法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世界まる見え!テレビ特捜部』やる事なす事ホントに極端すぎるよ

番組のテーマはサブタイトルと少し違っていて、基本的に超富裕層の成金趣味が展開される。
特に最初に紹介された富裕層の子供たちが超高額のプレゼントやパーティーを楽しむ光景に、映画『パラサイト 半地下の家族』を連想せずにいられなかった。
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インタビューされるのが富裕層を相手にした運転手や業者なので、富裕層そのものの自己認識と微妙な温度差がうかがえる。
ひるがえって、富裕層の日常を切りとった映画の解像度の高さも実感できた。


しかしスタジオで北野武がそうしたパーティーを成金のそれだとコメントした後で、英国女王の特別列車も大差ない成金趣味というドキュメンタリーが紹介された。
馬車を嫌ったビクトリア女王が作らせて、田舎の風景を楽しむため時速五十キロで運転。他の列車に優先して運行されたそうで、ダイヤグラムは滅茶苦茶になったのではなかろうか。内部の装飾品も絢爛豪華。
現在のエリザベス女王からは機能性を重視して華美な装飾は排したものの、飛行機の四倍もの費用が税金からかかる問題*1が最後に指摘された。


前後して、南アフリカヨハネスブルグで大人気のムボロ牧師が紹介された。
キリスト教系の教会というが、倉庫のような簡素なデザインの巨大な教会で、牧師の顔をプリントしたグッズや聖別した生活用品が売られている。
多人数の信者は熱狂し、いかにもオカルトな説教を信じて、我先に寄進する。牧師はテレビやラジオで番組をもち、街では信者とふれあい、さまざまな相談に答えていく。
いかにも新興宗教が膨張していく初期に見えたし、信者の寄付で贅沢をする牧師は生臭きわまりないが、とりあえず今回は被害者などがいるという話は出てこなかった。

*1:一般的にエネルギー消費などは列車が最も優秀な乗り物だが、生活空間を用意して王族が少人数で用意する列車ならばプライベートジェットよりコストがかかることは想像できる。

『ドラえもん』鬼は外ビーンズ/家がロボットになった

本編はジャイアンの横暴二本立て。
ED前にドラえもんが映画公開の延期を告知。ED映像とミニチュア制作コーナーは続行しているものの、ドラガオじゃんけんが通常版にもどった。


「鬼は外ビーンズ」は、スネ夫が下手な釈明をしたことで、ジャイアンが歌の練習を骨川家でおこなうことに。それを救うため、ドラえもんのび太が秘密道具をもちこむ……
2012年に大野木寛脚本でアニメ化*1した短編を、伊藤公志脚本でリメイク。節分という季節ネタでもある。
蕎麦屋の出前自転車が何度も通りがかる描写は、途中まで人間がいきなり登場することに驚くだけの役割と思っていたが、見ながら予告映像で見たジャイアンの鬼化につながることを思い出した。伏線のきいた良いアニメオリジナル描写だが、だからこそ予告で明かさないほうが驚きが増しただろうという惜しさも感じた。
しかし道路で「鬼は外」が普通なら通用しないという描写に、ふと排外主義のはびこる現代社会なら地域や日本から排除される展開にされかねないな、という懸念を感じた。もちろん今回は原作どおりのオチで映像化されたが。


「家がロボットになった」は、のび太ジャイアンに留守番を押しつけられ、しずちゃんも留守番しながら約束の勉強会をひらく。そこでドラえもんが剛田家をロボット化すると……
2010年に映像化*2した原作を、清水東脚本と氏家友和コンテでリメイク。設置した秘密道具が端末のように表情を見せるアレンジは好みではないが、全体的に良好なアニメ化。前回は和解で終わったが、今回は原作以上に家が怒って終わる。
原作以上にさまざまな小物が手描き作画で自動的に動く描写が楽しい。スネ夫が賞賛するフレッシュなミックスジュースも、きちんとした作画で果物の皮がむかれていくから説得力がある。
しかし、さすがにTVは強制地デジでハイビジョン化しているのに、エアコンはなくて石油ストーブだけで、ラジオも古めかしいタイプ。その家の古さはオチを強調しているからいいとして、原作どおりに英語教材の押し売りが登場するのは時代錯誤感がさすがにあった。
思えばのび太が約束どおりに源家に行かず、探さないと見つからない展開は、子供も携帯電話をもつことが当然の現代では成立しづらい。たぶん今の幼い視聴者は、ちょっとレトロな作品としてこの作品を楽しんでいそうな気がする。

『千と千尋の神隠し』の映像がDVDで赤くなった問題で、同じラボがDVD化した全く別作品も赤くなる寸前だったという証言

2001年に公開されてから十年以上にわたって日本の映画興行収入の1位につき、アカデミー賞も受けた宮崎駿監督の代表作『千と千尋の神隠し』。
しかし2002年のDVD発売時に色調の変化が問題視され、当初は対応するとの公式コメントが出されたが、劇場上映時の色調で映像ソフト化されたのは2014年だった。
eiga.com

ブエナビスタでは「今回のDVD化にあたり、本編の映像素材は“劇場公開時に一番近い色”として、宮崎駿監督以下スタジオジブリのチェックを受けたもの。色調が違うという点については、原因を調査中」と発表。ジブリも「早急に対応したい」としている。


数年後の2006年に公開されたアニメ映画『ブレイブストーリー』も、同じラボでオーサリングがおこなわれていた。DVDパッケージを見るとわかるように、青空のビジュアルが印象的な異世界ファンタジーだった。

ブレイブ ストーリー

ブレイブ ストーリー

  • 発売日: 2014/07/30
  • メディア: Prime Video

そこでオーサリング作業にたちあっていた千明孝一監督*1も、訴訟にも発展した『千と千尋の神隠し』騒動を反面教師としてチェックしていたようだ。
note.com

事前に美術スタジオのモニターや色彩デザイナーさんの使用するモニター、スタジオの最終チェック用モニターの色味を色温度やRGB値を計って統一を図ります。ところが数値をどれだけ一致させても、モニターそれぞれの特性やクセはどうしようもありません。メインスタッフの感覚と信頼で誤差を埋め合わせる必要があります。

オペレーターの参考になるよう、美術ボードなどの素材をラボで試写までして、青い空と白い雲になるよう何度も念押ししたという。
そこで想定している作品が、タイトルこそ出していないが、ほぼ特定できる内容になっている。多数の監督作品をもつベテラン演出家から見てもDVDの色調が理解しがたかったこともうかがえる。

どうしてこんなに何度も念を押す必要があったのかというと、ある世界的に有名なアニメーション監督の映画を見たときのことが頭に残っていたからです。その映画のDVDを見て驚きました。映画館で見た時にあれほど綺麗だった青い空と白い雲のシーンが、オレンジフィルターを付けて撮影した実写の疑似夕景みたいな色に代わっていたからです。一般のファンの中にもおかしいと思った人は多かったようですが「DVDにする際に『演出』として色彩に変更を加えた」最終的にはそういうことで落ちが付きました。けれど実際に映画館に足を運んだ一人のファンとして釈然としない決着だったと今でも思っています。偶然その作品と同じラボでのオーサリングでしたので、正直に不安を伝え「大丈夫、心配ない」オペレーターと立ち会ったラボの営業担当からはそう返答をもらってオーサリング作業は終わりました。

そして千明監督の意向どおりの色調で作業が終えてもらったはずが、データをDVDにプレスする直前にプロデューサーがチェックして問題が発覚し、修正されたという。

しばらくして都合が付かずにオーサリングに立ち会わなかったテレビ局のプロデューサーから怒りの電話が入ります。「監督なら、勝手にフィルムの色を変えて良いのか?!」「??」「空も雲もまるで夕景のようにオレンジ色だ」プレス直前、映像の最終チェックを見て驚いた彼が尋ねるとラボの担当者たちは言い張ったそうです。「監督がこれでOKを出した」彼らはその場にいないボクに責任を押しつけようとしました。立派で綺麗な建物をもつ大手の映像ラボの社員がです。「監督は青い空と白い雲の色にすごくこだわって、大丈夫かと何度も念を押していました」幸いオーサリングに立ち会っていたゴンゾの現場Pの証言でプロデューサーの怒りは解けました。ラボ側が謝罪し、オーサリングをやり直すことで無事DVDは完成しました。

千と千尋の神隠し』のDVDが批判された当時、色調変化の原因はさまざまに憶測されていたが、この千明監督のnoteはひとつの傍証になりそうだ。

*1:代表作はスチームパンク的な世界の空戦を描いたTVアニメ『ラストエグザイル』か。

まさか現実に『相棒-劇場版III-』のような事件が発生するとは思わなかった

2014年に公開された『相棒-劇場版III- 巨大密室!特命係 絶海の孤島へ』は、テレビ朝日系列のTVドラマ劇場版としてつくられた3作目*1で、元自衛隊民兵組織をつくって孤島で訓練をおこなっている設定だった。
hokke-ookami.hatenablog.com

舞台となる民兵組織のカルトぶりも、絶妙なラインをついていた。教育組織としてふるまっているところは、戸塚ヨットスクールをはじめとした問題が現実にも残っているし、自衛隊そのものにも教育機関となるよう期待する政治家がいる。退官した人々の受け皿として民兵組織が成立しているところなど、わりと現実の自衛隊からも共感されそうだ。

しかし、この映画を見た時点では、あくまで風刺として成立するくらいのリアリティだと感じたし、むしろ自衛隊本体とは対立する構図に納得していた。

現実にも、田母神俊雄航空幕僚長のように、排外思想や陰謀論にそまった元自衛官がいる。その過激とも本音ともとれる発言は、せまい範囲の人気を取るため政治家に利用されることもあるが、自衛隊の立場を強くしたい人々には煙たがられている。自衛隊が国内外に危険視されては困るからだ。


現実には、特殊作戦群を創設した元自衛官をしたうように、現役自衛官まで訓練のためカルト的な組織に参加していたという。
this.kiji.is

陸上自衛隊特殊部隊のトップだったOBが毎年、現役自衛官予備自衛官を募り、三重県で私的に戦闘訓練を指導していたことが23日、関係者の証言などで分かった。

参加者が迷彩の戦闘服を着用しOBが主宰する施設と付近の山中の間を移動していた。自衛隊で隊内からの秘密漏えいを監視する情報保全隊も事実を把握し、調査している。 自衛官が、外部から戦闘行動の訓練を受けるのが明らかになるのは初。防衛省内には自衛隊法に触れるとの指摘がある。

この荒谷卓氏は武術から自衛隊へ進んだ人物らしい。大学を卒業してゼネコンに就職しようとしていたところ、至誠館の指導者から自衛官になるようすすめられたという。このインタビュー自体も2016年の時点でどのような政治思想をもっていたか確認できて興味深い。
www.biglife21.com
また荒谷氏は格闘術「ゼロレンジコンバット」を考案した稲川義貴氏と関係が深い。その格闘術は自衛隊に採用されるだけでなく、さまざまな映像作品でも見られるようになった。
この「むすびの里」自体がつくられたのは2018年とつい最近のことだが、退官してすぐに明治神宮至誠館で館長をつとめて、武術家として後進の指導をつづけていたという。至誠館明治神宮にある武術場で、もともと全自衛隊弓道大会がひらかれるように自衛隊とのむすびつきが強い。
ひょっとして『相棒』の関係者は問題を以前から知っていて元ネタにしたのではないか、という想像をせずにいられなかった。


なお、荒谷氏がつくった「熊野飛鳥むすびの里」そのものが、かなりオカルトじみた思想が背景にあるようだ。2019年の講演会のチラシを見れば色々と察せられる。
musubinosato.jp

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*1:脇役を主人公にした外伝をのぞく。

『相棒 Season19』第14話 忘れもの

小料理屋をいとなむ小手鞠が、客の忘れ物に気づいて特命係に留守をたのむ。追いついた小手鞠が客をよく見ると、学生時代にあこがれた先輩の中迫だった。
税理士をつとめる中迫は不祥事を知ったことでヤクザに追われているという。そこで小手鞠とともにタクシーで逃亡をはじめるが……


山本むつみ脚本で、小手鞠と中迫ふたりの逃亡劇にフューチャーした変化球。
しかし、かつて優等生だった中迫が現在はそうではないことがあからさまで、正義を執行するふりをして大金をもって逃亡しようとしていることも視聴者には明らかだ。
特命係の視点が多くて、現在の中迫がどのような人物なのかを解明する描写を先出ししているのが良くない。たとえば前半は逃亡するふたりの視点にしぼって中迫の行動のささいな違和感を伏線にして、後半に時系列をもどして中迫の正体をあばいていく特命係……という構成にすれば、もう少し終盤の驚きがあったと思う。
いつも超然とした小手鞠が中迫のようなダメンズにひかれる展開そのものも納得しづらい。このようなエピソードは月本幸子が担当すれば、せめてキャラクターには合うと思うのだが……