法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』地球製造法/マジックチャック/楽々バーべキューセットはラクじゃない

OPを削除し、EDも短縮された、ひさしぶりの三本立て。しかも後半ふたつは3分ほどの、かなり変則的な番組構成。


「地球製造法」は、のび太は小さく簡単なプラモしか持っていけず、動くプラモをつくったジャイアンスネ夫に嘲笑される。対抗するため、秘密道具で地球をミニサイズで再現するが……
2006年にも映画宣伝をかねてアニメ化された原作を、おそらく今年の映画にあわせてリメイク。そこで原作では人型ヒーローだったスネ夫のプラモが、歩行する羽毛ティラノサウルスに改変されている。
再現された地球もアニメオリジナル映画の『南極カチコチ大冒険』*1で描かれたスノーボールになり、さわろうとするのび太ドラえもんが注意する。縮小して現地に行けば、恐竜の大絶滅にも言及し、原作では事故で発生した火山活動説にくわえ、隕石説もあることを説明する。
全体的に作画に力が入っていたのも良かった。チリが集まって地球になる描写や、単細胞生物や危機から逃げる恐竜たちなど、複数の生物を手描きアニメーションで動かしていることに感心。隕石が接近し、海面へ落下する作画も見どころがある。
しかしカラーのアニメで見ると、明らかな地球を粘土と判断する野比玉子の行動に違和感が強い。原作も同じ描写でツッコミどころとされてきたが、モノクロなのでまだごまかせていた。今後アニメで同じ行動をとらせるなら、たとえば大絶滅の再現で地球がチリにおおわれ、それで茶色い球になったのを目撃した野比玉子が粘土とかんちがいする……といったアレンジはどうだろう?


「マジックチャック」は、のび太が空き地の電柱の陰で様子をうかがう。男子5人が神成さんから肉まん4個をもらい、偏った分配をしようとするジャイアンに抗議して、奪いあうゲームになったのだ……
善聡一郎コンテに、ひさしぶりの与口奈津江脚本で*2、2頁しかない超短編を楽しいショートアニメとして映像化した。
画面右肩に時間経過をあらわすデジタル数字が常時表示され、リアルタイムで物語が進行。目をみはるような演出回は何度もあるが、ここまで演出アニメな回は珍しい。空き地のせまさと隠れ場所の少なさが、逆に知略ゲームとしての面白味も引き出していた。
どこにでもジッパーをつけて超空間に隠れられるという秘密道具の機能を、先に視聴者に開示しておいて、なお意外な逆転劇を生みだす構成も完璧。


「楽々バーべキューセットはラクじゃない」は、芸能人考案オリジナル秘密道具をつかった5年前の短編の再放送。
hokke-ookami.hatenablog.com
しかしOPもEDも省略してまで、権利処理も難しそうな5分もない短編を再放送する意味はあるのだろうか……新型コロナ禍でよほど現場が混乱しているのかもしれないが。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:2月29日に再放送された2017年本放映の「やりすぎ!のぞみ実現機」が最後の登板だった。hokke-ookami.hatenablog.com

『相棒 Season18』第19話 突破口

ゼネコンの口利き疑惑にかかわっていたらしい若手社員が転落死する。他殺の可能性もあったが警察上層部から圧力がかかり、自殺として処理された。そこで特命係は第一発見者の老嘱託社員に接触するが……


太田愛脚本。近年の担当回は、最新の社会派テーマをとりこみつつミステリとして成立させる手腕が印象深い*1。今回も、数年前から露呈しつつ日本社会が許容してしまっている問題を風刺する。
冒頭で感心したのは、政治家と癒着しているゼネコン幹部のセクハラ描写。汚れた手で電話をするため、旅館ですれちがった仲居におしぼりをたのみ、返すところで尻をさわる*2


おしぼりのやりとりでは笑顔の仲居が、ここでは身じろぎして、笑わずふりかえる。もう幹部は電話にしか興味がない。お盆を両手でもった仲居は、抗議もせずに去っていく。
一昔前なら男女のオシャレなやりとりという演出だったかもしれない。しかし現代では権力に抗議することの難しさを感じさせ、両手がふさがった仲居の姿がテーマを象徴している。


もちろん企業と政治家の癒着だけなら古典的な社会派テーマといっていいし、序盤はコメディチックな演出も多くて*3、あまり新しさは感じられない。
序盤の面白味は、伊丹たちが青木をあやつって特命係に捜査をうながすという普段との逆転や、存在感のはっきりしない老嘱託社員の生活などのキャラクタードラマにある。
そしてひとりの思惑による、シンプルなトリックが浮かびあがってくる……


老嘱託社員の発言にある違和感から推理されたのは、自殺を他殺に偽装して癒着問題へメスを入れさせるという衝動的な行動。
その真相と背景をていねいに描いて、やりぬかざるをえなかった心情をドラマとして成立させたところが、シリーズの名エピソード「ボーダーライン」を思わせる。
権力の何も信用できないなかで、一筋の可能性を信じつつも第三者に罪を負わせられないゆえの迷走。自身が罪を背負おうとして、特命係の推理で挫折する痛み。
何よりも若手社員と老嘱託社員が対等な立場で友情をはぐくむ回想が美しい。いわゆる飲みニュケーションが苦手ゆえに生まれた関係は、冒頭の宴会と対照的だ。


特命係の信念ゆえに他殺という疑いをつづけて捜査する偽装もできない。
しかし杉下が最初に着目した死体の折れた指が、閉塞をつきやぶる「突破口」になる。
将棋という趣味で、若手社員と老嘱託社員をむすびつけた指先。それが詰みにたどりつく布石。

『大長編ドラえもん のび太の宇宙小戦争』に登場するドラコルル長官の「約束」ギャグ

軍事クーデターから逃れてきたミニサイズの異星人パピを助けるため、ミニサイズから戻れなくなったドラえもんたちが異星に乗りこむ映画原作。

異星人はワープ技術くらいは持ちつつも、ミニサイズで力は弱い。だから敵も味方も純粋な戦闘力より、政治と知略で戦おうとする。


そして最前線で指揮をとる敵がドラコルル。情報機関PCIAらしい情報分析力で、秘密道具を使ったドラえもんたちの作戦を丸裸にしていく。
togetter.com

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mubou.seesaa.net

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自分自身としずかちゃんを人質交換しようとするパピとの交渉シーン。この時パピは姿を隠し、猫の声帯を借りて喋っています。「きみが一度でも約束を守ったことがあるか?」という皮肉を、さらっと笑って肯定する度量の大きさを見せるドラコルル長官。

部下や上官との軽妙なやりとりもあって、上に紹介した評価のように、有能な悪役として人気が高い。


しかし今回ひさしぶりに見返すと、ちゃんと悪人らしい下種なところも皮肉めいて描かれていることに気づいた。
具体的なひとつが、上記の評価から引用したふたつの場面だ。探査機をしのばせてパピの居場所を見つけた部下に、「昇進を約束しよう」とたたえる67頁。「きみが一度でも約束を守ったことがあるか?」と問うパピに、笑いながら認める90頁。
離れた場面ということもあって気づきにくいが、読み比べると味わい深い。ドラコルルのように有能な悪役は、しばしば逆説的に理想的な上司と解釈されがちだが、しっかり読めば倒すべき敵とわかる描写をされているものだ。

『世界まる見え!テレビ特捜部』大どんでん返しSP

どんでん返し特集だが、特集のサブタイトルの時点でけっこうなネタバレになってしまうのが難しい。
特に、最後に紹介された犯罪の少ないオレゴン州ユージーンで少年が殺された事件が厳しい。ギャング撲滅運動のため自宅を少年たちに開放していた女性メアリー・トンプソン。その息子が殺傷事件でナイフをにぎっていたと証言しかけた少年が、ギャングの処刑方法で殺された。やがてメアリーに賛同していた少年ふたりが自首したものの、かたくなに動機を語ろうとしない……
その真相は、メアリーこそがギャングのボスであり、さからった少年を別の少年に処刑させて、組織をひきしめようとしたというものだった。実話としては意外な展開であるし、このまま映画にできそうな事件だ。もともと犯罪の少ない都市でギャング撲滅をすることが、逆説的に別の動機をうかがわせる伏線にもなっている。しかし、どんでん返しと思って見ていると、フィクションのサスペンスの一類型として予想できてしまう。


他に、航空機墜落事故で選手の多くと支えるスタッフを失ったブラジルのサッカーチーム「シャペコエンセ」の再起する姿など、良いドキュメンタリーも多かったのだが、どんでん返しかというと悩むところ。
比べて良かったのは、人生のどんでん返しとして、ちょっとした発明から大成功した市井の人々を紹介していくパート。結末が予告されていても過程に興味をもてた。

『ドラえもん』ドラえもんが受験生!?/拝啓、虹谷ユメ子さん

ドラえもんが受験生!?」は、ロボット学校卒業の単位が足りないため、ドラえもんが再試験を受けなければならないと知らされる。そしてドラえもんは実地で人助けをしていくが……
佐藤大脚本、釘宮洋コンテのアニメオリジナルストーリー。ロボット学校で劣等生だったドラえもんという過去アニメシリーズで定着した描写*1を引いて、ドラえもんの奮闘をのび太が見守る逆転の構図が展開される。
さまざまなトラブルを解決していく展開に密度があり、制限された秘密道具のとっさの応用にバラエティもあって、後半も見ていて楽しかった。描写されるのは〇か△ばかりで、最後のトラブルで×が同数以上あると示されたのは違和感あったが。
それと最後にのび太が自力でトラブルを解決し*2、そのロボットと人間の理想的な関係に試験官ロボットが感激しつつ、試験は不合格とするのもドライで良かった。
しかし、すぐドラえもんが帰ってきた理由が、実際に単位が不足していたタヌキ型ロボット*3と混同されたというのは、あまりにも安易。てっきりドラえもんにとっては長時間の学校生活でも、のび太視点なら一瞬というタイムスリップSF展開になるかと思っていた。こんな偶然だよりの唐突な解決にするくらいなら、秘密道具を直接つかわない教育効果を合格あつかいする素直な結末で良かったのでは?


「拝啓、虹谷ユメ子さん」は2017年放映版の再放送。しかしサブタイトルの表示で、実際以上に昔の再放送に見えた。
hokke-ookami.hatenablog.com

*1:原作者の生前につくられたアニメオリジナル短編が、フィルムコミックのコメントで原作者により公式設定と認定されたことも大きい。

*2:途中のトラブルでジャイアンスネ夫がやってきて、他のトラブルの犬が再活用したのも感心。

*3:尻尾が縞模様になっているミスもいただけない。