法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『めぐみ』の感想

ついでに、3月28日に公開された啓発アニメの感想を書いておく。
アニメ「めぐみ」ダウンロード|アニメ「めぐみ」|日本国政府:北朝鮮による日本人拉致問題
北朝鮮拉致問題を啓発する目的で作られた広報アニメ。
監督は大森英敏で、コンテ演出から作画さらには題字まで手がけている。


アニメの技術面では、せいぜいTVの平均といったところ。啓発アニメとしては現代的なキャラクターデザインよりで、いくつかかわいらしいデフォルメ表情もあるが、全体的に作画修正が甘い。背景美術も実景の参考が多いはずなのに緻密さが足りず、平面的だ。


何より疑問なのが、脚本構成。
序盤の少女時代は悪くない。ただの優等生ではない描写で、アニメキャラクターとしても立っている。アニメの資料となった写真と映像で比べられる趣向もいい。
描写がおかしくなるのは、拉致されて以降。
拉致の瞬間を明確に描かなかったので感心していたら、工作船に閉じこめられて叫ぶ姿が出てきて困惑した。あくまで想像の産物なのだろうから、イメージシーンと注意する演出をするべきだったと思う。ありきたりな演出だが、工作船シーンの直後に横田夫妻が寝床から身を起こし、正夢に近い悪夢だったと示すとか、事実と推測を明確にわける方法はあった。
北朝鮮から死亡情報を渡された後の反応もまずい。娘が生きていると考える横田夫妻の根拠は、アニメで全く示されず唐突だ。もちろん、横田夫妻が娘が生きていると考える根拠は、現実でも薄弱ではある。しかし、だからこそアニメでは娘が夫妻の心情を念入りに描写するべきだったのではと、生存を信じていない私から見ても思った。
遺骨が別人という鑑定を無批判に持ち出すのもまずい。科学雑誌『ネイチャー』論文で疑問符がつけられていることは有名だ。


すでに拉致問題が何度も報道された後では、情報を閉ざして視野をせばめるだけの内容ではないか……と、見終わって思った。