法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

鳩山邦夫法相の2時間

前回*1の続きとして、インタビュー全体から気になった主張を取り上げてみる。鳩山法相の死刑執行に対する覚悟の程度をうかがわせる部分だ。
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20080704mog00m010035000c.html

鳩山氏 死刑執行は大変厳粛な事実でございますので、そう簡単に決められることではない。そのために再審が開始される可能性とか、恩赦にあたる事実、心神喪失、裁判で間違いがなかったか、などを慎重に検討する。何十年もないが、かつて死刑囚の恩赦があった。このケースは、分離裁判で子分が死刑確定、親分が無期となっていた。「おかしいんじゃないか」ということで、子分を恩赦して無期懲役減刑した例があった。そういうことがないように。役人に検討させ、いくつか候補があがってくる。説明を聞く。その後、自分でも資料を読む。まあ、1件あたり2時間くらいですか。資料は持ち出せないから、大臣室にこもって精査する。みなさんが提案してきたなかでこういうのをやりましょうか、と決まる。

「2時間」ほどの「精査」で、人の生死を決定している点が興味深い。最初の記事*2にもふれられたように「執行を自動的に」と発言していたくらいなので、資料を読んですらいないのでは、と疑ったわりには仕事しているのだが……
杉浦前法相は、死刑執行への抵抗として、キャビネットいっぱいの資料開示を要求したという逸話がある。なるほど、2時間ですませたい時に刑事裁判資料を精査しようとすれば、充分な抵抗になるだろう。
ウェットを自称する人間のドライな行動。死刑執行の頻度を上げられた方法論、といったところか。

鳩山氏 私は真言密教の鹿児島最福寺の総代です。これは総代の数珠(と、手首にまいた数珠2本をみせる)。私自身は神道だが、池口恵観大阿闍梨からそこ(居間)にある不動明王をいただきました。不動明王は地獄に落ちた人を救うそうです。執行した後は不動明王にお参りしてます。

−−それは大臣、ひょっとして自分で地獄に落ちるかもと思われるわけですか。

鳩山氏 そうじゃなくて、そうは全然思いません。失礼だな。私は地獄に落ちると思っていない。死刑囚は普通天国にいかず、地獄に落ちるでしょうから(死刑囚を)導いてくれ、ということ。私自身のことじゃない。

天国と地獄へ行ける者を分類し、死刑囚は地獄へ行くと考え、自身は天国へ行けると断言する。死刑囚を自分とは違う人間と考えることで、命を奪うことに畏れをおぼえないようになるわけだ。
罪を犯す環境へ思いはせることをしないあたり、いかにも二世議員らしい発想とも思える。友人の友人にアルカイダを持つわりに、犯罪者への想像力が足りない。
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20080704mog00m010036000c.html

−−なぜ死刑賛成派は増えていると思うか。

鳩山氏 日本人は優しい国民だ。人の命を奪うことへの怒りが大きい。日本の生命観が縄文時代より一貫している。縄文の1万年は戦争はおきていない。武器を造ることも考えもしなかった。自然と共生。日本人はウエット。死刑廃止と聞くとなんてドライな人たちと思う。死刑廃止論はドライでかさかさ人たちの考え。人の命を奪ったんですよ。何人奪っても死刑がない、そんなドライな世のなかに私は生きたくない。それが日本の9割の人の考えだ。それはドライ過ぎますよ。

縄文時代は戦争がなかったという学説は確かにあるが、縄文人は狩猟採集で生活しており、もちろん武器も存在した。そもそも、縄文時代に死刑制度があったというわけでもないのに、なぜここで持ち出したのか。
死刑制度廃止を日本人特有の考えと主張しているかのような論理もおかしい。たとえばフランスで死刑が廃止された時も、死刑制度存置派の比率が多かった*3
だいたい鳩山法相の論理では、死刑制度廃止国がかつて死刑制度を持っていたことや、日本にも制度としての死刑がなかった時代があることを説明できない。各国の宗教観と死刑制度廃止には、直接的な繋がりがないと考えるのが自然ではないだろうか。

−−ドライというのがよく分からない。

鳩山氏 私の文明論を2時間聞けば分かる。(日本の文明は)森で起きた文明だ。夜にいろんな音がしている。神道は森のなかから生まれる。木や草はあたりまえだが、山にも川にも神がある。石ころにも。すべての命を大事にする文明だ。

先に仏教を持ち出して天国や地獄という概念を引いておきながら、今度はアニミズムを思想的な根拠に用いるあたり一貫性に欠ける。そもそも天国地獄の概念はキリスト教に多く由来し、神道や日本の仏教とはまた違ったものではないか。鳩山法相は宗教学者でもないので普通なら深く突っ込まないが、粗雑な認識で日本人論を語り、死刑制度の背景と主張しており、批判せざるをえない。
何より、法律論ではなく文明論が根拠という時点で不思議すぎる。この毎日インタビューは全体を読んでも、法律論を根拠とした死刑制度維持理由を語っている部分が存在しない。これでは宗教、信仰によってのみ死刑執行していると語っているようなものだ。


ところで、今回引用した箇所を比べて、首をかしげた人がいるかもしれない。なぜか死刑執行精査と文明論説明とで「2時間」という長さが同じなのだ。よもや、時間単位を適当にごまかそうとすると「2時間」と口にしてしまう癖があるのでは、などと思ってしまう。
何にしても、2時間という長さは、報道インタビューで詳細に取り上げることこそ難しいだろうが、けして意見を開陳する時に長いとは思えない。人権を持つ一人の命を奪う根拠を、たかだか2時間で決め、2時間で説明できると考える浅さが、恐ろしく感じてならない。


それにしても、あまりに意味不明な主張が多すぎて、解読するのも一苦労だった。いざ批判しようとすると、同じ文章に二重三重の問題点が見つかる。
鳩山法相の死刑執行を賞賛する人に解説してほしいところ。

*1:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20080709/1215644746

*2:http://mainichi.jp/select/seiji/news/20080704mog00m010029000c.html

*3:死刑制度が社会維持に必要ではないと、廃止してから実感したという順番だったのだろう。