法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『砂の城の殺人』谷原秋桜子著

ついに富士見ミステリー文庫からは出されることがなかったシリーズ最終巻。主人公が奇妙なアルバイトを請け続ける理由だった父探しも、ようやく一区切りを見せる。
ただし本筋と父探しの答えがからみあってなく、とってつけた感も否めない。ミステリとしての面白さや怪奇趣味は充分で、どちらかというとライトノベルであったシリーズ作品として書かれたことが欠点と感じた。陰惨な殺人事件を前に嬉々として推理を披露する少女のキャラクターは、物語の怪奇な雰囲気との違和感をぬぐえない。ノンシリーズで出した方が楽しめたかもしれない。


物語は主人公が廃虚写真家の助手をつとめることになった場面から始まる。そして舞台は写真家の実家である豪奢な山荘。嵐で孤立して廃虚となった山荘に住み、主人公と友人は、写真家とその兄弟の遺産争いに巻き込まれる。くりかえされる密室殺人。動き回る死体。密室で鳴く猫。


まず廃虚に閉じ込められたクローズドサークルという発想が見事。広い屋敷を舞台としつつ、登場人物の数を少なく整理できる。入らない部屋が多いため、登場人物の行動も理解しやすい。携帯電話が通じないことのエクスキューズにまでなっている。もちろん、崩れやすい廃虚ならではのサスペンスにもあふれている。
過去の密室事件は安易な真相で、誰でも見当をつけることができるが、二番目と三番目の密室はそれぞれ推理が二転三転する上、かなり独自性が高い。
二番目の密室は最初と最後の推理で廃虚ならではの独自性あるトリックが示される。血痕の奇妙さを手がかりとして推理を進めていく手際もいい。そして名探偵の推理は、印象に残りつつも怪奇趣味を盛り上げる描写が手がかりとなる、意外性が高いと同時に得心できるもの。
三番目の密室で最初に提示される推理はわかりにくいが、最終的には明瞭な絵として浮かび上がる真相が提示される。落下の意味が反転する面白さが楽しめる。ただし残念ながら、途中の推理から犯人像が変化しないので、どんでん返しとしては機能していない。
真犯人の人物像は面白いが、設定が無闇と複雑、かつ伏線があからさまで見当をつけやすいので、あまり機能していない。ここはひねらず設定するべきだったと思う。


薄味のライトノベルシリーズから脱皮している最中で、ライトノベルの良さと悪さを残している感はあったが、作者の次回作には充分な期待が持てる作品だった。
あと個人的に、最近に思いついたばかりの推理小説と内容が似ていて、発想の類似と差違を比べて楽しめることができた。