ゲノム編集にかかわる研究者が殺された。周辺には、正体不明の若い男女ふたりが出没し、反文明をかかげる男ふたりの影もちらつく。
やがて新たな死者が出つつも、研究によって作りだされたウイルスで世界が終わるという予言とともに事態が進行していくことに……
今期の最終回として2時間超の特別枠で放映。金井寛脚本らしいSF的な発想を延長して、ある種類のトリックを刑事ドラマで成立させたことに感心した。
予告ではいつものスペシャルらしく無理して事件の規模を拡大したように感じて、語られる設定からは社会派テーマ回のようでもあると感じられたが、実際は本格ミステリらしいアイデアで楽しませる娯楽回だった。
社会派テーマにしては反文明論者の描写がカルト一辺倒で、もう少し対抗言論にも説得力を与えるべきではないかと思ったが、後半の飛躍から逆算すると、まずありきたりなカルト描写から段階を踏もうとしたのだと理解できる。全体のコンセプトからはずれている外国工作員によるテロ関与も、ミスディレクションと思えば許せる。
まず、記憶喪失と主張する男女が予言者のようにふるまい、その名前が反文明小説の主人公からとられているという前半から、実際に男女が未来人だと杉下が考える後半で一挙に飛躍。
そのまま日本のドラマとしては大規模なウイルステロ描写に、時間を超越して孤立した若者の冒険サスペンスと、文明の興亡というポストアポカリポスSFが展開される……
もちろん、この刑事ドラマらしくSFやオカルトはキャラクターの主観にとどまり、現実に起きていることはきちんと解明されていく。
真相は、前面で活動する反文明カルトとは別個に、秘密裏に生活する反文明カルトがもうひとりの男によって作られて、そこで若者たちは偽の歴史を教えられて育ったというものだった。
このどんでん返しは、若者たちの主観で描いた物語としては、いくつかの映画や小説や漫画に前例がある。自分たちが生まれ育った世界が、実は誰かの意図によって周囲から遮断された箱庭だったというパターンのSFやミステリだ。
今回の金井寛脚本がうまいのは、まず若者たちを未来予知しているかのように描いて、未来からタイムスリップしたという認識を真相に配置したこと。それで若者たちは現実の世界を見ても自分たちの生まれた世界が偽物だとは気づかず、そのまま物語が進行できるし、ゲストキャラクターの立場でもどんでん返しを描ける。
ただ、もっと若者たちが未来人と自認していることを、もっと独白などで強調しておけば、今回のコンセプトがよりきわだったろう、という惜しさは感じた。
とはいえ、このようなワンアイデアを成立させるために2時間くらいの尺は必要な物語を、あえて真面目な刑事ドラマで展開したスタッフの冒険心は買いたい。