法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

映画テン年代ベストテン~アニメ限定~

今年は2010年から2019年までの間に公開された作品が対象とのこと。
映画テン年代ベストテン - 男の魂に火をつけろ! ~はてブロ地獄変~

「公開」の定義は困難です。劇場公開、ソフト発売、ネット配信開始など、どの形態であれ、2010年代に日の目を見た作品であればOKです
ただし、あくまで「映画」が対象です。連続ドラマの1話などは対象外です
シリーズものはそれぞれ独立した作品として扱います。シリーズ全体への投票は無効です

推奨されている形式にそって、まず冒頭にリストを置く。

  1. 映画ドラえもん のび太の月面探査記(2019年、八鍬新之介監督)
  2. 交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1(2017年、京田知己監督)
  3. ノーゲーム・ノーライフ ゼロ(2017年、いしづかあつこ監督)
  4. 夜明け告げるルーのうた(2017年、湯浅政明監督)
  5. 若おかみは小学生!(2018年、高坂希太郎監督)
  6. BORUTO ボルト -NARUTO THE MOVIE-(2015年、山下宏幸監督)
  7. 劇場版 TIGER & BUNNY -The Rising-(2014年、米たにヨシトモ監督)
  8. 劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語(2013年、新房昭之総監督)
  9. 心が叫びたがってるんだ。(2015年、長井龍雪監督)
  10. アイアンマン:ライズ・オブ・テクノヴォア (2013年、浜崎博嗣監督)

各作品の説明と、選んだ理由は下記のとおり。


1.『映画ドラえもん のび太の月面探査記』(2019年、八鍬新之介監督)月から来た謎めいた少年ルカ。仲良くなったのび太たちは、歴史と宇宙を超えた戦いに巻きこまれ、友人のため危地へ飛びこんでいく……

これは高畑勲と関係が深いシンエイ動画*1の生え抜き若手監督による、『かぐや姫の物語』へのアンサーだ。
『映画ドラえもん のび太の月面探査記』 - 法華狼の日記
生前譲位によって令和へ年号が変わる年にあわせて完成したことはともかく、「表現の不自由展・その後」などが攻撃される直前に公開されたことは偶然だろう。
しかし政治的表現が娯楽から忌避される世相において、普遍的な問題意識をもつテーマにとりくんだことで、商業娯楽としてイレギュラーな立ち位置の作品となった。
もちろん作品として完成度が高いことが評価の理由だが、テーマのために2010年代を代表する日本映画となったことも間違いない。


2.『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1』(2017年、京田知己監督)かつて世界をゆるがしたサマー・オブ・ラブ。それと関係なく少年レントンは、思春期らしい停滞のなかにあった……

完全新作映像で描かれた過去のディザスターパニックは映像として素晴らしいが、それが終わって始まるのはTVアニメの再編集。構成が迷走したTVアニメにおいて、比較的にまとまりのあったパートを旅立ちのドラマへと再構成した。
その主軸となるのは、あくまで全50話の1エピソードでしかなかった、ひとりの難民を救おうとする主人公の奔走と挫折。難民を主体性なき群集として描きがちなアニメにおいて、美化せず独立した人格として尊重しようと動きつづけた。
難民に裏があるアニメを、みんなもう忘れたのだろうか - 法華狼の日記
普通の娯楽作品なら、もっと明確な爽快感がある直後の再会エピソードを中心に、ボーイミーツガールとして再構成するところだろう。それなのに、あえて社会の趨勢にあらがうように難民をテーマとして選び、どこにも行くことができない主人公の心情に重ねあわせ、それでも走り出す力強さをうたいあげた。
不器用さもふくめて愛おしさのある作品だ。


3.『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』(2017年、いしづかあつこ監督)多種族が頂点を競う異世界で、最弱の人間種は隠れ住むしかなかった。しかし別種族の少女を助けた一人の青年が、ひとつの奇策を思いつく……

ノーゲーム・ノーライフ ゼロ

ノーゲーム・ノーライフ ゼロ

  • 発売日: 2018/11/14
  • メディア: Prime Video

TVアニメ化されて人気となった異世界転生ファンタジーの前日譚を、同じスタッフで完全新作映画化。種族を超えた男女の関係を、勝利を目指す共犯者としてストイックに描く。
いわゆる俺TUEEEな本編について、なぜ機転と悪運だけでそれが可能になる世界が作られたか。勝利にたどりつけない種族があがいたドラマとして、その過程を描いていく。かなり御都合主義な本編も愛おしく守るべき世界と実感できたし、それにいたる屁理屈も本編より巧妙で納得感が高かった。
いしづかあつこ作品らしい淡く潔麗な色彩設計も、陰鬱なダークファンタジーに意外と合っていた。こういうアクション演出ができるという幅の広さそのものにも驚きがあった。


4.『夜明け告げるルーのうた』(2017年、湯浅政明監督)滅びゆく小さな漁村で、少しでも前を向こうとする大人たち。そのために子供たちが利用され、異種族が傷つけられるかと思われたが……

夜明け告げるルーのうた

夜明け告げるルーのうた

  • 発売日: 2018/04/02
  • メディア: Prime Video

同じ湯浅政明監督、同じ制作会社の『夜は短し歩けよ乙女*2が一ヶ月前に公開されたことに驚かされる。どちらも劇場アニメとして充分な完成度があり、映像はシンプルながら見どころが充実して、きちんと長編映画の物語構成になっていた。
しかし『夜は短し歩けよ乙女』は主人公が惚れた女をストーキングするという物語の根幹にのれなかった*3。一日の酩酊した迷走を一年のように描く手法で、ひとときだけ恋の病に浮かされた物語なのだと納得はできたが。
一方、こちらは幾世代にもわたる共同体へのさまざまな思いを、ていねいに群像劇として描いていく。限界集落の再生のために異種族を利用して観光地化するという、いかにも悪役な行動*4すらも全否定されない。
共同体の圧迫感を象徴する巨岩は、強すぎる光から弱者を守る壁でもあった。そして人々も、たがいを守る壁になっていく。距離をちぢめなくても、言葉がとどかなくても、隠れるための物陰をつくってやるくらいはできるのだ。


5.『若おかみは小学生!』(2018年、高坂希太郎監督)ふとしたことで突然ひとりになった少女。祖母の小さな旅館にひきとられ、幽霊にちょっかいをかけられて、若女将を目指すことになったが……

若おかみは小学生!

若おかみは小学生!

  • 発売日: 2019/03/15
  • メディア: Prime Video

ライトな挿絵で人気の児童向け小説シリーズを、社会と死を濃密に描く児童文学の系譜としてアニメ化。見ているだけで魂がしめつけられるような映像体験が味わえる。
スタジオジブリと関係が深い監督の、シンプルなデザインなのに細部までこだわった絵作りが素晴らしい。主人公の忌避感に説得力を出すための、生々しい昆虫や爬虫類の自然描写。眼鏡のレンズで歪み偏光する顔面の作画。いくら悲劇にさいした少女の主観視点が重要だとしても、人間に眼球がふたつあることを意識した映像表現の斬新さにも驚かされた*5

さりげないカットにもひとつひとつ意味がこめられている。少女が着物で手をふれば腕が見えて、祖母が肌を見せないようにと注意する。急用で夜道を走り出す少女の足元を映したカットで下駄を履いていることが気になったら、鼻緒がちぎれて転んでしまう。冒頭を代表として、変化の予兆が絵と音で必ず表現されている。
少女が旅館で奮闘する根本の動機が、現実の痛みからの逃避なので、旅館経営や児童労働といった問題は留意しつつ慎重に回避*6。超常的な力で珍客が招かれて、少しずつ少女の傷がいえてたくましくなり、それゆえ超常的な存在とわかたれる。短い尺できちんと物語がまとまっている。
しかしあまりに凄まじい絵作りに、クオリティ至上主義の危うさを感じないではなかった。


6.『BORUTO ボルト -NARUTO THE MOVIE-』(2015年、山下宏幸監督)里の運営にかかりきりの父ナルトと、それに反発する息子ボルト。ボルトはゲームにチートツールを使い、試験も禁じられたツールで活躍するが……

BORUTO -NARUTO THE MOVIE-(完全生産限定版) [Blu-ray]

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忍者漫画『NARUTO -ナルト-』の連載終了後、原作者の脚本とキャラクターデザインで作られた後日談。TVアニメ版から頭角をあらわした若手アニメーターが監督に抜擢され、前作『THE LAST -NARUTO THE MOVIE-』から1年たたずに公開された。
TVアニメ版は定期的に素晴らしいアニメーションが展開され、メジャーなタイトルでありながら先鋭的に作画表現が進歩しつづけた。一方で映画版は重厚な作画を楽しめる作品もあったが、比較的に堅実で遊びは少なかった。
特に前作は、主人公が結婚にいたるまでを、きちんと取材*7した現実感ある生活を主軸にして、落ち着いた語り口で描いていった。さすがに後半は手描き作画で派手なアクションを描写したが、印象的なのは前半における緻密な美術と3DCG描写。
対する今作は、実質として半年しか制作時間がなかったからこそ、良い意味で勢いのあるアニメーターまかせの作品となった。テン年代のアニメには珍しく3DCGをほとんど用いず*8、そのためパニックシーンで群集が止め絵になったりしているが、しかし全てを手描きする方針ゆえの統一感があって、アニメーションの満足感は高い。
物語では主人公の身近な課題と、里を襲う巨大な敵で、他人の力を利用する問題を反復。今回が初登場となる少年のドラマと、里全体のパニックが一致して、娯楽作品として過不足がない。やや科学技術のあつかいに疑問はあったが*9、主人公の父子を徹底的に人間として失敗させて、きちんと再起する物語を描けたのは人気作品で原作者が主導ゆえの余裕だろう。
ただし過大な負担がかかる現場だったことも間違いなく、制作中に監督は3回も救急車で運ばれたという*10。末端が過労するより良いとしても、このような無理はテン年代で終わらせてほしい。


7.『劇場版 TIGER & BUNNY -The Rising-』(2014年、米たにヨシトモ監督)特殊能力をもつマイノリティが、ヴィランやヒーローとして活躍する都市。そこで豪快な新パートナーと陰謀劇に立ち向かうかと思いきや……

大ヒットしたオリジナルTVアニメの完全新作映画。単独作品として良かったところは基本的に過去の感想で書いたとおり。
『劇場版 TIGER & BUNNY -The Rising-』 - 法華狼の日記
前々回の映画ベストテンでは番外に選んだが、似た枠組みの別企画のTVアニメが昨年に放送され*11、それにつながる助走としてテン年代を代表する作品として選んだ。
つまり後述のように、オールタイムベストテンではないからこその選出ではある。続編の話も聞こえているし、さらに向上した作品が来ることを次年代に期待したい。


8.『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』(2013年、新房昭之総監督)魔法少女たちが協力して魔女を倒している街。しかし華やかな戦いの日々に、ひとりの少女が疑問をいだくようになる……

テン年代の始まりを代表するTVアニメの劇場版にして、評価の高いTVアニメの結論に説得的な疑義をつきつけ、それゆえひとつの物語として印象深かった。
『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』 - 法華狼の日記
近年のアニメ映画は、良くも悪くもTV版を発展させたファンムービーとして完成していることが多い。だからこそファンムービーに徹するかに見せて土台からひっくりかえし、それでファンから新たに高い評価をえた特異性がきわだつ。


9.『心が叫びたがってるんだ。』(2015年、長井龍雪監督)山の上のお城で、父王の秘密を知った姫は、それを口外したために言葉がしゃべれなくなった。しかし姫は言葉のかわりに歌えることを周囲が気づく……

心が叫びたがってるんだ。

心が叫びたがってるんだ。

  • 発売日: 2017/09/22
  • メディア: Prime Video

オリジナルTVアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の成功を受けて、同じチームが展開した青春アニメ。空想に逃避せざるをえない少女の、学校生活をとおした回復を描いていく。
いかにも岡田麿里脚本らしい性的描写の下品なあざとさや、押し殺していた感情をぶつけあう描写がつづきながらも、物語や雰囲気が壊れないようコントロール。いかにも日本アニメらしい造形でいて品があるキャラクターデザインも、下世話な物語を見やすくする。
そのまま芸能の成功と恋愛の成就がシンクロして、クライマックスにいたるかに見せて、それぞれ異なる話なのだと踏みとどまった結末にも感心した。芸能のために恋愛を捨てるという定番とも違って、きちんとひとつひとつ問題に向きあい答えを出す子供たち。
何かが最上位という価値観にせず、ひとりひとり異なる価値観をもちながら、ひととき響きあう。


10.『アイアンマン:ライズ・オブ・テクノヴォア』(2013年、浜崎博嗣監督)平和のために超技術の軍事力を開発しつづけるトニー・スターク。そこに幼き天才エゼキエル・ステインが横槍をいれ、トニーは追いつめられていく……

マッドハウスがアメコミヒーローをアニメ化するプロジェクトで、代表的なヒーローのTVアニメ化がひととおり終わった後の長編SP。厳密には映画館で上映される作品ではないので、この位置になった*12。しかし『ワンパンマン』1期のスタッフらが参加した映像は絶品で、下手な劇場作品よりも満足できる。
アメコミヒーロー映画が話題をさらった2010年代だが、私はほとんどの作品を見ないままだった。世界設定の異なるヒーローが同居する物語は、『ウォッチメン』のように作品コンセプトとしての必要性がないと、どうしても強弱のルールがあいまいに感じられて、お祭りイベント作品になってしまう。
だからこそ、敵味方ともに科学技術をめぐって闘争したこの作品こそ、強固な世界を舞台とした寓話として楽しめた*13。アメコミファンには不評らしい敵の無垢な人格と観念的な描写は、むしろ日本アニメならではの良さと感じたし、良くも悪くも大人なアメコミヒーローとの対比が興味深かった。それが超技術に工学者が葛藤する物語となり、疑似的な父子の相克としても見どころがあった。


前々回のオールタイムベストテン*14で2010年以降の作品ばかり選んでしまったこともあり、2010年代という枠組みから選ぶことに悩んだ。
そこで2010年代という時代の終わりや始まりを予感させるというテーマにしぼることにした。
より具体的には、現在の印象は強くとも、オールタイムではさまざまな理由で選ばれなさそうな作品をあえて選んだ。
逆にいえば、オールタイムで選ぶべきと思った作品は、それゆえ落とした側面もある。

*1:前身となるAプロをたちあげたひとりが高畑勲。『ドラえもん』のアニメ化にも企画段階で貢献していた。テレビ朝日版『ドラえもん』の誕生に高畑勲監督が貢献していた - 法華狼の日記

*2:『夜は短し歩けよ乙女』 - 法華狼の日記

*3:後にコミカライズを読んで、長期間たっても一方的に後をつけるばかりの主人公に、男性読者としても疑問を感じずにいられなかった。その比較により、一年を一日の出来事のように圧縮して、気持ち悪さを減じた映画の巧みさが実感できたわけだが。

*4:2年前のアニメ映画が同じテーマにとりくんでいたことが興味深い。『ドラえもん クレヨンしんちゃん 春だ!映画だ!3時間アニメ祭り』宇宙探検すごろく/最強!オールマイティーパス/「映画クレヨンしんちゃん オラの引越し物語〜サボテン大襲撃〜」 - 法華狼の日記

*5:3分23秒ごろ。

*6:祖母の旅館に将来性が無いことをにおわせる描写が序盤にあり、そこには明確な解決がないまま物語が閉じられる。逆にライバル的な少女の大規模な旅館は、さまざまなプロジェクトを展開しつつ人間や自然を傷つけないよう注意する描写がしっかりある。そこから主人公側の旅館方針が正しいのかと問いかける意見にも説得力があり、それが結末のさまざまな助力につながるだけでなく、あくまで主人公の救済という枠組みのドラマを現実の旅館に適用するべきではないという注意になっていた。

*7:映像ソフトのブックレットによると、故・小林常夫監督が自ら写真を撮影し、主人公の家などを原作や過去のアニメ版と異なる設定に変えた。

*8:目立つのは、必殺技で出てくる球体内に、エフェクト効果を使っているところで、これはTVアニメ版の踏襲。他には虫の場面で使っているくらいか。

*9:後半で状況についていけなくなっても、傲慢さによって敵を結果的に助けるというかたちで、物語で必要充分に活用されていた。しかし科学力で弱さを補うことも科学班の努力ではあるのだから、反省させて再評価される機会を描いてほしかった。

*10:「BORUTO」舞台挨拶、岸本斉史と声優陣がそろって初日をカウントダウン - 映画ナタリー

*11:2010年代のTVアニメ各年ベスト - 法華狼の日記で2018年のベストに選んだ。

*12:KINENOTEでは未公開作品として掲載されている。

*13:同じスタッフでアメコミファンからの評価が比較的に高い次作『アベンジャーズ コンフィデンシャル:ブラック・ウィドウ&パニッシャー 』は、最後のアベンジャーズ集結で世界観が壊れたという印象が私にはあった。

*14:映画オールタイムベストテン:2017〜アニメ限定〜 - 法華狼の日記