法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ネオ少年探偵 電送怪人』 芦辺拓著

エンタティーン倶楽部という児童書レーベルから出たミステリ。新書に近い版型で、ややライトノベルに近い印象もある。ネオ少年探偵シリーズでは時間軸で最初の事件にあたる。
以前から古典的な探偵小説、それも江戸川乱歩の子供向けみたいな作品を復権させようとしていた芦辺拓だけあって、適度にレトロで適度にモダンな雰囲気のある作品になっている。文章も少年探偵団を模している様子。
ただ、メインのトリックが手品的な物理トリック*1であり、手がかりの薄い状態から解決するので、本格ミステリとして見ると弱い。


89頁が少し印象に残った。ふりがなは引用せず。

 森江春策というのは犯罪事件を専門に手がける弁護士で、何度も無実の罪に落ちた人を助けたことがあるのですが、はでなことが苦手なせいで世間には知られてはいません。
 その一方で、ひそかに広まっているのがアマチュア(しろうと)探偵としての評判で、これまでにも奇怪な館の連続殺人や、だれにも犯行が不可能な密室のトリックを解いたり、鉄壁のアリバイを突きくずしたりして活やくしてきました。でも、今の世の中ではやたらいばっていたり、人にひどいことを言ったりするものは目立つのですが、そうでない森江春策は「名探偵」ではあっても、決して「有名探偵」ではないのでした。

芦辺作品らしく、個人的な感情が出すぎた文章。説教臭いのはいいとしても、ネガティブな批難を当の自分がしてしまっているのは芸風と思うしかないか。

*1:芦辺氏は普段の作品でも多用気味だが。