法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ジェイソン・ボーン』

かつてジェイソン・ボーンをめぐる騒動でCIAを去った女性ニッキーが、目的をもって接触してくる。CIAによる世界的な陰謀を阻止するため、ジェイソン・ボーンの協力をもとめているらしいが……


2016年の米国映画。原作小説シリーズからはなれた映画オリジナルストーリーで、現時点でシリーズ最新作となる。

シリーズ5作目だが、こちらが実質的な4作目と考えるべきだろう。4作目は監督のポール・グリーングラスと主演のマット・デイモンが降板して、シリーズの脚本家が監督もつとめた外伝的な作品だった。
3作目*1で信頼関係を構築したパメラ・ランディは登場せず、サイバー対策で起用された若い女性スタッフが主人公を利用しようと接触するところから物語がはじまる。


全体としては、前作で助かった女性が主人公とともに追われている時に暗殺され、それが反撃の動機になる描写などから、シリーズ2作目*2をなぞったような作り。異なる思惑が主人公を場面場面で誘導していく2作目のとっちらかった構成を整理して、3作目でCIAを辞めた女性が主人公を過去への探求へ導き、CIA内で主人公を消そうとする動きと利用する動きの対立に向きあわせていく。
新味のなさは公開時の不評の要因だったらしいが、主人公をめぐる謎はすでに大半が解明されている。たしかに物語に興味をひく新展開もないが、もともとそこに斬新さはないシリーズなので文句をつけるつもりもない。


経済危機にあるギリシャのデモにまぎれたバイクチェイスが見ごたえたっぷり。デモと物語に直接の関係はないが、官憲と対立して傷ついていく名も無き人々の姿は主人公にかさなりあう。夜景を火炎瓶の炎が照らし、主人公の逃走をデモ隊の闘争が助ける。もともと抗議運動が暴力的に弾圧された事件の長編映画化が監督の初作品であり、今作でもデモを暴動として描きながらも蔑視を感じさせなかった。
クライマックスの、ラスベガスのホテルや街路を貸し切って展開されるアクションも、単純に絢爛豪華な夜景を疾走するだけで映像として見映えするし、歴史で初めてという光景の物珍しさがある。カーチェイスで装甲車が次々に自動車をおしのけはねあげていく描写は斬新だし、地形の高低差をつかった装甲車の攻略も説得力あった。そうしてカーチェイスを終えてからの格闘戦は、直前のド派手さに比べると印象が落ちるのが残念ではあったが……