法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』ムードもりあげ楽団/楽々バーべキューセットはラクじゃない/南海の大冒険〜キャプテン・シルバーの財宝〜

夏祭りだよ!ドラえもん1時間スペシャルと題した3本立てに、ガイド役としてドラえもん芸人のサバンナ高橋茂雄が登場。来年の映画『新・日本誕生』の告知映像も公開された。


「ムードもりあげ楽団」は、さまざまな状況で小型ロボットが伴奏して、のび太の気持ちをポジティブにもネガティブにも強くしていく。
リニューアル後に安藤敏彦コンテ演出でアニメ化されていたが、今回は楠葉宏三総監督コンテ。特に良くも悪くもないアニメ化だった。
原作と違うのは、BGMの説明として出てくる劇中TV番組が、よくわからないドラマやヒーロー物だったこと。原作では『パーマン』が使われていたのだが。


「楽々バーべキューセットはラクじゃない」は、バーベキューするための秘密道具で、楽すぎては面白くないからと障害を設定する。
高橋茂雄考案の秘密道具によるオリジナルストーリー*1。水野宗徳脚本だが、高橋茂雄もシナリオ打ち合わせに参加し、意向を反映させたという。
バーベキューは苦労するからこそ美味しいという視点はいいし、きりかえ機能が秘密道具にあるという設定に原作らしさもある。
しかし全自動の安易さは作中でもつまらないからいいとして、設置される障害がそれほどおもしろくない。炭に火をつける難しさや、野草をとる難しさなど、もっと現実に応用できる描写にしても良かったのでは。高橋の責任ではないだろうが、秘密道具デザインに藤子F作品らしさがないのもマイナス。


「南海の大冒険〜キャプテン・シルバーの財宝〜」は、のび太が宝探し地図でいきなり宝のありかを発見。簡単すぎてはつまらないからと、遠くから船出したり、時間移動したりする。
原作は短編にしては20頁と長めで、後半をふくらませて映画『ドラえもん のび太の南海大冒険』が原作者没後につくられたりもした。今回のTVアニメでは序盤から内容が違っており、ジャイアンスネ夫と競争する要素がないし、冒険の大半はたいくつなものだという皮肉もない。
そして現代では船がとおりかかって気分が出ないからとタイムスリップするのだが、そこで救助したキャプテン・シルバーというキャラクターもつまらない。たいして能力もないのに冒険の足をひっぱるばかりで、倒すべき敵としての格はないし、宝の場所はわかっているのだから導き手としても機能しない。そのくせ、内部にかかえている敵という立場なので、同じような立場にあたるジャイアンスネ夫の活躍を奪ってしまった。
バスコ・ダ・ガマの残した宝という設定だけ、原作とは違うオチの伏線となっていて良かったくらい。あと、映像はコンテ演出や作画監督の数が多かったわりに、それなりに安定していて悪くなかった。


最後に流れた『新・日本誕生』の映像は、あまり驚きがないものだった。
リメイク前のアニメ映画の時点で、かなり原作との齟齬をきたさないよう作られていたし*2、映像も高度に安定していた。よほど新しい要素をつけくわえなければ新味を出しにくいが、かなり構成が緊密にできていて、明らかな穴がない作品なので改変することは難しい。
下記のTogetterではギガゾンビの背景をふくらませられる可能性が指摘されているが、その議論に出てくる「姑息な冴えないおっさん」という意見に私の印象も近いので、個人的には背景を描かず落差を残してほしいところ。
リメイク?再映画化?問題と『ドラえもん 新・のび太の日本誕生』について - Togetter
予告映像を見ればククルが少女化されたりもなさそうだ。ただ原作ではクライマックスからペットの活躍が前面に出たので、最後までククルが活躍するよう描写を増やす余地はあるだろうか。同じく最後に無視されていたものとして、ギガゾンビに操られていたクラヤミ族の顛末や背景を描くこともできるかもしれない。クラヤミ族もギガゾンビに恐怖で支配されていて、その良識派が脱出時にククルと共闘する……などという展開はどうだろう。
いろいろ考えたが、現代的なテンポに演出することはできるだろうし、原始時代の生活を現代の考証で描きなおすことも不可能ではないだろう。良いリメイクになることを期待したい。

*1:http://www.tv-asahi.co.jp/doraemon/news/0123/

*2:直後の『のび太とアニマル惑星』では、のび太の正体が人間であることについて決戦前の会話で語られたり、敵メカの急造ぶりがデザインから明瞭だったり、敵首領の素顔が描かれたり、アニメ映画で独自の見どころが多かった。