ひさしぶりに小説を書こうとして完結までたどりついたが、テーマが与えられた掌編だったおかげである。
【人力検索かきつばた杯】 テーマは“叙述トリック” 創作文章(… - 人力検索はてな
かきつばた杯のテーマは叙述トリックだった。お題がいきなりオチを明かしている上、展開も制約されているという難しさ。
におわせすぎると底が割れるし、気づかれないよう隠しすぎると真相が納得できない。はっきりオチで名前を出すべきだったかもしれない、と当時から悩んでいる。
『8月14日』
あの人の背中を追って息をきらせながら坂をのぼりきると、急に視界がひらけた。
白く焼けた石段の先に、うろこのような群青の海が、夏の日ざしできらめいている。
水平線で黒煙をたなびかせているのは戦艦だろうか。いや、きっと焼きはらわれた島の影だろう。旭日旗をかかげ堂々と出航した戦艦や駆逐艦は、その多くが祖国へ帰りつく前に海原へきえた。
そっと横を見あげると、あの人の横顔が遠くをまなざしていた。
家族のひいき目をぬきにしても、美しい人だった。金色の花がまばらに咲いた桔梗色の着物で身をつつみ、すっと背筋のとおった立ち姿。赤い腰帯までとどくはずの黒髪は、飾りけのない銃後髷にゆわれている。潮風にまじって濃いおしろいのにおいが鼻をくすぐる。顔立ちは、逆光で影にぬりつぶされて判然としない。それでも整った容貌をしていることが輪郭からわかる。
くちさがない隣近所からうしろゆびをさされていたことは気づいている。このご時世に贅沢は敵だとわかっている。将校の家でなければ、ずっと前に憲兵につれていかれたかもしれない。だけど、だからこそ夫のいない家をまもるため、あの人が美しい着物を身にまとわなければならないと僕はしっている。
着物のすそからのびた細い手首に、こわごわ指先をのばした。柔らかい皮膚にふれると、あの人も優しく握りかえしてきた。ひょっとしたら僕は恋をしていたのかもしれない。
子供が大人を、それも母のような相手へ恋なんて、おかしいだろうか。たしかに、もっとふさわしい別の言葉があったのかもしれない。だいたい男児の僕があの人へ恋をするなんて、はたから見れば思いもつかないだろう。だけど、あの人を心から大切に考えていたことはたしかだった。あの人も僕を母のようにいつくしんでくれていたと思う。
ふいに、あの人が背中を曲げ、せきこんだ。低い声がもれる。懐紙を口にあて、細い眉をひそめ、それ以上の声がもれないように耐えていた。
あの人は夫の帰りをまっていた。その願いははたされなかった。家にとどけられたのは、ちいさな木箱と石ころひとつだけ。
僕らは帝国の勝利を信じていた。あの人もきっとそうだったろう。だけど何度も眠りをさます警報と、炭となった街並みにほとほと嫌気がさす心もちは同じだった。
あの人は夫をうしない、自分も体をわるくして、生きる意味をなくしていた。死にたいと何度か口にしていた。周身をひそめるように坂をのぼってかけていた願は、夫の帰りから祖国の勝利へと変わったらしい。あの人が、時とともに今の美しさをうしなう姿を見たくなかった。
だから僕は一歩さがり、死んだ父が望んでいたと感じるままに、目の前の背中を石段へつきおとした。
長い石段をおりた先に、赤い大輪の花が咲いたような光景がうまれた。
ほどけた黒髪が地面へ扇のようにひろがり、染めきれていない地毛がうなじからのぞいている。ふと自分の手を見ると、あの人の長い髪が金糸のように指へまとわりついていた。
義母の命をささげたのだ。きっと帝国は勝つだろうと僕は確信した。
再び石段を見おろすと、着物がはだけ、赤い襦袢と腰帯が白い肌にかさなり、しま模様となっている。まるであの人の祖国の旗だった。
下記は水棲生物文明になりきって、陸上でなく水中で発展したことが必然であると語る趣向。
あなたは水棲生物文明の一員です。 http://q.hatena.ne.jp/13… - 人力検索はてな
たまたま先日から個人的に書いている海洋SFと内容がかぶっているので、自分自身の考えをまとめるため、逆に使いようがないネタを並べさせてもらった。
他の回答は真面目にSF考証しているものが多く、しかも先の回答とかぶらないよう工夫しているため、単純に読むだけでも多彩なアイデアが楽しめる。