妻と休暇旅行中の亀山に、ふしぎな情報が入る。転落死の映像に杉下が映っているという。亀山は連絡をとろうとするがうまくいかない。
一方、杉下はインターネットやスマートフォンのつかえない地域のペンションに滞在していた。そこには怪しげな客が多く泊まっていた。
謎の半グレリーダー鮫島の失墜と再来、対立して鮫島の資産をひきだしたらしいバジリスクというハッカー。いったい何が起きているのか……
21期から参加している光益義幸の脚本で、かつてこのドラマの特色だった新鮮な時事問題をとりいれた軽妙なミステリをハイテンポで展開する。
ある客がペンションで氷をもらった時に印象づけたエプロンが同時に伏線として機能したり、その伏線の発揮される光景が古典的な物理トリックだったり、最新技術が制限された舞台ならではのレトロなミステリ展開が楽しい。情報が遮断されているといっても電話は通じるし、厳密にはクローズドサークルではないが、登場人物が制限されているからこその人工的なパズルストーリーの楽しさはあった。
以降も客からオーナーまで次々に違う顔を見せながら、謎の犯罪を追いかけ収拾するサスペンスが展開される。ペンションで発生する事件のスケールはちいさいし、けっこういろんな人間がワチャワチャ勝手に動きまわるし、名探偵が皆をあつめて推理を披露するパターンを連続させて構成がギクシャクしているが、ドタバタ感が全体のトーンにあっているので許せる。そうして序盤の推理で裏があばかれたかのように見せた人物に、さらに裏があったことが明かされて終わる構成もよくできている。二重底の下に三重底があることは気づきにくいし、序盤の推理の結果で語られた情報が終盤の推理でもひろわれて人物像の奥行きを出すことも忘れていない。
ただ、鮫島もバジリスクも中盤で視聴者に素顔を明かして、その先入観を利用したどんでん返しを終盤にしかけるのだが、そこで杉下が視聴者の知らない情報をもって現在の鮫島を指摘したことはマイナス。何も知らない亀山視点で事件を描いていたら問題ないが、今回は終盤で合流するまで別行動だし、その亀山も杉下のもっている情報にアクセスできる機会がありそうなのに視聴者に開示されない。すでに鮫島の死体が見つかっているという話は中盤のどこかで示しておいても解決編の意外性は演出できただろうし、同時に納得感を増すことができただろうに。