法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ボーン・アルティメイタム』

人間兵器ジェイソン・ボーンを生みだした、CIAによるトレッド・ストーン作戦。その謎をひとりの記者が追うなかで、現在はCIAと対立しているジェイソン・ボーン接触することになった。またCIA内部でもパメラ・ランディという女性が事態の収束をはかって奮闘していた……


2007年公開のシリーズ3作目。2作目*1につづいてポール・グリーングラス監督をはじめ、主要スタッフが続投した。

映画の三部作は2作目が最も良いというジンクスがあるが、このシリーズでは今のところ3作目が最も好印象だった。
2作目につづいてカメラの手ぶれはひどいが1カットが長くなり、映像に緊迫感をもたらしつつ見やすい。細かいカットをかさねる格闘戦も、全身が映るカットを適度にはさみ、殺陣の流れがつながって見える。
1作目をなぞったような2作目*2のカーチェイスとは方向性を変え、人々がゆきかう発展途上国の細い道をヘルメットもかぶらず小さなスクーターでとばす。このシチュエーションは斬新で、今にいたるまで他の作品でもまず見かけない。
くわえて、1作目と2作目でアクションに数少ない古さを感じさせた高所の綱渡りのような逃走劇が、今回から現代的なパルクールアクションへと移行。それでいて超人的で華麗なパフォーマンスはせず、適度に泥臭くてシリーズの世界観を壊していない。


序盤は、国家の陰謀を追求するジャーナリストにしては記者の危機対応が甘くないかと思ったりもした。気弱に見えて芯があるキャラクターとして描きたいなら、もう少し活躍を描いてほしかったところ。
とはいえ主人公が凄腕エージェントとしての能力が回復し、そもそも物語の展開のため終盤までは危機をきりぬけることが推測できる以上、サスペンスを展開するには主人公ではなく接触対象が組織の標的にされるシチュエーションにすることは正しい。
主人公をはじめ不都合な存在を消そうとしか考えず情報をたちきってしまうCIA上層部と、生存者と接触して情報をつきあわせて事実の輪郭を把握していくパメラ・ランディたち。
国家のためとして先進国が秘密裏に策謀をすることが許される時代ではないし、そもそもそうした陰謀は失敗の隠蔽と組織の腐敗につながるものでしかなかった。他国での勝手な活動が現地に迷惑をかけるだけでなく、現地の治安機関と衝突して作戦がうまくいかない問題も端的に描かれている。
2作目と時系列がこみいっている構成の意外性も良かった。2作目の結末では主人公が優位性を見せて勝利を印象づけるための接触を、たがいの情報を出しあいながら接触して信頼が築かれた場面として位置づける。文脈の変化で同じ場面がまったく異なる印象を生む。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:ただ序盤のカーチェイスが最終的に橋からの川落ちで終わり、水中のドラマにつながったのは良かった。このシリーズはどこかひとつ必ずアクションで挑戦的な描写をやってくれる。