法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『摩天楼の怪人』島田荘司著

謎の時点で充分に大がかりなのに、明かされる真相はさらに大がかりという、いつもの作風。どう考えても誰かが気づくだろう真相なのに、あまりにスケールが大きすぎる法螺話なので、突っ込む気がうせる。むしろありえないことが感動にまで繋がる。必ずしも美しい文章ではないながら巧みな詩的情景描写が、ありえない物語をささえている。
臆することなく都市を暗躍する怪人を書いてしまう大時代ぶりも、作風ゆえに良い方向へ働いた。


ただしゲイタウンに住む御手洗潔という設定には困った。一部女性しか喜ばないのではなかろうか。
以下、ネタバレ気味な感想。
昔ほどではないが、ミスディレクションのために無関係に近い逸話が挿入されるのはあいかわらず。連続殺人に普通の自殺がまぎれこんでいるし、真相を少し補足するためだけの事件と全く関係ない物語*1があるし。あとがきでミスディレクションの必要性を力説していたのには苦笑いが浮かんでしまう。
CGによる挿絵はなかなか効果的だが、手がかりという点では細部のわかる図版が複数ほしかったところ。


怪人の動機は序盤に語られるとおりだったが、怪人化の経緯として第一次世界大戦の大量死を用意したところで感じるところがあった。


ちなみに、400頁では『唐人お吉』の元となった歴史について語られている。参考文献が示されていないので元資料は不明だが、外国人を恐怖して芸者を差し出す描写はRAAとよく似ている。そもそもRAAで慰安婦募集する際からして『唐人お吉』が使われていたのだが、少し調べ直したくなった。

*1:単独で読んでけっこう面白いから逆に困る。