法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『バーニング・オーシャン』

2010年4月、巨大施設型の船舶において、メキシコ湾沖で石油の試掘をおこなう計画が遅れを見せていた。かさむ費用に石油会社の重役は不満をもらし、現場主任の頭越しに手順を飛ばして作業をいそがせる。重役の楽観が的中したかのように圧力テストは順調に進んだが……


バトルシップ*1や『ローン・サバイバー*2ピーター・バーグ監督による2016年の米国映画。史上最悪ともいわれるメキシコ湾原油流出事故の、発端となった炎上事故を描く。

原題は施設名と同じ『ディープウォーターホライズン』で、映画の雰囲気にあっている単語がならんでいるのに、わざわざ英題っぽい邦題をつけた意味がよくわからない。
施設の実物大セットを再現したことがアピールされているが、地上に設営して背景の海は合成しているし、巨大な塔など施設各部もVFXで追加修整している。とはいえ実際にヘリコプターが離着陸できる発着場を撮影のために作りあげたり、撮影セットの耐荷重を考慮して本物とレプリカを選択したりするメイキング風景はそれなりに興味深い。


映画としては定型をしっかり押さえていて、冒頭の家族とのやりとりで各人物像を見せて、会話のなかで舞台となる施設の位置づけを説明して、事故の予兆となる小さなトラブルまで描く。
1時間50分以上の尺だが、エンドロールに10分以上を使い、実際の映像をもちいた描写もあるので、実質的な尺は1時間半ほど。巨大セットにVFXを多用した大作ディザスター映画でありながら、無駄なくまとまっている。
いかにも劇映画な家族描写も必要最小限で、本筋に入ってからは海上と地上のコミュニケーション切断を表現する場面くらい。余裕のない脱出中に家族を長々と思い出すような不自然な場面はない。
そして利益優先で愚昧な会社と安全重視で実直な現場の対立構図をわかりやすく見せ、わずかな落ち度が事故の瞬間まで積み重なっていく様子をモンタージュ。石油噴出から施設が崩壊していくまでを描いていく。
炎上事故後の石油流出も描写されないが、『バトルシップ』での間延びした前半や、『ローン・サバイバー』での蛇足感があった終盤を思うと、事故からの生存劇にしぼった構成は監督の作風からして正しいだろう。
からくも脱出できた人員を確認していく結末から、実際の犠牲者のプロフィールを見せて虚構から現実へ橋渡しする演出も、定番だが悪くない。


ただ、巨大セットを逃げまどう俳優にカメラが寄りすぎていた感はある。もう少し事故の全体像もわかる演出もほしかった。
全貌がつかめないほど巨大な事故の雰囲気を観客に体感させる意図なのかもしれないが、終盤に危険をおかして移動して目的を達成しようとする局面で位置関係がわかりにくいのは迫真性まで下げていた。少なくとも作業員は施設の構造をかなり把握しているはずで、そこは観客も共有していいところだろう。
事故が施設の各部で起きている様子を断片的に見せているから、せっかく巨大セットを作ったのに個別のセットで撮影している感じが画面に出てしまったという問題もある。