静かに読書をしようと杉下が滞在していた山奥のホテルで殺人事件が発生する。被害者のホテル従業員は珍しいチョウをにぎりしめていた。そのチョウがホタルの遺伝子を組みこんで光り、他の客に人魂に見えたのだと気づいた杉下は、ホテルで療養しているチョウ好きの少女をめぐる謎を解いていく……
ひさびさに杉下が見たがっている幽霊をモチーフにしたエピソード。その幽霊に錯覚するアイテムが架空なので超常現象の謎解きとしての面白味はなかったが、ホテルマンの不思議な存在感や結末のゴーストストーリーらしい描写は楽しかった。
遺伝子を撹乱しかねないチョウが流出した経緯として、専門業者をつかえないほど予算がきびしくなった大学がスキマバイトサービスを利用するという現代的な背景をもってきたことも良かった。罪のない誤解が起きるような経緯を設定できているし、チョウを隠滅するための強行手段が予想外の殺人事件をまねいた経緯も説得力がある。ホテルが療養所としても使用されている設定も、山奥にあるだけでは観光資源が足りず経営できない現代的なホテル事情の反映と感じられた。
しかし途中で明らかになるくらい本筋ではなかったとはいえ、殺人事件の謎解きでは、伏線を先に映像で見せず手がかりが後出しになるこのドラマの悪癖が出ていた。いくらなんでも犯人の不自然さを指摘する、レンズが汚れているという手がかりを、小道具の都合ではなく意図的な描写として大写ししていないのはダメだろう。チョウの移動を証言と見取り図で杉下がさぐっていくような本格ミステリ的描写は楽しかったのだから、犯人を指摘する過程でもパズルのような楽しさがほしかった。