法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』ウラオモテックス/スランプ!ジャイアン愛の新曲

ジャイアン誕生日!特別企画!」と題して、ジャイアンの歌がテーマとなる原作のアニメ化と、アニメオリジナル作品を放映。ただ、前者でジャイアンリサイタルの存在が言及されたのに、後者でひさびさにジャイアンリサイタルをするかのような導入をしていたのは少し違和感があった。脚本家等のスタッフを共有して、もっと連続性を高めてほしいところ。


「ウラオモテックス」は、のび太スネ夫の腹黒さを告発しようとして、裏目に出たあげくにスネ夫の評判を高めてしまう。そこで本心をしゃべらせる秘密道具を出したが……
スネ夫の表と裏は基本的に原作通りの展開。他人の家を通り道にするため犬をてなづけている描写を足したくらい。無数の薔薇を投げいれる場所が風呂であること、それを薔薇風呂と思っていったん喜ぶのもアニメ独自のアレンジ。あと、しずちゃんに対して宿題を見せることを要求する真意そのものは原作通りだが、現代のコンテキストではいわゆるツンデレに感じてしまう台詞回しなので、もう少し要求内容をゲスに改変しても良かったかも。
そして回収した秘密道具がパパにはりついてしまうトラブルから、アニメオリジナル展開が始まる。藤子F短編『赤毛のアン子』に出てきた高級紅茶詐欺「ルビーのしたたり」を引用し、それがたいした味ではないことをパパが指摘して、取引先に詐欺と気づかせる。嘘をばれさせて批判するだけではなく、正直そのものの大切さを描くことは、子供向けアニメとしても良い追加だと思う。むろん取引先の器が大きいからこそ成立したドラマでもある。
そしてパパのドラマから原作通りのオチに戻るのは違和感がありそうだと思っていたが、意外とスムーズに感じられた。むしろ、ただ物語を閉じるためのオチにとどまらず、パパのドラマと合わせて本心を正直に伝える結果の多様性をあらわすママの描写として、より本筋に深くむすびついた感すらあった。


「スランプ!ジャイアン愛の新曲」は、路上ミュージシャンに感動したジャイアンが新曲を発表しようとして、スランプにおちいる。のび太たちはスランプを維持させる作戦に出るが……
助けるふりをしてスランプのままにさせようとする策略は悪くないし、ドラえもんたちがいつしか応援してしまう展開も良いのだが、物語のまとまりが悪い。冒頭の路上ミュージシャンを結末で再登場させながら、まったくストーリーに反映させられていない。曲作りやボイストレーニングを助ける秘密道具「ヒットソングコング」も、機能が過剰すぎて秘密道具らしさが薄い。
何より、本編では歌唱力が低いままなので結末の歌がよく聞きとれず、直後のEDでジャイアンの歌をあらためて流す構成がおさまり悪い。ここは素直に今回だけ秘密道具の力でそれなりに聞きとれる歌になりつつ、秘密道具が壊れたので次回以降は無理というオチで良かったのでは。
ただ、今回のようなジャイアンのめげなさを見ていると、シューゲイザーバンドなどで活躍できる未来もありえそうに思えてくる。