法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『RAINBOW 二舎六房の七人』雑多な感想

安部譲二原作、柿崎正澄作画による青年漫画をアニメ化した作品。敗戦直後の日本、混乱を残す社会から疎外されて少年院へ行き着いた少年達の、苦悩と衝突と再生を描く。
さすがマッドハウスはこういう漫画をアニメ化すると本当にうまい。原作は序盤の少ししか目を通していないが、たぶん実直にアニメ化して長所を残しつつ、アニメの面白さも加味していると感じた。
実制作を担当したスタジオライブらしい健全さも感じる。起きている出来事がどれほど残酷でも、それを見つめる視線は優しい。林原めぐみ担当の抑制されたナレーションが効果を上げている。


前半における少年院での抑圧描写は、舞台や人間関係がせまいこともあって重苦しい。少年院側の人物像は誇張され、一見すると非人間的な悪役でしかない。しかし倫理観の高いキャラクターを途中で登場させたり*1、悪事をなした者それぞれに異なる末路を描き、単純化しない。
後半は、前半の重苦しさから開放されたため、主人公達がどれほど悲惨な目にあっても安心して見ることができる。前半の積み重ねのおかげで感情移入もしやすい。ただ、良くも悪くも緊張感が抜けていったともいえ、最終回などで駆け足すぎると感じる場面もあったかな。
後半で社会に出た主人公達は、それぞれの道を歩きながらともに助けあい、様々な苦難に直面しながら乗り越えていく。米軍基地で行なわれていた賭けボクシングや将校の愛人となっているパンパン、プロレス人気の勃興、街角の金貸しといった風景が描かれ、GHQ占領下日本の点描としても興味深いつくりになっていた。


映像もまずまず安定していた。止め絵演出に用いているフィルターが、タイトルを表すように薄っすらと虹色がかったようなパステル画調であるところなどが目を引く。
特別に目を引く作画は多くなかったが、必要な場面では充分に枚数を使って動かしている。特にボクシング描写は、神志那弘志監督が『はじめの一歩』で総作画監督をつとめただけあって、『あしたのジョー2』*2から連なるマッドハウスボクシングアニメの最先端を見せてくれた。その分、最終回のボクシングにはもう少しボリュームが欲しかったという残念さも感じたが。
個人的に興味深かったのは、同じマッドハウス制作のTVアニメ『黒塚 -KUROZUKA-』で絵コンテを担当していた許平康が、この作品でも連名ながら本編の絵コンテを担当しているところ。EDでは単独で絵コンテと演出を担当していた。

*1:口先だけの道徳性が批判され、現実の行動に移るという手順もきちんと踏まえている。

*2:注意しておくと、マッドハウス制作ではない。虫プロで『あしたのジョー』を作り、虫プロの後身であるマッドハウスにおいて腕をふるっていた出崎統杉野昭夫スタッフが抜け、トムスで制作された。