法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』

 高木刑事と佐藤刑事の結婚式に、うらみをもつ集団が乱入。かばった毛利小五郎が傷つき、倒れてしまう。しかし江戸川コナンたち少年探偵団がおどろいていると、それは別の元刑事の結婚式の警護リハーサルだと明かされた。
 一方、佐藤刑事と因縁のある爆破犯が脱獄し、公安の安室透が追跡していると、その爆破犯は首輪爆弾で爆死してしまった。どうやら過去に活動していた別の連続爆破犯のしわざらしいが……


 シリーズ過去作『から紅の恋歌*1の脚本も手がけた小説家の大倉崇裕脚本と、『ハイキュー!』シリーズの満仲勧監督による、2022年公開のシリーズ25作目。

 金曜ロードショーの地上波初放送で視聴した。放送枠拡大をしていないため、エンディングは完全に削除されているし、おそらく本編もカットされている。
金曜ロードシネマクラブ|日本テレビ

劇場版最新作『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』が、4月14日に公開!それを記念して、昨年公開の劇場版第25弾を初放送!公安警察の降谷零(安室透)が、同期の松田を葬った因縁の相手を追い詰めるが、そこへ突然現れた謎の仮装の人物に首輪爆弾をつけられてしまう!

 完全に本編から脱落してしまったので、過去に爆死した松田陣平刑事がどのような位置づけのキャラクターかつかめず、異なる爆破犯が同じ映画に登場する意味は何なのかと無駄に考えこんでしまった。その松田がたった一日で複数の重大事件を解決するという作品の犯罪多発ぶりをネタにしたり、作品の定番描写を連想させるように毛利小五郎に麻酔が効きにくいという小ネタが語られたり、どうやら本編へのオマージュやパロディを多用する映画らしいと途中でわかったので、世界観をつかむことはできたが。
 そこから謎の爆破犯との回想をふくめたアクション作品としては見ごたえがあった。監督と寺岡巌と金井次朗という3人とも凄腕のアクションアニメーターが共同でコンテを切り、トリッキーなパルクールも銃撃戦も空間を立体的につかっていて魅力的。墜落する小さなヘリコプターという珍しい舞台の格闘戦も斬新でいて見やすく、アニメならではの描写と感じられた。


 しかしミステリとしては推理の緻密さも驚きも欠けている。明らかに回想と体格が違う元刑事が容疑者になる描写はミスディレクションとして機能していないし、回想を伏線として真犯人を特定する推理も現在パートの手がかり描写が遅すぎる。
 ずっと素顔を隠して謎めいていた連続爆破犯は、正体をあらわしてからは平凡な高笑いキャラクターになってしまう。先述したようにアクションは魅力的なのだが、複数勢力を単身で同時に相手にするのは無理があるし、過去の描写の慎重さから考えれば真犯人と認めるのはもっと遅くても良いだろう。
 2種類の液体が混ざることで爆発する爆弾も物語の都合にあわせたギミックでリアリティに欠ける。いくらなんでも結末の解決法は排水溝などが存在する都市構造を無視しているとしか思えないし*2、逆に結末の危機を生みだす真犯人の罠は多少の協力者がいても可能そうには思えない。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:ハロウィンというモチーフだけでなく、大がかりなビジュアルは魅力的だが説得力のない解決法から映画『COWBOY BEBOP 天国の扉 [Blu-ray]』を思い出した。