法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

片渕須直監督のインタビューを読んで、子供向けアニメ映画の厳しい状況を改めて知る

実際に子供向けアニメ映画を作ろうとした制作者側の発言として、これまで一部で語られたことの裏づけとなるだろう。
globe.asahi.com
日本のアニメについてインタビュアーが「国籍に関係なく、様々な国で受け入れられる」ともちあげ、それは特化した結果ではないかと片渕氏は指摘する。

対象年齢を特化していった結果だと思うんですよ。例えば、ピクサーなどはまだ子供のために見せるという使命が残っていますよね。日本はもうないですよ。

子供向けは全滅しましたからね。夜7時台のテレビアニメーションから子供アニメ全くなくなりましたから。映画で作られているのは、『ドラえもん』、『アンパンマン』、『ポケットモンスター』、『妖怪ウォッチ』、それから『プリキュア』など。これって、何年同じものを作っていますか?

子供向けのアニメーションは、新規参入ができない世界になっている。だから、アニメ映画『マイマイ新子と千年の魔法』を作るという話になった時、プロデューサーとともに頭を抱えたんですよ。やることはできるけど、売ることは難しいんじゃないかと。

近年に新規参入でヒットしたアニメ映画といえば、細田守監督の『時をかける少女』や新海誠監督の『君の名は。』のように、まず思春期の観客に向けて売れて、そこから広く波及したものが目立つ。
片淵監督作品でいえば『アリーテ姫』もそうだが、子供向けの原作を映像化しても、子供の市場に向けて売ることは難しく、たしかに残念ながらヒットには恵まれなかった。


子供向けアニメ映画を新規でつくろうという動きは一時期あったのだが、ほとんどが商業的には不発に終わったと記憶している。
2007年の『河童のクゥと夏休み』、2010年の『宇宙ショーへようこそ』、2012年の『ももへの手紙』『マジック・ツリーハウス』、2013年の『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』……

河童のクゥと夏休み

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  • 発売日: 2013/11/26
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マジック・ツリーハウス [Blu-ray]

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  • 発売日: 2012/08/03
  • メディア: Blu-ray

どの作品も一定の評価を受けてきたスタッフの新作であり、目をみはる作画や注目すべき問題意識など、それなり以上に内容もともなっていた。無責任な観客の立場としては、それで充分といってもいい。
しかし一部のアニメ愛好家が高評価したとしても、いったいどれほど親子連れの観客が映画館で楽しんだだろうか。きちんと商業として成立して制作者に還元され、次につなぐことができただろうか。


もうひとつ片渕氏が指摘した、子供向けアニメ枠がTVから消えていることも、ここで懸念材料となってくる。
たとえば、片渕氏が言及していないアニメ映画として、『かいけつゾロリ』がシリーズをつづけている。実験的な演出などの見どころも多い。しかし3年放映されたTVアニメ版があっての成功だろうとも思う。
インタビューで言及されている『若おかみは小学生!』も、同時期に別スタッフのTVアニメ版があって、それでもヒットにつなげるためには細々とロングランをつづけて存在を知らしめる必要があった。
先述した『宇宙ショーへようこそ』や『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』も、導入部分に時間をかけすぎ、子供には単純に尺が長すぎる欠点は感じた。まずTVアニメで基本設定を広く周知させて、本筋のみ中編映画として上映するべきではないかと思ったものだ。

『相棒 Season18』第18話 薔薇と髭との間に

リゾート開発企業とオーベルジュの契約金1億円が強奪された。被害者の知人としてゲイバーのママが、特命係に捜査をたのみこむ。被害者の実家はかつて旅館で、同じリゾート開発企業に買収された過去があったが……


シーズン1から登場したゲイバーのママが、シーズン6以来ひさしぶりの出演。旧相棒の亀山薫と知りあいという設定なので、相棒交代後に出番がなかったことは理解できる。
www.tv-asahi.co.jp

12年ぶりに呼んで頂けた事にまず感謝ですが、ヒロコママが都会の片隅で生きていて、全くスタンス変わる事無く、現役で生活して居る事に、感動です!

しかし約十年たって変わらないゲイ描写は良いのかどうか悩む。劇中で提案されたように花の里の代替としてゲイバーを使う展開は面白そうだが、より慎重さが要求されるだろうなとも思う。
特命係の旧知というだけで、ゲイという側面が謎解きにまったく関係しなかった自由さは良かったが、それが許されたのは単発回だからだろう。


事件の構図はわかりやすい。リゾート企業がヤクザを使ってまで強引な買収をくりかえしており、その復讐が動機らしいことが早々に判明する。
被害者兄弟の旅館の日々を折り鶴というモチーフで思い出したり、兄弟のかばいあいが事件を混乱させたりといったパターンは良いとして、そこから真犯人を隠す手つきがうまくない。
契約がおこなわれた場所のレストランも旅館と同じような事態におちいっていた設定が語られた時点で、兄弟につぐ容疑者と視聴者にわかってしまう。推理をはじめた後で、強奪事件直後にレストランが借金を全額返せたと杉下が後づけで指摘するにいたっては、金の流れを追えば特命係でなくても真犯人にたどりつけたろう、としか思えなかった……
もう少しレストランを容疑の網から逃す巧妙さがほしかった。ただ現場を調査するためという理由でレストランに特命係が行って、そこでオーナーや客との会話から間接的に経営危機回避の情報が集まるとか……

『ドラえもん』記念日シール/やりすぎ!のぞみ実現機/映画ドラえもん のび太の月面探査記

せっかくの昨年映画の初放送日なのに、冒頭でドラえもんが映画の延期を告知。
同日放映だが、今年の映画は3時間枠ではなく、枠を分割した別番組として告知された。


「記念日シール」は、カレンダーが間違いだと主張し、ジャイアンのび太が恥をかく。さらに知ったかぶりで重ねた恥をなかったことにするため、口走った記念日を現実化するが……
清水東脚本による、いかにも2020年オリンピックに便乗するかのようなアニメオリジナルエピソード。作者が苦手だったためか、原作では体育そのものを称揚するようなエピソードは滅多にないのだが。
新型コロナで五輪の延期が確実視される時期に放映されたことも、ちょっと風刺としてもタイミングが悪い。ステロタイプな各国描写も、五輪の開催国の意識の遅れを痛感させる描写だ。明らかな肉のダジャレでつけた記念日に、町内限定とはいえ世界中の人が集まって競争すること自体も、ギャグアニメとはいえ違和感がひどい。
せめて原作短編「ぐうたらの日」*1に出てくる秘密道具「日本標準カレンダー」とオプションの「休日シール」をつかえばいいのに、わざわざ完全な新道具「記念日シール」を設定したのも良くない。一応、シールがはがれかけて多重の意味をもつ記念日になるというオチでは、何も書きこまず願うだけでいい「休日シール」では不可能なのだが、そこは細かい設定ができる別オプションとして「記念日シール」を出せば良かったのではないだろうか?
ただひとつだけ、出木杉の説明にあわせて映像で地球を動かしてうるう年を解説した描写は良かった。コンテ担当は佐野隆史。


「やりすぎ!のぞみ実現機」は再放送。冬に札幌ラーメンを食べに行く有名な導入のおかげで、時期的には違和感がない……かと思いきや、ドラミちゃんがドラえもんへプレゼントする場面で「メリークリスマス」と叫んでしまっている……
hokke-ookami.hatenablog.com
ただ、中盤に出前の札幌ラーメンを頭からぶっかけられ、かんちがいしたジャイアンに殴られる天丼ギャグや、終盤の学校に行かずにすむよう願う微調整をくりかえす天丼ギャグ追加などのアレンジは、改めて見ても巧いと思った。


「映画ドラえもん のび太の月面探査記」は、やはり2010年代の終わりを告げるアニメ映画として歴史的な作品だと思う。
hokke-ookami.hatenablog.com
もちろんTV画面でも楽しめるだろうが、空想が消えて殺風景になった月面の寒々しさなど、映画館の暗闇で見てこそ印象深い描写が多い。
TVで見る時も、健康状態に気をつかいつつ照明を落として鑑賞するのが良い作品だと思う。

*1:2005年のリニューアル後は2006年にアニメ化。

『ユリョン』

韓国軍の訓練において、実戦と思いこんで暴走した上官を主人公が射殺した。そして軍事裁判で銃殺刑の判決がくだる。
しかし刑は執行されず、主人公は韓国軍が秘密裏に所持する原子力潜水艦ユリョンへ乗せられ、謎の作戦に参加するが……


潜水艦を舞台にポリティカルアクションを展開し、大鐘賞で6部門に輝いた1999年の韓国映画。後に世界的に評価されるポン・ジュノ監督が脚本をつとめた。

ユリョン [DVD]

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  • 発売日: 2001/08/24
  • メディア: DVD

当時の韓国映画で使える技術で、必要充分な場面にしぼってセットを作りこみ、無理なく大作アクションを展開している。殺陣の動きは遅めだが、泥臭く血みどろで、命がけと感じさせる迫力があった。
ユリョンが停泊している場面はカラーバランスをいじって、ミニチュア合成か3DCGか区別できない質感はある。ミニチュアセットにスモークをたいて海中に見せかける特撮も無理なくこなしている*1
サウナや料理といった生活感をつくりだす描写が、アクションシーンで活用されていく構成も堅実によくできている。


当時は1988年にはじまる漫画『沈黙の艦隊』や、1995年の映画『クリムゾン・タイド』のパクリと一部で評され、逆に漫画家かわぐちかいじの推薦コメントを宣伝で使ったりもした。

しかし潜水艦という同じ題材で先行作品に類似して、参照がうかがえることが、どこまで「パクリ」と呼べるかは疑問なところ。
原子力潜水艦の独立行動という発端は1984年の小説『レッド・オクトーバーを追え!』という前例があるし、映画化もされた。思想的な対立を密室劇に凝縮する風刺劇も珍しくはない。
多くの評が隠している設定を考慮すれば、後述のように『沈黙の艦隊』や『クリムゾン・タイド』より類似を感じる作品がいくつかある。


ユリョンが日本へ核攻撃しようとする展開から、WikipediaやWEBメディアで「反日映画」とも評されているが、やはり重要な設定の説明がない。
韓国の反日作品 - Wikipedia

ユリョン (유령) 』、1999年 - ユリョンとは『幽霊』の意。韓国の潜水艦が沖縄を始め、東京や大阪、札幌や福岡など日本の主要都市に核を撃ち込もうとする。劇中では艦内で「核攻撃派」と「時期尚早派」が対立するが、「核攻撃派」の副艦長が「沖縄県民は運が良い、あと2時間寿命が延びた」といったセリフが有り、また「時期尚早派」の主人公も韓国が先制攻撃をすれば「祖国が火の海に成ってしまう」とのスタンスであり、対日核攻撃を全否定する主張はない。

日本メディアが報道しない韓国ドラマの反日っぷりは凄い! K-POPなんて生ぬるかった | ガジェット通信 GetNews

日本でブームになった韓流ドラマや映画だが、とても日本では放送できないものも多く存在する。ヒットしたかどうかは別として反日感情が全面に出ているドラマがあり、そのことには日本のマスコミは一切触れないという不自然さ。今回はそんなドラマを紹介していきたいと思う。

映画『幽霊(ユリョン)』1999年
韓国の潜水艦が日本に核ミサイルを撃ち込もうとする内容。実際は打ち込まなかったので韓国人に不評だった。この映画は99年度映画興行順位の8位にランクインした。

日活で配給された映画を「とても日本では放送できない」と紹介する「ガジェット通信」*2は論じるに値しないとしても、Wikipediaの記述も虚偽にかぎりなく近い。
主人公は日本への核攻撃が「時期尚早」と主張しているのではなく、韓国が核武装すべきかという質問に対して、それには条件が必要と答える場面があるだけ。潜水艦の反乱に対しては一貫して止めようと動き、最終的に「核で歴史は変えられない」と主張する。
一方で核攻撃しようとするのは反乱した副官。その動機は、米日韓の思惑で不都合な存在になった潜水艦を自沈させることが決まり、何も知らされないまま自爆作戦に従事させられたため。反乱派は韓国の主権なき状況にいきどおる「愛国者」だが、同時に祖国に裏切られた立場でもある。
能動的な反乱ではなく国家に消されようとしたことへの反抗という構図は、実話にもとづく2003年の韓国映画シルミド』に近い。核攻撃の対象が米国ではなく日本なのは、物語では自沈予定場所への通過地点という都合でもあり、憎むべき日本人の姿すら画面に映らない。
ユリョンに攻撃され沈んでいく日本の潜水艦から悲痛な声を聞く場面がある一方、情念に満ちた愛憎は主として韓国に向けられている。


そもそも、軍艦の反乱を内部から主人公が単身で止めようとするポリティカルアクションは、先述した作品よりも小説『亡国のイージス』が近いだろう。ほぼ同時に発表された作品なので*3、まずパクリとは考えられない。

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もちろん完全な偶然で似たとも考えにくい。おそらくどちらも1988年の映画『ダイ・ハード』の舞台を海上の艦船におきかえて、ついでに思想のぶつかりあいを描こうとして、同じような物語になったといったところか*4
比べると『ユリョン』は閉鎖環境で主人公が戦いつづけられるための工夫がよくできている。外の敵艦と内の主人公との戦いが同時進行して、反乱派は一方に注力することができない。作戦途中で数人が主導した反乱なので、艦内に情報を完全開示することはできないし、主人公の味方になる人物も出てくる。
また、ユリョンは不都合な存在になればあっさり放棄が決定したように、実は『沈黙の艦隊』と違って最新鋭の原潜ではない。だから多くの敵艦と同時に戦って勝利するような無茶な展開にはせず、最初は自沈作戦と思ったままの相手を騙しうちして、以降も少数の敵艦とぎりぎりの駆け引きをおこなっていく。
すべてが消えていく結末ともども、無駄なく無理のない範囲で娯楽活劇として完成されている。「パクリ」や「反日」という悪評だけで判断するのはもったいない作品だ。

*1:後述の『クリムゾン・タイド』でも使われた手法。

*2:執筆しているライターの「ソル」は、安っぽい嫌韓記事を量産し、当時から悪名高かった。

*3:ユリョン』はさらに原案的な舞台劇があるという。

*4:もちろん『ユリョン』が他の作品を参照した可能性と同じように、『亡国のイージス』も他の作品を参照しているだろう。

『相棒 Season18』第17話 いびつな真珠の女

女性の指を切断する連続殺人が発生。冠城は拘置所にいる遠峰小夜子に呼び出され、小出しされる手がかりに誘導されていく……


山本むつみ脚本。同脚本家が別のエピソードで登場させた顔を必ず記憶する女性*1と顔を区別できない女性*2を組みあわせ、陰惨な劇場型犯罪を展開する。
拘置所から雑誌に発表した手記や、接見室でのやりとりで出す手がかりが絵になり、映像作品として成立している。相貌認識にまつわる個性という共通点で過去のゲストキャラクターを結びつけたのも上手いと思う。
ただ残された手がかりから事件の謎を解いていく流れは杉下の思いつきが的中するばかりで、安易さが目立った。たとえばノンブルから数字を抽出するのは良いとして、それが指し示す複数の可能性も検討してほしい。
冠城が遠峯に誘導されていることを杉下が忠告するあたりの緊張感は良かったが、結局は誘導にのったまま事件を解決したし、遠峯が今回の事件を動かした動機も明確にはわからないまま。今後の再登場で納得できることを期待したいがが……