法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『京極堂「サザエ鬼?」タラヲ「です」』あるいは『栄螺鬼の渦』が面白い

サザエさん』と京極夏彦作品を合体させた二次創作小説。ファミリー向け作品から背後の闇を読み取る二次創作は少なくないが、ここまで手間をかけた作品として完成されたものは珍しい。
京極堂「サザエ鬼?」タラヲ「です」
サザエさん』の世界で起きた不思議な事件に対し、妖怪を引いてその性格から真相の構造を読み取るという物語構造まで完璧に贋作している。きちんと妖怪絵まで引用して薀蓄を並べているところがたまらない。文体模写もしっかりしていて、序盤は真似しようとして原作よりも冗長すぎる感もあるが、中盤以降は適度に読みやすい。
物語要素は無駄が少なく、ていねいに伏線がたたまれていく。『サザエさん』という物語と、「栄螺鬼」という妖怪への解釈にも説得力がある。
独立した怪奇ミステリとして見てもトリックや真相の意外性は充分で、完成度が高い。そもそもモチベーションの持続しにくいインターネット小説において、この濃厚な内容で完結まで書ききったこと自体が素晴らしいと思う。


強いて瑕疵を上げるなら、『けいおん!』を混ぜなくても良かったと思うくらい。あまり出番の多くない伊佐坂浮江を当てはめれば良かったのではないか。美少女が不足していたなら、中島の女装という流行ネタを入れても面白かったかもしれない。
また、京極作品は解決場面を見所として華々しく描くことが特色なので、この作品の解決編も狙いは良かったが、やや混沌としすぎてらしくないと感じた。
とはいえ、全体として好みな、満足感の高い内容だった。