法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『千と千尋の神隠し』の映像がDVDで赤くなった問題で、同じラボがDVD化した全く別作品も赤くなる寸前だったという証言

2001年に公開されてから十年以上にわたって日本の映画興行収入の1位につき、アカデミー賞も受けた宮崎駿監督の代表作『千と千尋の神隠し』。
しかし2002年のDVD発売時に色調の変化が問題視され、当初は対応するとの公式コメントが出されたが、劇場上映時の色調で映像ソフト化されたのは2014年だった。
eiga.com

ブエナビスタでは「今回のDVD化にあたり、本編の映像素材は“劇場公開時に一番近い色”として、宮崎駿監督以下スタジオジブリのチェックを受けたもの。色調が違うという点については、原因を調査中」と発表。ジブリも「早急に対応したい」としている。


数年後の2006年に公開されたアニメ映画『ブレイブストーリー』も、同じラボでオーサリングがおこなわれていた。DVDパッケージを見るとわかるように、青空のビジュアルが印象的な異世界ファンタジーだった。

ブレイブ ストーリー

ブレイブ ストーリー

  • 発売日: 2014/07/30
  • メディア: Prime Video

そこでオーサリング作業にたちあっていた千明孝一監督*1も、訴訟にも発展した『千と千尋の神隠し』騒動を反面教師としてチェックしていたようだ。
note.com

事前に美術スタジオのモニターや色彩デザイナーさんの使用するモニター、スタジオの最終チェック用モニターの色味を色温度やRGB値を計って統一を図ります。ところが数値をどれだけ一致させても、モニターそれぞれの特性やクセはどうしようもありません。メインスタッフの感覚と信頼で誤差を埋め合わせる必要があります。

オペレーターの参考になるよう、美術ボードなどの素材をラボで試写までして、青い空と白い雲になるよう何度も念押ししたという。
そこで想定している作品が、タイトルこそ出していないが、ほぼ特定できる内容になっている。多数の監督作品をもつベテラン演出家から見てもDVDの色調が理解しがたかったこともうかがえる。

どうしてこんなに何度も念を押す必要があったのかというと、ある世界的に有名なアニメーション監督の映画を見たときのことが頭に残っていたからです。その映画のDVDを見て驚きました。映画館で見た時にあれほど綺麗だった青い空と白い雲のシーンが、オレンジフィルターを付けて撮影した実写の疑似夕景みたいな色に代わっていたからです。一般のファンの中にもおかしいと思った人は多かったようですが「DVDにする際に『演出』として色彩に変更を加えた」最終的にはそういうことで落ちが付きました。けれど実際に映画館に足を運んだ一人のファンとして釈然としない決着だったと今でも思っています。偶然その作品と同じラボでのオーサリングでしたので、正直に不安を伝え「大丈夫、心配ない」オペレーターと立ち会ったラボの営業担当からはそう返答をもらってオーサリング作業は終わりました。

そして千明監督の意向どおりの色調で作業が終えてもらったはずが、データをDVDにプレスする直前にプロデューサーがチェックして問題が発覚し、修正されたという。

しばらくして都合が付かずにオーサリングに立ち会わなかったテレビ局のプロデューサーから怒りの電話が入ります。「監督なら、勝手にフィルムの色を変えて良いのか?!」「??」「空も雲もまるで夕景のようにオレンジ色だ」プレス直前、映像の最終チェックを見て驚いた彼が尋ねるとラボの担当者たちは言い張ったそうです。「監督がこれでOKを出した」彼らはその場にいないボクに責任を押しつけようとしました。立派で綺麗な建物をもつ大手の映像ラボの社員がです。「監督は青い空と白い雲の色にすごくこだわって、大丈夫かと何度も念を押していました」幸いオーサリングに立ち会っていたゴンゾの現場Pの証言でプロデューサーの怒りは解けました。ラボ側が謝罪し、オーサリングをやり直すことで無事DVDは完成しました。

千と千尋の神隠し』のDVDが批判された当時、色調変化の原因はさまざまに憶測されていたが、この千明監督のnoteはひとつの傍証になりそうだ。

*1:代表作はスチームパンク的な世界の空戦を描いたTVアニメ『ラストエグザイル』か。