法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『本格ミステリ・フラッシュバック』を読んでいたら

高橋克彦『倫敦暗殺塔』が、ロンドンに存在した博覧会「日本人村」を舞台とした不可能犯罪小説であることを知った。日本人自身の手で見世物にしたという差違があるとはいえ*1ベストセラー作家がとっくの昔に題材にしてたのか!
現在の作者は、虐げられた者の目線を大事にするいいひとがよくおちいるように、トンデモまで行き着いてしまっている。しかし、その裏返しとして作品の着眼点は素晴らしいことが多い。これは初期作なので極端にオカルティックな内容でもないだろう。機会を作って読んでおきたい。


他、題材への興味と本格推理の興趣が満たされそうな、手持ちにない未読作品を個人的に並べておく。いずれ目を通しておきたいが、時間が取れるかどうか……調べてみると、手持ちにある未読作品も多い*2
磯辺立彦『フランス革命殺人事件』は革命が恐怖政治と化していった時期のフランスを舞台とし、国王が幽閉されていた獄舎での連続殺人事件を扱う。綿密な時代考証と、起伏ある展開、意外な真犯人が読みどころとか。
木々高太郎熊笹にかくれて』は実在する「藤本事件」を題材に、ハンセン氏病をめぐる社会状況が引き起こした冤罪事件を解いているという。医学者として脚気の克服にたずさわった*3作者ならではの題材といったところか。
西東登『蟻の木の下で』は様々に並行する断片的な事件が、戦争への憤りへ収束していく佳作という。江戸川乱歩賞受賞作品であり、文庫でまとまっているのを見かけたことがあるが、その時は興味がわかなかった。
蒼杜廉三『戦艦金剛』は第二次世界大戦時の戦艦内で起きた密室殺人事件。以前から傑作との評は聞いていた。戦記短編小説を書いていた作者らしい筆致が良い意味で重苦しく、戦艦ならではの解決編が凄まじいものとか。入手難らしいので、図書館で探してみようかと思う。


あと、多くの名作怪作が紹介されている熱気に当てられて、思わず長編幻想怪奇推理小説のプロットを書き上げてしまった。肉付けをすればそのまま読めるものになりそうなくらい。これは形にしておきたい。

*1:差違があるから異なる問題というわけではなく、帝国主義の持っていた同じ問題が違う形で表出した例と解すべきだろう。

*2:知人からもらった文庫本の中に、斎藤栄奥の細道殺人事件』が混じっていたことなんて、すっかり忘れていた。

*3:あまり知られていないが、ビタミンを補ったパン、いわゆる「頭脳パン」の考案者である。