影に効果を入れた表現が今でも斬新。
 作画はポイント以外は期待より動かない記憶どおりだったし、あらためて見ても使いまわしが多いが、現在から見るとTVアニメでモブをきちんと手描きで動かそうとしているところが多い。終盤の「神」がメタモルフォーゼする作画は記憶どおり良かった。また、シリーズ構成の小中千昭自身が多くを担当した実写パートの出来が意外といい。