今回は数回前から予告されていたジャイアンの誕生日SP。新曲発表はEDにまわされているが、内容の連続性がたかくて全体でひとつのストーリーを構成している。
「かわいいジャイアン」は、のび太たちはリサイタルや料理から逃げるため、ジャイアンは家族に祝ってもらうべきと提案する。しかし剛田家でジャイアンが祝われるようすはなく……
清水東脚本のオリジナルストーリーで新人の森山瑠潮が2度目のコンテ演出回。構図やカメラワークは才気を感じるが、PANなどの動きがなめらかでなく微妙な違和感があったのは意図した演出か、新人らしい経験不足ゆえなのか、それとも視聴している側の気のせいなのか。
祝ってもらうジャイアンは「ハッピーバースデイ・ジャイアン」、幼いころは幸せだったと疎外感をおぼえているところにサプライズで祝われる展開は中編アニメ映画『ぼくの生まれた日』を少し思い出すストーリーだが、似た状況というだけでオリジナリティは高い。炭水化物多めの食卓が、育ち盛りの男児向けの誕生会として正解。それでいて家庭で可能な範囲でパーティー感がある盛りつけにできている。リサイタルをやりなおすオチも予想できるが、直前に止め絵演出までつかって感動的に落としきっているので、ちゃんと笑えるギャップが出ている。
しかし今回はジャイアンが家族にいわってもらおうと「いい子」になっていることで、小学生で小売りの配達をてつだわされることのヤングケアラーっぽさを強く感じた。のび太たちへの暴力もストレスやネグレクトの結果ではないかと思えた。それだけ今回のジャイアンが生きたキャラクターと感じられたということだが。
「シンガーソングライター」は、誕生日でおこなえなかったジャイアンリサイタルを、あらためておこなうことに。せっかくジャイアンは新曲がつくれないと悩んでいたのに、秘密道具で協力することに……
ジャイアンのゲッソリ顔とドラえもんの「プークスクス」が知られる原作を、誕生日スペシャルにあうようなアレンジをほどこしつつ、ほぼ忠実にアニメ化。
水野宗徳シリーズ構成の脚本で、誕生日にジャイアンの歌を聞かなくてすんだというところから物語を導入。しかし前半のオチからすると、結局は歌を聞かされそうになったような印象があり、ちょっと前後半の連携がとれていない感じがあった。
単独で見れば、原作をていねいに映像化していて悪くはない。秘密道具「メロディーお玉」が作曲したが音符を読めないとジャイアンが激怒する描写はアニメでも笑えた。現実におこなっていた企画*1にあわせて「遠写かがみ」をつかって劇中でTシャツを募集するメタなアニメオリジナル描写も楽しい。
ただ、実際にジャイアンがリサイタルをおこなう描写はEDパートにあてているので、この後半部分だけではオチが完結していない印象が残った。TV番組としては現状でも完成されているが、WEB配信や映像ソフトの収録状況によっては制作意図が理解しづらくなりそう。
そして先述のようにリサイタルはED映像にまわされたが、迷惑にならないよう宇宙船で地球からはなれた場所でおこなうという趣向。
前回放送*2でモーションキャプチャー用のスーツを木村昴が身につけていたので予想できたが、ライブで歌い踊るジャイアンは3DCGで描画。シンエイ動画のアイドルアニメ『アイドールズ!』の制作の多くを担当した制作会社Ray*3によるものだが、カメラワークともども現代のアイドルアニメレベルのクオリティになっていた。
そして歌詞は考えられるという後半の物語にあわせるように、実際に新曲の歌詞は声優の木村昴がおこなっている。ならば作曲編曲を担当した木下龍平は「メロディーお玉」だった……?
ともかく新曲にあわせたジャイアンTシャツは1万人以上から選ばれただけあって本気で良いデザイン。ジャイアンらしさがあり、子供が考えてもおかしくなさそうなシンプルさで、スタッフが調節しているにしてもパーツやカラーの配置バランスもいい。
リサイタル後の歌のフルはアプリでというドラえもんとのび太のつきはなした口調も良かったし、視聴者100人プレゼントの冗談抜きに欲しくならないタワシストラップをいらないと笑うしずちゃんの冷え冷えとした口調も最高だった。宣伝にまったくならないことが冗談アイテムの宣伝として完成度が高すぎる。
*1:スネ夫がブランドをたちあげているというアニメオリジナル設定を忘れていないところが良い。 『ドラえもん』町内突破大作戦/コーディネートはスネカパで - 法華狼の日記