結婚6年目だが仲の良い夫婦が、兄に借りた船で休んでいた。しかし妻がビールを取りに船室へ行った時、夫の周囲を奇妙な霧がとおりすぎる。その日から少しずつ夫の肉体が縮むようになった。好奇の目をのがれて夫は家に閉じこもるが、ある日わずかな隙に猫が入りこんできて……
リチャード・マシスン原作脚本による1957年の米国映画。初の日本版DVD*1で数十年ぶりに視聴した。
内容として好みのミニチュア特撮があるわけではなく*2、かなり地味な範囲の出来事で終始するので、結末のインパクトのすさまじさしか記憶に残っていなかった。しかし今あらためて視聴すると、制限された舞台と人間関係をつかいきるように情景を変化させ多様な危機をつくりだしていて、SFサスペンスとして飽きさせなかった。
後に脅威となる猫や目指すべき菓子を先に日常の一幕として見せたり、少し壊れかけた給湯器や排水溝が主人公にとって多様な意味をもったり、けっこう構成がていねいで唐突さがない。一安心したところで背が縮んでいると気づいて恐怖にかられるところはパターンだが、場面転換の合図として理解できる。罠を作動させるのではなく釘で遠くからチーズをとるのではダメなのかと思ったり、一段が小さいとはいえ壁状の箱をのぼっていけるのなら階段ものぼれないのかと思ったりはしたが、追いつめられた主人公のあせった行動なので許容はできる。
もちろん縮小した状態は多くが合成で処理されているが、肉体とからむところでは巨大化したセットや小道具を用意。少しずつ縮む肉体にあわせて縮尺も変えており、手間ひまをかけていることがわかる。子供サイズくらいに縮んだ局面は他の縮小化作品では珍しく、大きなソファーに腰かけている居心地に悪さが独特の味を出していた。主人公にとっては等身大な巨大ドールハウスを、あえて階段などがゆれる安っぽいセットにしているところもうまい。
最後に主人公が孤独な戦いをしいられる地下室はかなり巨大なセットをつくっていて、高低差をつかった戦いや大洪水のような展開などでモンスター映画やディザスター映画のような情景が楽しめ、それが極小の舞台でおこなわれるギャップでいっそう楽しい。かなり縮小したサイズにあわせて木目を大きくしたり、給湯器から落ちる水滴を巨大なサイズで表現したりと、セットの芸の細かさも嬉しい。天井近くの小窓で網でさえぎられて明るい庭が見えるような舞台設計もいい。
あまり好みではない合成処理も、DVDで視聴すると当時としては細かく気を配っていることがわかった。交錯する目線にズレがないし、敷居くらいの薄い高低差でも段差があるように足を動かしている。さすがに歩く時の爪先はマスクが甘いところがあるものの、全体として動いている場面や頭髪もしっかりマスクが切れている。合成しやすいモノクロ映画ではあるが、光量なども違和感が少なく、ていねいな仕事ぶりには感心させられた。
主人公の脅威となる猫や蜘蛛の演技もしっかりしていて、現在でも見ていて違和感がない。餌や送風機で動物を先に動かして撮影し、それを基準として俳優に演技させたそうだが、やはり気になるような目線のズレもないし格闘のからみも意外と成立している。
特撮の細やかな良さは以前にブラウン管で見た時は良さがわからなかった。外国ではクライテリオンがリマスター版Blu-rayを出しているが、そこそこ有名なユニバーサル作品なのだから日本でも出してほしいところ。