児童文学作家で、広島での被爆体験を基に平和を訴えた那須正幹(なす・まさもと)さんが22日午後2時5分、肺気腫のため山口県防府市の病院で死去した。
視野の広い反戦メッセージを娯楽作品におとしこんだ作品として、架空戦記ジュブナイルとでも呼ぶべき『屋根裏の遠い旅』が印象深い。
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主人公達はテレビごしの戦争しか知ることはない。あたかも現代の日本人がベトナム戦争や湾岸戦争、イラク戦争をテレビでながめているかのように。
代表作については約一年前にOVAを見る機会があり、SFとしてのつじつまを壊すような物語のアレンジは残念だったが、おかげで原作の巧みさを実感できた。
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原作では女教師はきわめて個人的な目的をもって行動しており、時間移動装置も完全に制御はできない設定だ。トラブルが発生してもおかしくないし、収拾するために時間がかかっても違和感がない。
時代にあわなかった技術者の悲劇という源内の物語が、そのまま女教師の直面した戦争の痛みに重なるテーマが、原作ではつらぬかれていた。その一貫性がアニメからは消えている。
他にも代表作シリーズは印象深い作品が多く、上滑りしかねない強いメッセージ性を強度のあるエンタメ性と入念な取材が支え、補強しあっていた。
そうして現実の子供社会を舞台にしつつ多様な題材をとりいれていて、後期作品『緊急入院!ズッコケ病院大事件』では海外から侵入した感染症をあつかっている。
約20年前の時点でPCRという検査手法名を出しているディテールの細かさが、時を超えてさらに物語のリアリティを上げている。
メッセージ性の少ない作品としては、シリーズ2作目『ぼくらはズッコケ探偵団』でいきなり見せた短編ミステリとしての完成度が忘れがたい。
豪邸に飛びこんだ野球のボールから、割れたガラスと死体に出くわす三人組。事件と直接の関係はないかと思われたが、消えたボールの謎解きが意外な展開を見せる……
一種の不可能犯罪に近い状況であり、トリック自体は子供でも気づくような物理的な手法。しかしそのトリックを直接的な殺人にはつかわないところが気がきいている。
何より、アレがアソコにあったならナニがああならずこうなっていたことが奇妙だ、という伏線から犯人の状況と心理まで読みとく推理が美しい。
誤った推理が展開される多重解決ミステリのような部分もあって、薄いながら本格推理としての魅力は充分あった。