法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 season20』第11話 二人

冠城の姉が、記憶喪失の老人を保護したという。頭部を負傷して公園にいたところを、少年たちが見つけたらしい。その少年たちは直前に撮影していた暴行事件の映像を知人に調べてもらっていたが……


2時間以上かけて展開された元日SP。社会問題で少年たちが魂をすりへらしていく姿に、ああ太田愛脚本だと感じる。監督は権野元が担当した。
以前の同脚本家による元日SP傑作回「ディーバ」は、血統を最重視する権力者に対して、血でつながらない人々が疑似家族となって抵抗した。
hokke-ookami.hatenablog.com
今回はそれを反転するように、記憶を失った無力な老人をめぐって、社会の強者から弱者まで利己的に動いて事態を混迷化させていく。
老人を保護するように同居することになった貧しい少年すら自己責任を語り、広く助けを求められず危機におちいっていく。


謎解きで楽しませるなら、無力な老人の正体をもっと視聴者から隠すべきとは思った。たとえば、一部で死んだと思われている重要人物と記憶喪失の老人は別個の事件と視聴者に誤認させるくらいしてもいい。今回は群像劇にしも個々人が思いつきで行動しているので、あまり複雑にすると理解しづらくなるという判断だろうか。
また、秘書が自殺してまで主人を守ったりもする現実を思い出すと、秘書が情報を隠して主人ととりひきするのは物語の都合を感じた。とはいえ、その主人と警察が対決する直前により大きな権力に近しい人物から切り捨てられているので、きちんと警察が追求することもふくめてエクスキューズは充分か。


そうして上層から下層まで利用しあう者たちが罪をかさねる一方、無私の友情がたいせつなものを危険から遠ざけたことで逆転に成功する構図は美しい。
結末で、老人たちはたがいを異性として意識し、小さな罪を重ねた男たちが肩をよせあい、貧しい少年を嫌悪していた母親も見識をあらためていく。
角田課長が老人の名前につながる情報を出したり、今回は伊丹たちとの協力関係も深かったり、全体として分断への抵抗と他者への信頼を描く物語として見どころがあった。


しかし、分断された弱者が目先の利益をもとめて個別にいろいろなものを失った物語において、唐突に登場したデモ隊が社会背景の伏線的な説明をしただけでしかなく、会社ではなく特命係にシュプレヒコールをあげただけで再登場すらしないことは引っかかる……これには制作現場に問題があったらしいと明かされたが。
あと、冒頭の会話で、子供たちのため政治家にがんばってもらいたいと語るのが甲斐峰明だと、どうしても「ダークナイト」を思い出してギャグに感じてしまう。当時きちんと1シーズンかけて伏線を引いてドラマとして面白味があれば、むしろ味わい深さのある描写になったろうに。
hokke-ookami.hatenablog.com