法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『バトルシップ』

異星人がトラブルのためハワイから攻撃をはじめたことと、たまたま各国海軍による環太平洋合同演習が重なった。
バリアに閉じこめられた人々は、かぎられた情報と兵器をたよりに、異星人の侵略を失敗させようと協力する。


2012年のアメリカ映画。日曜洋画劇場での地上波初放映を視聴した。
2億ドル以上の製作費をかけながら、興行収入はのびなやみ、ゴールデンラズベリー賞にも複数ノミネートという結果となった。同時に、「バトルシッパー」という愛好家も生んだと聞いていた。
見てみると、酷評も愛好も理解はできる内容だった。


まず、どうしようもない主人公を描く導入が長すぎる。あまりにバカな行動とシリアスな演出が不協和音をおこす前半に『アルマゲドン』を思い出した。やたら物量を使った香港の破壊場面と、それが特に物語にからむわけではない適当さも似ている。
本格的な戦いが始まるのは開始30分以降だが、そこで主人公が艦長となるための流れも適当。主人公が海軍でそこそこ上の階級にいることも納得できないし、その後の戦いで艦長以下が戦死したから軍艦をまかされる展開も御都合主義。


日本の海上自衛隊と協力をはじめてから、強大な敵をトンチで倒していく戦闘は嫌いではない。
しかし、テンポが悪いのは難。製作費に余裕がありすぎたためか、1カット1カットが長くて、スローモーションも多用しすぎ。視聴者の予想したことが一呼吸たってから展開されるような遅さ。
そのトンチの質もかなり力押し。特に異星人はトカゲっぽくて、ヘルメットもサングラスっぽいからと、光に弱いという設定で二度も危機を切りぬける。それで意図せず助かったボクサーはともかく*1、異星人艦の窓をライフルで狙撃して日光を入れるのは、いくら何でも異星人の防御力が弱すぎだ。
ちょっと良い感じのB級映画は、カットごとの質は低くても、頭脳戦が考えなしでも、テンポでごまかしていくもの。この『バトルシップ』も映画の尺を半分くらいに切りつめて、製作費を十分の一くらいに抑えれば、もっと素直に楽しいB級映画になった気がする。


そして全ての軍艦が失われた後、退役していた戦艦ミズーリが復活する。
この展開は、正直にいえば好感すらもった。退役艦のあるハワイがバリアに閉じこめられたのも、それを稼働させられる退役軍人が合同演習でいるのも、すべてはこのクライマックスのためだと思えば理解はできる。異星人艦にレーダーが無効化されていることも、アナログな兵器がハンディキャップにならない前フリだったわけだ。
その旧来の戦艦が異星人と戦うというハッタリ満点のビジュアルに、錨を使って無理やりドリフトするハッタリが加わり、もう見ていて笑うしかない。


もちろん戦艦が異星人と戦う展開に、もっと自然で素直なSF考証が考えられないわけでもないだろう。
攻撃対象を選別しているらしい異星人の主観視点など、最後まで見ても無駄としか思えない描写も多かった。
とはいえ、最後の最後に見て楽しい絵を用意してくれた。それだけでも悪くないと思える作品もあるのだ。

*1:インデペンデンス・デイ』に比べると伏線がないとはいえないので、相対評価では悪くない印象をもった。