法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 Season18』第19話 突破口

ゼネコンの口利き疑惑にかかわっていたらしい若手社員が転落死する。他殺の可能性もあったが警察上層部から圧力がかかり、自殺として処理された。そこで特命係は第一発見者の老嘱託社員に接触するが……


太田愛脚本。近年の担当回は、最新の社会派テーマをとりこみつつミステリとして成立させる手腕が印象深い*1。今回も、数年前から露呈しつつ日本社会が許容してしまっている問題を風刺する。
冒頭で感心したのは、政治家と癒着しているゼネコン幹部のセクハラ描写。汚れた手で電話をするため、旅館ですれちがった仲居におしぼりをたのみ、返すところで尻をさわる*2


おしぼりのやりとりでは笑顔の仲居が、ここでは身じろぎして、笑わずふりかえる。もう幹部は電話にしか興味がない。お盆を両手でもった仲居は、抗議もせずに去っていく。
一昔前なら男女のオシャレなやりとりという演出だったかもしれない。しかし現代では権力に抗議することの難しさを感じさせ、両手がふさがった仲居の姿がテーマを象徴している。


もちろん企業と政治家の癒着だけなら古典的な社会派テーマといっていいし、序盤はコメディチックな演出も多くて*3、あまり新しさは感じられない。
序盤の面白味は、伊丹たちが青木をあやつって特命係に捜査をうながすという普段との逆転や、存在感のはっきりしない老嘱託社員の生活などのキャラクタードラマにある。
そしてひとりの思惑による、シンプルなトリックが浮かびあがってくる……


老嘱託社員の発言にある違和感から推理されたのは、自殺を他殺に偽装して癒着問題へメスを入れさせるという衝動的な行動。
その真相と背景をていねいに描いて、やりぬかざるをえなかった心情をドラマとして成立させたところが、シリーズの名エピソード「ボーダーライン」を思わせる。
権力の何も信用できないなかで、一筋の可能性を信じつつも第三者に罪を負わせられないゆえの迷走。自身が罪を背負おうとして、特命係の推理で挫折する痛み。
何よりも若手社員と老嘱託社員が対等な立場で友情をはぐくむ回想が美しい。いわゆる飲みニュケーションが苦手ゆえに生まれた関係は、冒頭の宴会と対照的だ。


特命係の信念ゆえに他殺という疑いをつづけて捜査する偽装もできない。
しかし杉下が最初に着目した死体の折れた指が、閉塞をつきやぶる「突破口」になる。
将棋という趣味で、若手社員と老嘱託社員をむすびつけた指先。それが詰みにたどりつく布石。