言葉とは、諸刃の剣と人はいう。
罵る言葉は錆びた剣。嘲る笑いは朽ちた斧。善意も悪意も差違はない、他者に身勝手な感情を理性を押しつける意味では。
慈愛に満ちた美しき聖女の声も、世をすねた孤独の者には詐欺師の口上と変わりない。
ひとすじの風が吹き、ゆるやかに変化が起こった。
耳に聞こえないほどささやかな風だったが、それは目に見えないほど細かい砂を舞いあがらせ、人々の鼻に飛びこませた。
風が世界の果てまで吹きわたった後、人々は自らの言葉が他者を傷つけなくなったことに気づいた。
しゃべろうとして口を開きかけると、美男も美女も鼻水をたらし、顔をしかめるはめになる。
むずがゆさに耐えかねて、少年はひとつ盛大なくしゃみをした。
むずがゆさに耐えかねて、老人は鼻を鳴らし、続けて歯ぎしりをした。
街かどで人々が出会うたび、声が響いた。それはすでに意味のある言葉とは聞こえず、猫の足音より早く右から左へ抜けていく。
誰もが相手の言葉に傷つくことなく、そもそも何をいわれているのかさっぱりわからなくなった。
「ふぃっくしょん、ふぃっくしょん」
「ぴーしーぴーしー」
何ら意味を持たない声の羅列が、今日も街かどでそこかしこから聞こえてくる……
いろいろ『ヘタリア』から関連する話題を読み書きしていて、ふと思いついた話だが、書くつもりは全くなし。
昔なら結末まで書いて、仕上げもしただろうと思うが、我ながら無駄な情熱を失ったものだとしみじみと思う。