「竜宮城の八日間」は2014年の中編を再放送。そろそろ浦島太郎の新たな研究にもとづくアレンジをほどこしたアニメ化を見たいと思っているのだが……
『ドラえもん』怪談ランプ/なんでも空港/竜宮城の八日間 - 法華狼の日記
『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021』は、軍事クーデターから逃れてきた地球人より小さな異星人パピを、縮小したドラえもんたちが助ける物語のリメイク。
山口晋監督と佐藤大脚本という体制で2021年の公開を予定していたが、新型コロナ禍による公開延期でロシアによるウクライナ全面侵攻とかさなったことが印象深い。
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しかし公開当時の簡単な感想で書いたように、どちらかといえばミャンマークーデターを思わせる物語であり、少年大統領のキャラクター変更もそれを後押ししていた。
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新作のパピも人質交換しようとはするが主人公たちに救出される。大統領になった背景も、多芸多才な善人かつ責任を背負う性格で、それで望まず権力者に押しあげられた結果という。そしてパピはクーデター側に単身で投降して、機会をとらえて市民の蜂起をうったえた。
パピが立派な指導者ではなく迷える政治家になった変化もまた、ミャンマーを思い出させる。軍事クーデターが起きる直前、民主化運動をひきいたアウンサンスーチーは国内の少数民族迫害を軽視して内外で失望されていた。
ピリカ星へいく時に保存食をパピが調理して豪華に見せたアニメオリジナル描写も、ただ美食を目で楽しませることよりも、その場その場で他者を接待するキャラクターと位置づけるアレンジに思えた。
もちろん原作の時点でも反クーデターに市民の協力が欠かせないこと、そのために奮闘する現場の人々も描かれている。しかし新作では無人兵器が無数に青空を切りさいていく姿を見あげるしかない市民の姿も描いている。映画を見ることしかない観客と同じ立場のように。
そしてクーデター側でも、原作や旧作では冷徹な策士だったドラコルル長官は、新作では策士でありつつ状況に左右される組織人でしかない。逆に組織の末端でしかない名も無き兵士のひとりが反クーデターを手助けした局面もあった。
固有の人格をもつ民衆が迷いながら答えを出そうとする、そのような群像劇であることが強調されたリメイクとして印象深かった。
しかしクーデターを題材にした物語としては完成度が高くなっても、SFとしての伏線や展開が欠落したり肩透かしに終わったことは残念だった。
特にクライマックスの逆転劇を生みだした秘密道具スモールライトの効果切れは、リメイクでうまくフォローするかと思ったが、あまり感心できない結果になった。
念のため、効果切れは原作の時点でビッグライトは効果が永続することを前提にした別エピソード*1との矛盾を感じさせたし、それを知らなかった初読の時点でもご都合主義な印象があった。秘密道具の効果切れによって危機におちいる展開を二度描いて、危機が反転して幸運となるバランスをとろうとはしていたが、逆転劇の直前の描写なので伏線というよりエクスキューズに感じられたものだ。
だが原作では発端の時点で、ぬいぐるみを自動で動かした秘密道具ロボッターが電池切れになる描写も存在する。それが秘密道具の持続力に限界があるという世界観を生んでいた。その描写がリメイクで強調されるかと思いきや、逆に削られてしまった。新作でもロボッターをつかったぬいぐるみ遊びはあるが、電池切れになるような長い描写ではない。そもそも映画自主制作で対抗する序盤は省略され、パピとの出会いがまったく異なった展開にアレンジされている。自主制作描写そのものは、塗料を流した爆炎表現などの素材をいくえにも合成するディテールが細かく、原作より安全によせつつスマートホンのアプリなどで子供も再現できそうな描写に改変されていて、素晴らしいアレンジだとは思うのだが。
また、ドラえもんたちが右往左往しながら潜入していく冒険劇を見て、原作や旧作と違ってスモールライトの奪取に成功するなどして巨大化する展開になるかとも期待した。実際にのび太が単身で潜入をはたした場面は、それを直前まで期待させた。しかし最終的に失敗して、結局は原作や旧作と同じく忘れていた効果切れで偶然に助かるという逆転劇となった。命の危機を強調して逆転を鮮烈にしているし、のび太が奮闘しただけ時間をかせげたような印象もあるが、ご都合主義な印象はぬぐえない。たとえばドラえもんがスモールライトの効果が処刑予定の直後くらいに切れると思い出して、それまで引きのばす奮闘をしたのであれば、待たずに戦った意味があることを強く感じられたと思うのだが。
なお、メカ描写は期待通りで文句なし。予告で少し不安だった白組の3DCGは自主制作のミニチュアセットなどに活用され、アクションでは手描きメカが大活躍する。メカデザイン全般の変更に多少の不安はあったが、ほぼ同時並行でつくられる原作と旧作の時点で相違があったし、未来的なSFによせたデザインは原作に近づいたともいえる。
また先述したようにスモールライトの効果切れ展開は期待外れだったが、巨大化描写そのものはデジタル技術の拡大縮小などにたよらず、枚数をつかったアニメーションでなめらかにフェティッシュに巨大感を表現していた。キャラクターデザインそのものはTVアニメ版との違いが少ないが、ちゃんと映画らしい絵になっている。