日韓共同でつくられたオイルリグに、ドリルシップが激突してしまう。海上保安庁の活躍で乗組員の多くを救出することに成功したが、悪天候に数人がとりのこされてしまった。政府は人命より国益を優先しようとするが、現場の潜水士は奮闘をつづける……
佐藤秀峰の海難救助漫画をフジテレビが映像化した、2010年の日本映画。公開当時はシリーズ完結編に位置づけられていたが、2012年にも新作がつくられた。
ほとんど訓練シーンに終始した1作目*1とちがって、全編が日本映画には珍しいスケールのディザスタームービーだが、早々に現場にとりのこされるのが5人だけというところが良かった。『ポセイドン・アドベンチャー』*2を思い出すシチュエーションだが、シリーズの集大成的な作品ながら災害描写が大味にならない。
荒波とヘリコプター、オイルリグ*3とドリルシップ*4の外観はフル3DCGで制作。海上保安庁の艦船シーンはおだやかな海面を3DCGで置換している。
もちろんオイルリグの内部や上部のヘリポートでは、工場のロケやセットも多用。特にオイルリグとドリルシップの接触場所の巨大セットは、油圧でゆれるドリルシップなども手間がかかっていて見ごたえある。うまく同じセットをつかいまわして場所移動が表現できていて、オイルリグ全体の実物大セットをつくった『バーニング・オーシャン』*5よりも空間が広く感じられた。落下物は全体的に軽い感じがあったが……
その『バーニング・オーシャン』の元となったメキシコ湾沖の原油流出事故の直前から制作が進み、事故後に公開されたという。実際には止めることが不可能なオイルブロウを自動制御や手動で止める描写が中盤にあるのは、あくまでフィクション。しかしオイルリグとドリルシップを行き来する展開がくりかえされるので、物語をわかりやすく示すためにも効果的。
物語は漫画にないオリジナルストーリーらしいが、軽い冗談を冒頭で描いて、タイトル直後からすぐ災害救助がはじまるスピーディーさはハリウッド映画でも珍しくて感心した。キャラクター説明が省略できるシリーズ作品ゆえだろう。
ただし残念ながら中盤で語りあう場面はいささか長すぎるし、陸にいる主人公の妻子が病院へ行く場面などはディザスター映画としては冗長さを生んでいる。個別の判断も無駄な葛藤で冗長になっていた。しかし終盤の救出シーンになると、新人の決意から一直線に物語が進んで、テンポの良さが回復した。オーディオコメンタリーによると終盤になると観客も救出されることはわかっているから省略したと説明していたが、良い判断だと思う。
しかしシリーズ作品らしい難点として、「つながっている」というキャッチフレーズを登場人物が口にする場面はどれも気恥ずかしい。アニメや漫画ならば成立するかもしれない決め台詞も、実写作品で唐突に登場しても面食らうだけだ。くわえて、吹石一恵の演じる医師が、驚いたときにいちいち「えっ」と発声するところが気になった。あまり俳優の演技を気にしないようにしているが、こんなに大根役者だっただろうか?
あと、新人の緊張をほぐすための冗談とはいえ、同性愛的な興味をいったん主人公が語り、実際は「ノーマル」だと笑い飛ばす描写は最悪。ホモソーシャルがホモフォビアで成立していることを実感させる。オーディオコメンタリーで釈明や言及すらない。
*1:hokke-ookami.hatenablog.com
*2:hokke-ookami.hatenablog.com
*3:日韓共同でつくられてロシアも協力しているという設定が公開時の時代性を感じる。実際の技術開発を反映しているというより、フィクションにおいて日本が単独で事態に向きあう状況をつくるためのパワーバランスのための設定というか。東日本大震災以前の映画という時系列も重要かもしれない。
*4:最初はオイルリグ同士が衝突する予定だったが、美術スタッフの意見を採用して変更したという。ふたつの艦船を行き来する展開もあるので、デザインで区別しやすくするのは良い判断だ。