法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ハートキャッチプリキュア!』第19話 涙の嫁入り!父の日の記念写真です!!

劇場版を手がけた大塚隆史*1が今回でTV演出に復帰。背景動画を用いたりと戦闘シーンにも相応の力が入っているが、個人的に目を引いたのはグラス越しの青空などの小道具でカットを繋いだ日常シーン。キャラクターの心情を作画芝居で演出することが多い大塚回で、キャラクターを見せないカットを多用すること自体が珍しい。くわしくは後述するが今回のデザトリアンが饒舌でないこともあって、良い意味で映像全体のトーンが低くなっていた。
作画スタッフは奥山美佳作画監督他、原画に末吉悟など。大塚演出ということもあってアクションに注目していたが、途中からコメディタッチの戦闘になってしまうので、期待ほどではなかった。前述した背景動画などは良かったし、作画修正も全般的に行き届いていて文句はないのだが。


さて今回の物語は父の日に合わせて、父と娘の物語。
田舎の父娘2人暮らし家庭に、来海一家とつぼみが泊まりにいく。その家の娘が嫁に行こうしながらも、父が心配で結婚へ躊躇を見せる……結婚相手の男は物語に全く姿を現さず、父と娘の葛藤に焦点を合わせる趣向が面白い。内容からは『ドラえもん』が好きな者として映画『のび太結婚前夜』を思い出すところ*2
もちろんこの物語にはドラえもんが存在しないので、その家の父に世話になった来海父が父娘の間を取り持とうと努力し、本音を引き出そうとする。もちろん仲を取り持つことには失敗するのだが*3、本音は引き出すことができたというところが後に繋がってくる。通常ではデザトリアン化して本音を吐き出す展開となるところ、今回はあらかじめ本音がわかっているのでデザトリアン化しても饒舌にならないのだ。
引き出された本音に対する周囲の応答が早々と行われているため、アクションとその後のドラマで物語が2度のピークを迎える通常と違い、アクションとドラマの起伏が同時並行する。そうしてプリキュアのアクションが終わるとともに物語も終わりに向かう……
大きく環境が変化する前夜のとまどい、その停滞した時間の流れが、饒舌でないデザトリアンやドラマにからまないプリキュア*4といった部分で、うまく表現されていたと思う。


ちなみに、プリキュアが田舎で農作業をする展開では『ふたりはプリキュア』第17話「ハートをゲット!トキメキ農作業」という話もある。
比べてみると『ハートキャッチプリキュア!』は、つぼみが植物にくわしいという設定があるだけあって、美味しいトマトの見分け方といった豆知識から、その説得によってえりかが苦手なトマトを克服するという小さなドラマへ繋げる。トラクターの使い方から、傾斜地に立つ広い平屋といった田舎らしいディテールも細かい。
一方『ふたりはプリキュア』ではキャベツの豆知識を主人公の1人が披露するが、特にドラマへ繋げることなく頭がいいというキャラクター性の演出として扱われた。キャラクターの関係性と変化、素材となる個々のキャラクター……それぞれの作品が何を見せようとしているかを考える上で面白い差異だと思う。また、田舎のディテールは甘かったものの、どことなく農作業らしい泥臭い雰囲気は『ふたりはプリキュア』が上だったかもしれない。

*1:しかしtwitterによると今はフィリピンへロケハンに出張中とのこと。フィリピンの風景を使うような作品を東映が手がけているという話は聞かないが、ひょっとして映画『ブッダ』に使うのだろうか。http://twitter.com/ohtsuka_takaswy/status/16456679731

*2:一般人は小津安二郎作品を思い出すところだろうか。

*3:さすがに作品では指摘されないが、そもそも写真家と芸能人の結婚という経験からくる説教では、あまり聞き入れてもらえないのではないか。

*4:もちろん主人公としてはおせっかいを焼くのだが、相手の心情をどこか理解しきれていないかのようなところがある。